第15話 ダンジョンマスター始めました
「セラーナ、さっき読もうとしていた絵本を読んでほしいの」
「かしこまりました、お嬢様」
「お膝に乗らせてね」
「もちろんでございます、すーはーさせていただきます」
すーはーはしなくていいから。なんで普通に幼女臭を嗅ぎたがるかなー。
うちのメイドたちは乳臭い匂いを好む独特のフェチが多い。
それはともかく、絵本を読んでもらおう。
「昔々、古代の中つ国では、龍の気脈を整えるとても偉い仙人がおられました」
以下世界観概略。
気脈洞仙と呼ばれる仙人は気脈洞穴――ダンジョンを構築し、また『龍の気脈』を用いて大きな力を振るい、その周辺地域の弱った大地の相を整えていた。
大地の相を整えるとは、正しく気の流れを循環させ大地を安定化、すべての生物に住み良い世界を創り上げる行為を指す。要は健全な環境システムの構築である。
ただ、龍の気脈は星の気脈でもあり、非常に大きな力を秘めていた。
だからたまに地震が起きたり、怪物が噴出したり、色々と不味いことが起こる。
時の支配者は、自分たちよりも遥かに強大な力を扱う洞仙たちを恐れ、また同時に、彼らの持つ強大な力の根源たる龍の気脈――気脈洞穴を欲するのだった。
それがゆえ、支配者たちは洞仙をあることないこと、悪し様に扱った。
『強大な地脈を使って天変地異を起こす邪悪な導師』として。
『人々を惑わし、国を分断させようとする天魔』として。
『万の魔物を従える絶対悪の魔王的な何か』として。
時の支配者たちの嘘は、民衆を容易に洞仙たちを悪役へと貶めた。
そうして彼ら支配者たちは、龍の気脈を制御する洞仙から力を奪おうとする。
「――そんなわけで、嫌がる弟子の黄龍くんは、お師匠様の参界導師に無理やりつれられて、弱った大地の整備・復活を手がけるのでした。おわり」
「……え? これで終わりなの?」
「あ、はい。この絵本には続きがございまして、全12巻構成でございます」
「じゃあ次はヒロインと出会って仙獣を妖怪と見誤れて逃げられたりするのね」
「御存じなのですか? その通りです。ヒロインの佐久良と出会うのですが……」
「ううん、なんとなくそう思っただけー」
いや、その昔、前世の私がセガサターンで遊んだゲームとそっくりだから。
それはともかく、絵本を読んでもらって思いついたことがいくつかあった。
『El・DO・RA・DO』
『虚空の迷宮』
『荒涼たる新世界』
ダンジョンを魔力炉として運営するための案が整いつつある。
三つの魔法の内、強制二分の一化させる『荒涼たる新世界』は使わないとして。
その代わりに『地獄の皇太子』と『PLANET / THE HELL』を案に組み込もうと思う。両方ともキーワードが『地獄』なのがいかにも魔族らしいでしょう?
ちなみに地獄は、魔国ではスリリングなレジャーランドの扱いになっていたり。
話を戻して『地獄の皇太子』は龍脈を用いて『魔物』を生成し、ダンマスとして彼らを統制、ダンジョンを護らせる支配系統の想像魔法だった。魔物を生成するとはいえ、エネルギー源は龍脈頼りなので私自身の魔力消費は軽微なのが特徴となろう。
次いで『PLANET / THE HELL』について。これは龍脈の気を吸い上げて練り上げる、施設魔法にして想像魔法だった。五行思想を取り入れてダンジョン内部で気を螺旋循環させ、地脈を精練し、より純度の高い力を魔力利用しようと考えている。
肝心なのは、そんなの『出来るのか』ではなく『やり遂げる』意志と気概である。
不幸中の幸いにも、崖山の傍にかなり太い龍脈が走っているのが分かった。
『El・DO・RA・DO』
『虚空の迷宮』
『地獄の皇太子』
『PLANET / THE HELL』
私は想像魔法を連続して唱える。否、四重並列詠唱であった。
覚悟していたことに、連続で唱えるにはかなり魔力の消費が大きい。
見た目三歳児の幼女には大変だぁ。ブラッドブドウジュースが飲みたいよ。
しかし、最終目的の自宅へ帰還のためには頑張らないとね……。
「お嬢様、ブラッドブドウジュースでございます。少々お疲れの御様子、どうかご休憩をお取りになってください。すーはーすーはーイイ匂いですぅ」
なんとも準備が良い。気立ての良さはメイドの必須条件だなと思う。
