第17話 上手くいきそうかも?
私はくだんのGPS魔道具指輪を指から外してジッと見つめた。
リングの材質は銀と思われる。だけど、それにしては不思議な感覚が……?
小さな深紅の宝石が2個、ちまっと取り付けられてもいる。ガーネットだろうか。
このように、ただ観察するだけではわかることなどたかが知れている。
なので、独自の鑑定スキルを想像魔法で作ってしまおうと思う。構成する物質から始まり、いつ造られたか、誰が作ったか、具体的にはどのような特殊効果が付与されているか、などなど。テレビゲームのステータス画面みたいにわかるとなお良し。
『不思議な第3惑星』
うん、どうやら上手く想像魔法が発動したみたい。
ただ今より『不思議な第3惑星』が、私だけの鑑定魔法スキルとなった。
さあ、指輪を鑑定してみよう。
◆◇◇◆◇◇◆
指輪の材質。最上位魔法銀――最高純度ミスリル15グラム。99.999999999%
宝石。ブラッドティアーズ計1カラット。泡沫となりし人魚の、最期の涙の結晶。
付与魔法。経度緯度座標探知、座標発信。対物理・対魔術・対魔法軽減75%
備考。カミラ・ノスフェラトゥ専用。該当の人物以外がつけると呪いで死ぬ。
作成者。ヴラド・ツェペシュ・ノスフェラトゥ公爵。愛する娘のために。
価格。これ一個で国が買えるのに、指輪を売るだなんてとんでもない!
◆◇◇◆◇◇◆
なるほど、なるほど。いやはや、随分と無茶な魔道具だなぁ。
座標発信詳細。ここで言う座標とは惑星の球体座標のこと。なお、魔国基準。
経度について。魔国スレイミーザ帝城を抜ける南北の線を0度(子午線)とし、東西それぞれ180度まで表す。東回りを東経、西回りを西経と呼ぶ。
緯度について。赤道を0度とし、南北へそれぞれ90度まで表す。余談だが北緯90度は北極点であり、南緯90度は南極点となる。一般的に北極より南極の方が寒い。
現在、私ことカミラ・ノスフェラトゥの座標は、北緯34.4度、東経107.2度。
おや? 東の端にしては経度が低いのでは? と思ったら実はこの扶桑皇国と呼ばれる島国、島と呼ぶにはそぐわないほどの国土があり、前世世界でのオーストラリアを三廻り小さくした広さを持っていてしかも東北東へゆったりと伸びた似非日本みたいな形をしているのだった。島の東端は東経136度。以降、海が続くのみとなる。
更にコッソリつけ加えると、この国の海を隔てた北方には大陸が伸びており、ちょうど地球のユーラシア大陸ライクにアーチ状の島々が存在していたりする。
東の端とは一体何だったのか。私的にはちょっと意味が分からない。
まあ、東へ東へ進んで海を越えたら大きな島があったなど、そう勘違いもするか。
話を戻そう。
座標についてはよく理解できた。なので次、行ってみよう。
セラーナが言うにはデータは『定型の容量をそのまま発信している』らしい。
なので、その定型容量とやらがどれほどのものか調べてみようと思う。
『不思議な第3惑星』
「……ふむむ。セラーナの言う通り、100バイトの容量を内容にかかわらずパックで送信しているみたい。みゅう、想定外の利用を見越して余裕を残したのかな?」
「100バイト、とはいったいどれほどの情報を送れるのでしょうか」
「基本は一文字1バイトだよ。地域によっては2バイト使うところもあるかも」
「ちなみに私たちが扱う言語ですと、如何様になりますか?」
「たぶん一文字1バイトでいけるねー」
「……ああ、よかったです。それではある程度まとまった文字数を送れるのですね」
「にゃあ、そうだねー」
余談になるが、日本語は全角の場合一文字に2バイトかかるのだった。
さて、精査を続けると座標送信にかかる基本は最低15バイトで、多くても25バイトだとわかった。つまり残り75バイト分の文字はフリーで詰め込めるわけで。
「さっそくこちらの状況を送りたいけれど……どこをどうすればいいかな?」
鑑定をより詳細に行使していく。すると、偶然にもアドミニスター(管理者権限持ちユーザー、つまり私のこと)としてのメンテナンスモード項目を発見できた。
下手に操作するのはさすがに怖いのでやめておくとして、それでも表示される鑑定スクリーンを通せば座標定型容量に文字を書き加えるくらいはできそうだった。
「にゃあー。これならば、うん、なんとかなりそうー」
「公爵閣下を初め、公爵夫人、小公子様、使用人一同に至るまで、絶対にお嬢様の行方を心配しておられますので……」
