第25話 OHANASHIするよ
収容所。ネーミングとしては不安を煽りそうだが(某第三帝国的な良くないアレとか)、実情は集中治療室であり、死神絶対お断りするマンの部屋でもあった。
私の幼女発言で描写するならば。
この寝台に寝かされると、潤沢な龍脈パワーで死の淵からでも無理やり蘇るよ!
四肢欠損? いえ、知らない子ですねー? ほら、五体満足だよ!
死にたくても絶対に死ねないよ! ついでに癌とかそういうのも治っちゃうよ!
……私は寝かされた武士たちを見回した。
まず、ボッコボコである。彼らが最後に戦った警備モンスターたちは、オーガキングとハイオーガとロックドラゴンだった。理屈抜きのパワー集団。力こそパワー。
開放骨折なんて可愛い方で、もう、ぐっちゃぐちゃ。カオティック状態。
スクランブルエッグ。失敗ハンバーグ。噛み砕いたスペアリブ。混ぜたビビンバ。
人類サイドの一般市民なら、彼らを見た瞬間あまりの凄惨さに胸がとめどなく込み上げてきて、口からキラキラした何かを噴出させるだろう。オロロロロローッ!
一方、私は平気。なぜなら彼ら人類の血を糧にする種族、吸血鬼だから。
「うわー。すっごいウンチのニオイー」
「生きているのがおかしい肉塊みたいな方もおられますので……」
「回復をもう少し待った方が良かったね。そうすればウンチも台に吸収されるし」
「人類は我々とは違い、とても脆くございますれば」
「装備もボロボロだねー。想像魔法で修復ができる何かを後で作ろっかな」
「もはや鍛冶屋もびっくりでございます……」
人類の、特にヒューマン族の小腸大腸の長さは小腸で大体2メートル、大腸が1.6メートルあるという。便臭は大腸が破れて漏れ出ているゆえのもの。戦場のニオイでもあり、血と臓物のニオイと表現されることもある。要はウンチのニオイだった。
しばし、退避。
想像魔法『秘密の花園』で自分たち二人をまるっと洗浄にかける。
染みついてきた便臭はあっという間に消え、フレグランスな花の香りが漂う。
たっぷり一時間ほど待って収容所に再入場する。
寝台に寝かされた30名の平城氏率いる兵たちはおおむね治療が終了していた。
さすが死神絶対お断りな回復施設と言ったところか。龍脈パワーは偉大である。
彼らは一様に褌一枚姿で横になっている。装備類は無人治療施設のはずなのにどこをどうやったのか、破損したままの状態ではあれど台の横に安置されていた。
念のため、全員の様子を見て回る。
昏々と眠らされている以外は、パンイチオジサンズに異常は見られない。身体洗浄もなされているので汗臭さすら感じない。ふむ、と私は頷いた。問題なさそうね。
「じゃあ、先にペナルティーを与えていこっかー」
「はい、お嬢様」
恒例の吸血&エナジードレインタイム。
咬みつかないよ。対象の腕に手を添えて指先から吸い取るよ。
今回は30人もいるため、私の場合は一人100ミリリットル×30となり、3リットルの血を頂くことになる。なので、さすがに多いので一口ずつ摘まむ感じで済ましていく。もっとも、エナジードレインは別。しっかり4レベルドレインしてやる。
セラーナも一口ずつ吸血の上、エナジードレインだけしっかり1レベルドレインをする方針でいるようだ。大人なんだから、もっと飲んでもいいのよ? あ、うん、オジサンズの血はちょっと趣味に合わないと。できれば童貞の男の子が良いと。
まあ、私も童貞の男の子の血は好きだけどね。でもそれ、超高級嗜好品だから。
余談になるけど、童貞オジサンの血は不思議とあまり美味しくないらしい。
「にゃあ。そういえば、随分とエナジードレインしてきたの」
「最初は1人、次は4人、更に18人。今回で30人の計53人でございます」
「カミラは4×53。212に元の350を足して562。見違えるようにレベルアップなの」
「ワタクシも元々の200に53を加え、253と相成りました」
「強いのは良いことだよね、セラーナ?」
「はい。力無き正義など無意味でございますれば」
おっとと。
この世界でもその格言はあるのね。
偉大なる哲学者パスカルが語った格言を。
『力なき正義は無意味であり、正義なき力は圧制である』
どれだけ正しさを主張しても、それに見合う実行力が無くては無意味という話。
「にゃあ。では、カミラの正義は成されたので、尋問と命令を為朝にしてあげよう」
「はい。今こそお嬢様の正義を振るうときでございます」
私たちは平城為朝が横たわる寝台へと向かう。
もちろん危険対策に対人特化吸血鬼固有スキルの魅了を使うのを忘れない。
えっ、見た目が三歳幼女なのに魅了なんて効くのかって?