セラーナの膝の上に相変わらず座る私は、ストロー付きのグラスを受け取った。
ちゅー、と中身を吸う。ブドウと精製血液のコラボレーションが堪らない。
ちなみに、私はセラーナにすーはーと肩口を吸われている。幼女吸いである。
「セラーナは、カミラのニオイがそんなにも好きなのー?」
「もちろんでございます。依存性マシマシ。ずっと嗅いでいたいです……っ」
休憩がてら、興味本位に訊いてみた。だってこれ、ほぼ
すると、上気した良い笑顔で答えられてしまった。聞かなきゃよかった。
「お嬢様の高貴な香りは、私を甘く束縛してなりません。至福です……っ」
「あ、うん。それは良かった……で、いいのかな?」
「はぁぁぁっ。可能なら、全身をぺろぺろし尽くしたいです……っ」
「ぺろぺろはさすがにダメだよー」
鳥肌。なんだか怖いのでこれ以上話題に触れるのはよしておこう。
小休止を終えて、わが手の中を見る。
標準的なビー玉ほどの大きさをした、深紅の珠がゆらゆらと光を湛えていた。
ダンジョンコアである。先ほど唱えた4つの魔法の集大成がコレ。
作成したばかりなのでまだ小さい。が、これを成長させると大きな力への触媒となり、約8500キロ離れた自宅への転移ゲートもいずれは造れるはずだった。
「ダンジョンを再構成するよ。現在のそれを五分割と一つに。中央には黄龍区画を据える。周りには木火土金水の五行思想に基づいた迷宮をそれぞれ配置。これらの接続は専用ゲートを用意。入口は土の相より始まり、階下へは火の相にて降るとする」
ダンジョンマスターとして、ダンジョンコアに命令する。
中央の黄龍区画は運営上のバックルームとも言い換えられる。いわゆる魔物、迷宮スタッフの生成・待機の場と、各5つの迷宮の相への裏道でもあった。
ダンジョンは木火土金水の五行思想に基づいてはっきり五分割された形となる。花で例えるなら桔梗の花弁のような星型を模り、区画がそれぞれの相を与した迷宮となり、その上で中央の雌しべに黄龍区画を据えたと言えばわかりやすいだろう。
重要事項。このダンジョンは龍脈の力を、より強く精製させるためのものである。
私の思惑的には『土気』から『金気』へ移動、更には『水気』から『木気』へと専用ゲートにて接続して最後に『火気』から下の階へと向かうようにしたわけで。
こうして地下10階くらいまで作って『螺旋状』に龍脈の気を練り上げる。ただしややこしいので五行構想は相生のみ採用し、相剋は据え置きとする。
なお、まだ出来立てのため、現状は地下一階のみの構成だったり……。
ついでに、某名作ダンジョン経営ゲームとは異なり、陽気を精製したり仙丹を作ったり陽気を龍穴炉に納めたりなどはしなくても良い。中央の黄龍区画より汲み上げられた龍脈は、入口の土気の相を起点に五行の各相を順に巡って階下へと下り、螺旋状に気を練り上げつつ最下階のダンジョンコアに自動的に納められていくのだから。
なお、入口の土気の相より外気を取り込み、龍脈と合わせてより効率的に練り上げられてもいく。内気と外気は、取り混ぜて一つにした方が強いのだった。
大切なのはダンジョンコアを護ることもそうだが、五分割されたダンジョンの各相を壊さないよう龍脈からの気を練り続けることが運営上の必須案件となる。
そうやって『汲み上げた龍脈の大地の気を螺旋循環にて精錬し、集めた力を魔力変換、転移手段を確保して自分たち二名を自宅へ帰還させる』のが目的である。
いくら想像魔法でも、超長距離転移は魔力量的に無理なのよ。
目的達成のためには魔物を生成してダンジョン内に放ち、施設の警備をさせ、必要あらば侵入者を排除することも厭わない。排除とは、殺害をも含む行為である。
とまれ、ダンジョン運営は大変なのだった。
「にゃあ。そろそろ龍脈から大地の気を汲み上げて迷宮中に満たし、生成した魔物を内部に放流なの! 魔力炉ダンジョン運営を開始するよ! 覚悟はいーい?」
「はい、覚悟完了でございます!」
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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