第22話 みたび、侵入者!!!

 先日やって来た4名の冒険者たちは時間稼ぎのためにもなるべくゆっくりと回復させて、そうしてパンイチ――下着姿でダンジョン外へとポイしてやった。


 くどいようだけど、情け容赦ないとは思わないでほしい。


 可能な限り、私は無駄な殺害はしたくない。理屈ではない。のだ。

 でも、それでも。私の目的の邪魔をするのなら、こちらにも考えがある。

 私の目的は自宅へ帰ること。そのためには長距離転移ゲートが必要になる。

 なにせ現在地からわが公爵領まで8500キロ近くあるから。ホント大変なのよ!


 だから、邪魔する人には、殺しはしない代わりにペナルティーを与える。


 血を吸って、同時にエナジーレベルドレインして、装備を剥いで裸でポイ。


 心配はいらない。死ななきゃやり直せる。死んだら終わり。ジ・エンドよ。

 アンデッドの自分が言うのも変だけど、生物は生きてこそなのだ。



 あれから数日、龍脈から汲み上げられる大地の気は地下2階層に増えた影響でより効率良く精錬が可能となって精製精度が向上し、ダンジョンコアに蓄積されていた。


 そのおかげで、現在の私のダンジョンは地下4階構成にまで成長を遂げている。


 しかして螺旋の精錬効率を上げて理想値を得るには、最低地下10階は必要だった。


 そうすればコアに蓄積された魔力は亜神気レベルまで昇華して、そうであれば転移ゲートも生成可能となるはずだった。魔力の1万倍の濃度と精製度が亜神気。神気は奇跡の源。一般的に不可能とされることでも、神気レベルになると話は別になる。


