第23話 親分襲来!!!?

 18人全員強面オジサンズ――精鋭兵たちのダンジョン襲来を撃退してしばらく。


 私のダンジョンは成長を続け、なんとくだんのオジサンズの一連から僅か5日で地下八階まで階層を深めていた。深度が降るほどその成長は速くなるのだった。


 木火土金水の五行思想を元に、桔梗の花もとい桔梗紋に似た形の迷宮が地下へ地下へと構築されていく。桔梗紋は、前世戦国時代の土岐家や明智家の家紋でもある。


 龍脈から大地の気を汲み上げ、外気と混合し、螺旋状に降りつつ精錬、最下層のダンジョンコアへと保存されていく。なお、コアが設置された部屋は同時にダンマスの部屋であり、桔梗紋の中心部にして黄龍区画が私たちの生活区域となっている。


 侵入者トラブルはあれど、自宅帰還計画は滞りなく進んでいる。


 扶桑のこの地にある龍脈は驚くほど上質な大地の気を持っていた。後になって龍脈の質を精査したところ、ランク付けをするならS級相当であるとわかった。


 例えるなら前世での、イスラエルの民にシナイ山の神が約束の地としたカナアンの地みたいなもの。程度が分かりにくいかもだけど、それくらいスゴイのだった。


 そうやってダンジョンの管理をしつつ、セラーナと歌ったり踊ったりとお遊戯したり、ままごと遊びをしていると、遂に、本気の本気たるラスボス(彼らからすれば私のほうがラスボスで魔王かもしれない)が最精鋭部隊を引き連れて現れた。



「にゃあー。来るのは分かってたけど、もう少しインターバルが欲しいよ」

「凸する人数も増えてますし」


「ダメだと思ったら引いてみるのも戦術のうちなのにー」

「引くに引けないのでしょうねぇ」


「もー!」


「うふふ、ご立腹なお嬢様。御身の芳香に怒りの成分が混ざってこれはこれで」


 

 セラーナはブレないなぁ。と、思いつつダンジョンコア越しに鑑定をかける。


 平城為朝ならためとも。平城氏当主。レベル128。皇家より預けられた扶桑のヘソ、大和のクニを護る氏族の長。扶桑皇国には十三の代表氏族がある。大和のクニはかつての都の地であり、現在の北部隣の京都キョウノミヤーコの盾となる最有力氏族でもある。


 氏族当主が来ちゃったよ!


 しかも彼らの中で一人だけレベルが突出している(彼以外の人員はレベル100が最高だった)。頭となる者は一番強くないといけないを地で行くタイプのようだ。


 最大戦力の平城為朝の他に、頼朝よりとも為房ためふさ昌景まさかげ義綱よしつな、と一族が連なっている。前者二人は彼の弟で、残り二人は伯父と叔父であるようだ。


 ちなみにこのダンジョン攻防のきっかけとなった当主の息子の名は朝成ともなりという。


 彼らは当主平城為朝を中心に五の部隊に分け、自分自身、頼朝、為房、昌景、義綱を隊長に六人一組を編成している。総指揮はもちろん為朝。合計30名。大部隊をもって侵攻するのではなく、選りすぐりの人選をもってことに当たる。


 当主以外の平城氏五人のレベルは95から100の間だった。彼らが指揮する兵の平均レベルは80。人が一生をかけて至るレベル観点から、拠出できる最高の兵と理解。


 ただしオッサンばかり。オッサンばかりです! 大事なので二度言いました。


 平均年齢は余裕の四十路半ば。全員ヒューマン男。顔が総じてゴツい。なまはげみたい。殺気漲る、ヤバイ鬼瓦集団。むくつけきヒゲ加齢臭集団(超失礼)である。


 念のために断っておくことに、ダンジョン攻略は戦争のように兵站と兵数と装備で戦うのではなく、攻略者のレベルと装備――要は個の力が重視される。千や万の兵数など、ダンジョンではホント無意味なのだった。罠で一掃できちゃうし。



