第16話 ダンジョン運営と魔物たち

 一般的に、ダンジョン内を巡回する警備の魔物――いわゆるエンカウントモンスターは、すべて、例外なくダンジョンコアにて生成された存在であった。


 ここで注意点を一つ。


 ダンジョンコアにて生成されたモンスターたちは、何であれ一律『魔物』扱いとされる。たとえば天使を生成しても、それはダンジョン産の『魔物』なのだった。


 特徴的な長い耳にほっそりとしたエルフの少女であっても、彼女がダンジョンコアによって生成された存在ならば、例外なくダンジョン産の『魔物』と分類される。


 要は、神様の手から離れて生まれた生命体は『魔物』カテゴリーに入れられる。

 なのでどんな『魔物』であれ、ダンマスダンジョンマスターの下僕と扱って問題にならない。


 極端な話――


 フランケンシュタインの怪物は決して人間扱いされないのだった。

 つまりは、そういうことらしい。怪物、なのである。

 これは差別でも区別でもなく、神と世界の、そういう決まり事らしかった。



 ……うん。魔物生成について続きを語ろう。



 生成コストは龍脈を通して行なわれるため、自身の魔力消費は驚くほど少ない。


 が、それでも限度はあるもので。



「まだ地下一階しかダンジョンは作っていないし、龍脈からの気の汲み上げも始めたばかり。なので比較的弱い魔物を配置するんだけど……むむむ、悩ましいー」



 魔物はダンジョン内を警備させるためにも巡回、または徘徊させねばならない。となれば、流動数を満たすには思ったよりたくさんの員数が必要になってくる。


 これがコスト的に、馬鹿にならないのだった。収支をキチンと定めないと……。



「お嬢様、それならば玄室には魔物を常駐させまして、巡回警備のそもそもの魔物の組数を減らしましょう。代わりに、罠類をたくさん用いてはいかがでしょうか」


「にゃあ。いわゆる機械警備させるのね。良いアイデア。魔物数を減らしても警備の質は一定以上を保てる。それ、採用しようー」



 セラーナの助言を聞き入れて、早速そのようにする。ダンジョンコアにモリモリ罠を作成させて次々と設置する。コスト面でも魔物生成よりずっと安価である。


 我が家(ではないけど)のセ○ムは容赦なく致命傷を与えてくる凶悪仕様。

 いわんや機械警備で、邪魔な侵入者をシャットアウト!



「うん、これで良い感じだね」

「お見事でございます」



 設置したトラップは飛来系の弓矢・短槍・毒針に加えて落とし穴、吊り天井、水責め、火攻め、電撃、警報、神経系・糜爛びらん系毒ガスなどなど。本気で殺意高いよ!


 なお、当然ではあれどダンジョンを警備する魔物たちにはトラップは発動しない。



「これで魔力収支を様子見つつ、定量を満たせば階下拡張してより凶悪かつ強力に龍脈かるの気を練成、魔力化させられるの」

「はい、お嬢様」



 とりあえずは満足のいくものができたとしよう。

 私たちはダンジョンコアを通して、運営されるダンジョンに注視に勤める。


 ちょうどいいので配置された魔物たちを少し紹介していこう。


 まずはファンタジー系物語で、出演すれば最弱か最強かのどちらかに極フリされがちなゲル状生物、スライム。某ドラゴンなクエストでのマスコットキャラ。

 彼らは低層階では無属性の雑魚モンスターとして存在させている。階下に行くと分けられた五相に準じる属性を持つようになり、凶悪化していく予定である。


 お次はウルフ系統から、ダイアーウルフをチョイス。大きさは1.5メートル弱。

 最低6匹から。多いとダース単位にも。集団戦術を使う、低層階での鬼門。狙われたらどこまでも追いかけてくるよ! 彼らは足が速いので逃げられないよ!

 階層を深めれば各区域に分けられた五相に準じた属性を持ち、より凶悪化する。


 更に、ゴブリンたち。低階層では兵士と隊長とたまにシャーマン(魔術師兼僧侶)。

 繰り返し断りを入れるに、ダンジョンコアにて生成されたクリーチャーは一律『魔物』と扱われる。魔国で普通に市民として生活している小粋で楽しい性格の亜人ゴブリンとは全然別物となる。低階層では革の鎧にショートソードなど簡素な装備をつけているが、階を重ねるごとに装備・練度が高まり、戦闘力が凶悪化する。


 どんどん紹介しよう。お次は姫騎士の良き相方でもあるオークたち。

 彼らも魔国では普通に市民として暮らしている亜人ではあるが、このダンジョンでのオークは別物。要するに『魔物』である。低階層では兵士と兵長クラスのみ。階層を深めれば規模が大きくなり、将軍や君主クラスも出てくる。凄く強いよ!