 はあ、それはともかく。私はひっそりとため息をつく。


 家族が、恋しい。


 ああ、パパ氏とママ氏、そしてカインお兄ちゃんに会いたいよ。


 でも、なんだか、帰ったら帰ったで面倒事が起きてそうな予感もある。

 魔帝陛下あたりが動きそう。人工的にダンジョンを造れるのは、魔王だけ。

 仕方なかったとはいえ、私、ダンジョンコアを創ってしまったし……。


 ああそれでも、早く帰ってみんなに抱きついて、イイ子イイ子とかされたい。

 幼い子供の喜びを全身で味わいたい。この、庇護される喜びよ。

 かつて、転生前の私は成人していたはずで。記憶がおぼろげではあれど。


 成人とは、一人前ということ。ニート? そんなの知らない子ですね。

 とまれ、大人は自らの行動をすべて責任に負えるということ。


 翻って今の私は大人の責任からフリー状態。親や兄に護られて良い立場。


 だからか、この庇護される喜びの貴重さは、何物にも代え難く……。



「にゃあー。みゃあー。にゃあー」

「唸ることで無聊を慰める。ああ、おいたわしや」



 てーんてーんてーん、ててぇてーん、ててぇてーん。



「侵入者にゃー。来るのは分かっていたけど、もう来ちゃったのね」

「はい、そのようでこざいますね……」



 私はダンジョンコア越しに侵入者を確認する。


 太刀武士、太刀武士、槍武士、弓武士、神官、魔術師。

 太刀武士、槍武士、槍武士、斥候(盗賊)、神官、魔術師。

 太刀武士、槍武士、修道拳士、神官、魔術師、風水士。


 6人×3組。計18人。平均レベル65。年齢層30~40代。備考。全員ヒューマン男。

【ポイント】

 装備は多少なり改造されているが、基本的に一律支給された良品である。

 彼らは全員、平城氏に仕える選りすぐられた精鋭兵たちである。



「侵入者の数が、一気に増えた」

「先立ての冒険者たちが裸で戻り、探索失敗の報告をしたのでしょう」


「それで間髪を入れず、彼らにしてみれば本気の精鋭を送りつけてきたと」

「はい、お嬢様の予想の通りでございましょう」


「むっさいオジサンばかりなの。男でも、少しは美容を気にすべきなの」

「た、たしかに、おっしゃる通りですねぇ……」



 彼ら扶桑(の平城領地側)にしてみれば一流どころを送りつけたのだろう。

 ただし、むくつけきオッサンばかりである。総髭面。凄いね、鬼瓦みたい。



「見てるだけで汗と加齢臭と口臭が漂ってきそうなので、さっさと始末なの」

「地下二階辺りまで侵入を許しそうです」

「みゅう。慢心せず、首狩り族の本気にこちらも対処するの」



 しかして、今回の侵入者はレベルのわりには健闘をした。

 本当に慢心しないで良かったと思うほどに。


 経験からのモノなのか、とかく堅実確実に歩を進めてくるのだった。

 特に、斥候と風水士の使い方が上手かった。

 各属性区域には、必ず玄室が一つ用意されている。

 玄室とは、一種の中ボス部屋みたいなもの。

 つまり一階層につき、最低でも五回の戦闘を強要するわけで。

 これに加えて巡回型の警備モンスターと、各種の罠が待ち受けている。


 彼らのパーティは6人3組に分けられているが、実質行動は18人での一塊だった。

 斥候を先行させ、罠を解除し、風水士がこれを属性的にサポート。


 風水士は区画における属性を利用した、攻守織り交ぜる独自のスキルを使う。

 併せて、風水士の存在でとある情報がバレてしまったのだった。


 このダンジョンが五行思想に基づいていることが彼らに知られてしまった。

 つまり、自然発生ではなく何者かの手で構築されたものとバレたわけで。


 となれば、どんな目的のダンジョンなのか、情報が絞られてくるというもの。


 曰く、龍脈の平和的利用。実は単なる魔力炉。

 曰く、龍脈を巣食い、大地を枯らそうとしている。

 曰く、龍脈を暴走させて大地震を起こそうとしている。

 曰く、汲み上げた龍脈の気を精製し、邪神を召喚しようとしている。


 正解は最初の魔力炉利用なのだけれど、まあ、普通は悪い方にしか考えないよね。

 上に立つ者は常に最悪を想定せよ。理由なく楽観視するな。なのだった。


 むしろ、私のダンジョンのおかげで龍脈が更に活性化してより豊穣を呼ぶだろう。


 もちろん得体の知れない何か(誰か)による得体の知れないダンジョンなど、不安の種でしかないのもわからないではない。私が扶桑側でも同じ対応をすると思う。


 ちょっとこれまでの経緯について考えてみよう。


 まず運が悪かったのは、ダンジョンを構築してすぐに第三者にバレたこと。

 しかもこの一帯領地を支配する平城なら氏の跡継ぎの少年にバレてしまった。

 彼は私の警備モンスターに健闘むなしく打倒される。回復後は、裸で外にポイ。


 まあ、相手が誰であれ、ダンジョンが完成していたなら安心してタワーディフェンス的な展開を愉しめたのだけど……。成長中のダンジョンなど不安要素しかない。


 次ターン。相手(平城氏)は冒険者を雇って私のダンジョンに送り込んできた。

 これは中々の慎重さ。本来なら瞬間湯沸かし器の如く怒り狂って、精鋭兵をかき集め凸させてもおかしくない。なんと言っても家と跡継ぎの面目が潰されたのだ。

 どういう政治回りをしたのかは知らないが、冷静なところが逆に怖い。


 さらに次のターン。

 満を持して精鋭兵を送り込んでくる。全員ヒューマン。全員オジサン。計18人。

 意外と少ないようで、セラーナが言うには人類は一生を掛けてもレベル80も行けば御の字らしく、それで考えれば30代から40代で平均レベル65というのは相当に高い部類となろう。ひと言で言えば本気。マジもマジ。そういうことらしかった。


 と、いうわけで。


 彼らは善戦し、ダンジョン地下三階まで侵入記録を伸ばした。

 その後、地下三階最初の玄室で、ダンジョンコア生成エンジェル部隊とレッサーデビル部隊が織り成す天使と悪魔、相反するエロティック(?)四次元殺法&炎属性巨大スライムの爆裂ボンバイエバイツァ・ダストにて一気に壊滅していた。


 先ほども少し触れたが、彼ら精鋭兵の戦い方は中々に面白かった。


 鎌倉武士と言えば自らの名を名乗り合って個々で命のやり取りをする、誉れに生きる高潔な戦士というイメージが強いし、私もそういうものだと思い込んでいた。


 が、ここの彼らのやり方は某対馬なゲームのあのお方のような戦法だった。そう、堅実確実に、しかも使える手段はなんでも使う。勝つためには卑劣さも辞さない。


 そっと私の警備モンスターに近寄って闇討ちしたり、もちろん暗器も使ったり。

 警備モンスターには発動しないトラップを自らわざと発動させて、それを上手く警備側に押し付けて弱体化を狙ったり。で、斬ったり突いたり撃ったり焼いたり。


 うーん、ここまで来ると、心地よいほど潔し。


「誉は浜で死にました!」


 とか叫んで欲しい。ぜひ希望。


 それでも、彼ら、全滅しちゃったんだけどね。どうしようもないね。

 Tsushimaの某ジンさんはやっぱり異常に強かったのだなぁ。


 そんなわけで、収容所に叩き込まれて回復中の彼らを、私たちは血とレベルを頂いて今回もこれにて終了となる。意外と頑張っていたので彼らは一様に裸に剥いてしまえど、玄室宝箱で手に入った装備や金品だけは彼らの元に残しておいてやった。


 その装備や金を巡って諍いを起こすのも良し、当主に献上、詫びるも良し。


 近いうち、どうにかしてリベンジしようと相手が動いてくるのは確実だろうけど。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る