「うん。それにセラーナの行方もね、みんな心配してるよー」
でもなんて書こう? 75文字は多いようで意外と少ない文字数だった。
最小限でかつ最大限の情報を、送る。相反していて難しい。
幼女思案中……。
カミラ セラーナ ブジ キカンノタメ ダンジョン コウチク
マリョクヲタメ テンイゲート サクセイヨテイ シンパイシナイデ
空白部分を除けば約50文字。ただしこれは日本語なので、現在の言語とはまったく違うのだった。そもそもこれ(全角記入)だと100バイト以上使っちゃうし。
どうにかこうにか単語をやりくりして文字を詰め込み、そして送信を待つ。
一定時間ごとに自動的に座標が送信されるのだった。その間隔はだいたい5分毎。
「こちらの状況を送ってみたよ。これだけで伝わるといいのだけど」
「大丈夫です。お嬢様のお父上、公爵閣下はきっとわかってくださいますよ」
「うんー」
「少し、休憩をなさいませんか? 働き詰めは御身に宜しくありません」
「うん」
「そして私はすーはーいたしまする」
「みゅう。ほーんと、セラーナはくんくんするの、好きだね……」
「一生お嬢様の香りを嗅いでいたいです(キリッ)」
まあ先ほどからずっとセラーナの膝の上に座っているのだけどね。
彼女の身体へ私は背中を預ける。ふう、と息をつく。
そんな私の肩口に幼女吸いのために顔面を埋没させるセラーナ。
だんだん遠慮がなくなってきているので、手綱を締め直さないとなあと思う。
魔力炉ダンジョン中央部、黄龍。
数時間、私は薄目を開けて、運営されているダンジョンの様子を見守っている。
現状、つつがなく、着々と魔力は貯められていっている。
もっとも、長距離ゲートを作成し、転移するとなれば一ミリも魔力は足りない。
神様くらいの魔力があれば……いや、神様は亜神気か神気を扱うのだっけ。
亜神気は魔力の1万倍の純度なのだった。神気は亜神気の更に1万倍。
それだけあれば、自由にどこへでも転移できるだろう。異世界へも行けそう。
前世の今際の際に神様(だと思う。きっとそう)に私は願いを叶えてもらった。
それもキッチリと、一分の隙もなく、完璧に。
それがゆえに、私はプチ私つえーな冒険を強要――と言ってはおかしいか、しかして意図せず突然転移からの冒険が始まってしまう変な体質を得てしまった。
もう少し、これ、どうにかならないかな。
パパ氏やママ氏、お兄ちゃんに心配をかけてしまうよ。あと使用人たちにも。
うーん、と考えているうちにうとうととしてきた。
どうやらお夜寝(昼寝)の時間らしかった。
如才ないセラーナは空間収納より子ども用の棺を取り出した。
自宅(自城)では、私は天蓋付きベッドで眠っている。
生まれの地では、そのまま人間のように眠っても平気なのだった。
が、ここは異邦の地。
産土を練り込んだ特殊な棺の中で眠らないと自身が弱まるおそれがあった。
吸血鬼としての格は高くても、まだ小さいお子ちゃまだからね。
もう少し大きくなれば、何カ月も眠らなくても別に平気になれると思う。
私は棺に潜り込む。
中はシルク生地を折り重ねて作ったマット風が敷かれてふわふわだった。
枕を頭に、私は添えられていたコーモリぬいぐるみを抱いて目を瞑る。
「どうぞ仮眠なさってください。90分後にお目覚めさせていただきます」
「うん、よろしくねー。ああでも、侵入者があれば起こしてね」
「はい、承りました。では、お休みなさいませ……」
セラーナは棺を閉じてくれる。そうして、私は、眠りを貪った。
作者オマケ注釈。
主人公は想像魔法について概ね理解しながらも、実はそれでは不十分なのでした。
というのも、物語の設定上の定義を明確にいたしますと。
想像魔法の創作可否には、理屈や理論はまったく必要としないのです。
あんなこといいな、できたらいいなという『想像力』と、じゃあ実際に作っちゃおうという『能動的欲求』で魔法は発動します。まさしく万能の願望魔法なのです。
彼女の魔法は、限りなく奇蹟に近い何か。チートとはかくあるべし。
つまり現状の彼女は、自分で自分の限界を決めてしまっているのです。
さて、彼女はこのことについて、いつか気づく日が来るのか……。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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