 コボルトたちの配置を忘れてはならない。

 ゴブリン、オーク、コボルトはファンタジー系の三大人型クリーチャーだと私は認識している。コボルトは犬型の亜人。これまた魔国では普通に市民として生活しているが、当ダンジョンで生成されたコボルトは例外なく『魔物』扱いとなる。

 必ず複数人数で行動し、息の合ったチームプレイを得意とする。階層が深まると短弓士や双剣士、占星術師、祈祷師などの独特のジョブを持つ者も出てくる。


 現状、配置できる魔物は以上の五種類。


 巡回警備タイプの魔物はエンカウントしても比較的小集団だが、玄室常駐タイプはちょっとした軍部隊となる。少なくとも一個小隊、20~30体は待ち受けている。


 なお、これはダンジョンの特性上ダンマスとしてはどうしようもないことに――


『玄室の魔物を全滅させたら、一定確率で宝箱がダンジョンコアよりギフトされる』


 のだった。中身は金銭だったり、戦った相手の装備類だったり。


 そう。ウイズでザードリィな、玄室での魔物討伐後のアレとよく似た感じ。


 もちろん宝箱には各種罠が設置されている。開けるには盗賊的なスキル持ちがいないと危険なのは言うまでもない。低階層でも、最後まで殺意マシマシなのである。



 ダンジョン経営を始めて半日。

 侵入者はナシ。今のところは順調に龍脈からの気を精錬できている。


 警備の魔物たちも私の命令を遵守、不意の有事に対しても万全で望めるだろう。


 問題があるとすれば。


 そう、ノスフェラトゥ家では、今頃大変な騒ぎになっているだろうということ。


 私の指につけられた指輪型の魔道具は、GPS的なモノだと以前紹介した。

 が、あくまで座標をパパ氏に教えるだけで、通信まではできないのだった。


 この魔道具、改造できないものか。


 いかんせん一万キロに近い距離を伴うので、まともに通信できるようにするとなれば、かなりの出力を持たせた高難度通信魔道具制作となるだろう。


 身の安全を確保し、帰還のための魔力炉ダンジョンも作ったことで少しは自身にも気持ちの余裕はできた。やはり遠方の知らない土地でサバイバルとなると気が休まらない。まして見た目は三歳児幼女。実際は生まれてまだ半年と少しである。



「うーん……この魔道具指輪の受信システムを利用すれば、連絡できそうだけど」



 想像魔法は存在そのものがチートに満ちたユニークスキルだった。

 が、想像が想像たるに、良い発想が浮かばないとイマイチ上手く発動しない。


 もちろん、咄嗟かつ必死であれば魔法が発動する場合もある。たとえばパパ氏と魔苦死異無との対決の際に発動した『荒涼たる新世界』などがそれにあたる。


 一度でも発動すれば、以後、いつでも魔法として使えるのだけどね……。



「にゃあー。何かアイデアー。みゅー。出てこなーい」

「お嬢様……ご自宅への連絡方法ですが、魔道具で思い出したことがございます」

「にゃ!? 聞きたい聞きたい!」


「お嬢様の愛らしい指にはめられた魔道具指輪は、装着者の座標を一定時間ごとに受信機に送るのですが、と聞いた覚えがあります」


「つまり?」


「定型の容量、仮に30の文字を通信で送れるのに、20の文字しか送っていなければ容量的には10文字分の隙間が発生するわけでして。それを利用できれば……」


「なるほどー!」

「お役に立てたでしょうか?」


「すっごく!」


「ぺろぺろさせてもらっても?」

「それはダメー!」


「しくしく。くんかくんか、ああ、お嬢様いい匂い……」



 いささか変な会話も混じったが、アイデア的には十分だった。

 セラーナは膝上の私の首筋に鼻を当てて幼女臭を堪能している。あっ、腋なんか嗅いじゃダメだから。そのうち足指とかおへそとかのニオイも嗅いできそう……。


 この人、前世はワンコだったのではなかろうか。ああでも、お付きメイド全員が私の体臭を嗅ぎたがっていたし……はて、そんなにも良い匂いなのだろうか。


 ふと思い出すに、源氏物語、光源氏の(血の繋がらない)息子である薫の君はそれはもう良い匂いがしたらしかった。


 実際は奇跡的に良い匂いのするワキガだと思われるが、その清純な香りのおかげもあってか女の子にモテモテであったそうな。


 私もある意味で、同族の女の子たちにモテモテだよ(妙な対抗心)!!


 とまれ、私はパパ氏から貰ったGPS魔道具の詳細を調べることにした(素に還る)。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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