「物語に出てくるような、ビジュアル優先の戦士なんて都市伝説なのね」

「ヒューマン族は特に。現実とは無情でございますね……」


「そりゃあエルフとか、天使とか、一部ではフェアリーとか。あとはカミラたちみたいな吸血鬼に強い憧れを持つ人が絶対に一定数いるのがわかるよねー」


「世間様では美形の代表格でございますゆえ」



 ダンジョンコア越しにも感じる、独特の熱気。武士たちが放つ殺気。あと臭気。


 部隊編成も紹介しておこう。


 太刀武士、槍武士、槍武士、弓武士、神官、魔術士。平城為朝の部隊。

 太刀武士、弓武士、弓武士、斥候(盗賊)、神官、魔術士。×3編成。先行部隊。

 太刀武士、槍武士、弓武士、修道拳士、神官、風水士。風水部隊にして予備部隊。


 以上、計五部隊。太刀武士は先頭の平城氏の面々が受け持っている。

 どういう意図で不利な太刀を選ぶのか。こだわりなのか、文化の違いなのか。


 いずれにせよ私は彼らを全員ノックアウトする。そして裸でお引き取り願おう。



「……おや、お嬢様。こちらをご覧になってください」

「んー?」

「彼らの首魁が、私たちに向けて何か語っているようです」

「ふーむ? せっかくなので聞いてみよう」



 私はダンジョンコアに平城氏当主の映像をクローズアップさせる。



『――我は扶桑皇家より大和のクニを預かる平城氏族当主、平城為朝である。誇り高き大和のクニで蛮行を欲しいままにする邪悪なる仙術士よ。我は寛容である。今からでも遅くない、投降せよ。その方の力は十分に見た。だが、もう終わりだ。これより最高武力を以ってその方を討つ。我らに勝てると思うな。しかしてその方の能力の高さを刀の錆にするのは惜しい。ゆえ、投降せよ。決して悪いようにはしない』



 おおー。と私は感心した。


 何がって、投降勧告をした上でリクルートまでオマケにつけているからだった。

 さすがは氏族をまとめる長といったところ。器の大きさを見せてくれる。


 今ならまだ許してやれるから降って俺の配下につけ、かあ。


 イイね、それ。格好良いよ!


 でもね、それは無理な話。私には自宅へ帰るという目的がある。

 そもそも私、邪悪じゃないし、仙術士でもないし。


 ――人の生血をすする吸血鬼だし。


 魔国にも、もちろんヒューマン族はいる。彼らは私たち吸血鬼についてよく理解している。魔国のヒューマン族は、自分の住まう国で売血すれば結構なお金になることも含めて吸血鬼を理解している。天然の人の生き血は高級嗜好品なのだった。


 でも、これは魔国でのお話。


 国外では吸血鬼はまず理解されないだろうし、むしろ怨敵扱いとなろう。


 ママ氏の故郷、神聖アーデルハイド教国などは聖女たるママ氏を堕落させたとして以来不倶戴天状態らしい。まあこれは、国にとっての政治的兼ね合いやら種々の軋轢も加味されるので単なる種族的諍いとは言い難いものがあるけれど。


 そんなわけで、個人的にはこのオジサンの心意気は嫌いではない――のだけどね。


 目的と彼我の実力が合致しないのが残念。せめて、私より強くないとダメよ。


 もうね、やるならやるで、とっととダンジョンに入ってきなさい。

 私の警備モンスターたちで盛大に歓迎してあげます。


 来いよベネット状態でもあります。



「返答は、いかがいたしますか?」


「……セラーナ」

「はい」


「怪物は、身振り手振りを含むあらゆる会話が成り立たないから、怪物なのよ」

「……」


「併せて恐怖とは、意思疎通のできない相手から特に強く感じるものなの」

「……はい」


「正体不明、会話不能、人族は理解できないものを極端に恐れる。ならばそうしてあげるの。決着がついた後はともかくとして、今のカミラは謎存在でいいの」


「……悪役ムーブ、でございますか?」

「にゃあ。そういうことなのよ」



 私はセラーナの膝上で、パタパタ足を揺らした。ちなみに特に描写していないが、基本的に私はセラーナの膝上が定位置みたいになっている。セラーナはそんな私を背中からくんかくんかすーはーしたりしつつ、私の相手をしてくれている。



『……その方の決意はしかと受け取った。後悔のないよう、精々気張ると良い』



 無反応の私に対し、ダンジョン入り口の平城為朝は、すらりと太刀を抜き放った。



『皆の者ッ、征くぞッ! 天下に悪逆を目論む不埒者を討ち取るのだッ!』



 応ッ!! と為朝の号令に応えた鬼瓦みたいな強面のモノノフたちは、部隊ごとに整然と足並みを揃えて私のダンジョンに突入するのだった……。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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