前、効果あったでしょ? 性癖を捻じ曲げてでも魅了させるよ!
「為朝、起きなさーい」
「う……わ、我は一体どうなった……?」
「あなたは『私』のダンジョンに挑戦して負けたの」
「……そうであったか」
「そうなのよ。弱いのに無茶をするから。身体も装備もぐっちゃぐちゃだったの」
「過去形で言うには、我はどうなっているのであろうか」
「治したよ。ついでにあなたの膵臓に悪性腫瘍が見つかったからそれも治した」
「腫瘍……癌であるか。感謝する。あいすまぬ……」
「でもハゲてる人には言っておいてね。傷や病気は治ってもハゲは治らないって」
「ふふふ。薄毛には厳しい世界であるな」
「いっそ自分からスパッと剃髪したら誤魔化せるかもー」
「んっふっふっふっ。それは良い考え」
「良い感じになったところで、ちょっと質問するね」
「うむ」
「あなたより強い人は、このクニにいる? たぶんあなたが最強と思うのだけどー」
「そなたの言う通り、我がクニでの最強となろう」
「うん。じゃあ『私』たちについての事情を聞いてね」
「伺おう」
「あと数日もあればこのダンジョンは完成するの。その後しばらくしたら『私』たちはこの地から去る予定なのよ。迷宮も引き払うから安心してね」
「あいわかった」
「あなたには、というか、あなたのクニにもメリットがあるの。龍脈を活性化させたので今後10年は大豊作が約束されるよ。
「それは何より。しかして、引き払う、とは……?」
「なぜかこの地に転移してきたから、自分の家に帰りたいの。ただ、自宅まで距離が物凄く遠いからダンジョンを作って魔力を貯める必要があった。それだけなのよ」
「……我が領民を害する意図は初めからなかったと」
「そうよー。天変地異を起こすつもりもないし邪神を召喚するつもりもないの。ただ帰還のために、必要な魔力を貯めるためだけに、このダンジョンを作ったの」
「で、あるか……」
「帰るときは、クニの最高責任者のあなたには一報を入れるね。じゃあ、お眠りなさい。もう少し体力を回復させないとまだロクに動けないから」
「……治ったら例によって全裸で放り出すのだろうか?」
「もちろん。それがペナルティーの一つだからねー。ああでも、手に入れた宝箱の内容物はあなたたちのモノにしていいから。何が入っていたかは知らないけどー」
「うむ。逆に色々と世話になった」
「にゃあ。
尋問という尋問でもない私と為朝との会話を終了させる。
吸血鬼の魅了を使いつつの会話であるので、まるで旧知の仲のようにも見える。しかしこれはスキルの作用に過ぎないので気をつけよう。
本来ならば、絶対にこのような会話は成り立たないのだから。なお、今回に限り私は彼への記憶消去は限定的とした。会話の内容を覚えていてくれないと困るから。
私たちは、再び眠りに落ちた平城為朝を確認してから、収容所から立ち去った。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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