第14話 まずは安全な場所の確保から

『リーン大陸の東の島。扶桑ふそう大和やまとのクニ、平城なら


 扶桑って要するに日本のこと? かの国にはたくさんの別名があるんだよ。


 扶桑ふそう瑞穂みずほ蓬莱ほうらい大和やまと八洲やしま秋津洲あきつしま瀛州えいしゅう、すべて日本を指している。


 でも創作された物語でも普通に扶桑の国が出てきたりするし、ほら、たとえばパンツじゃないから恥ずかしくないと宣うあの作品とか。それはともかく、大和のクニは奈良のことなんじゃないのかなと……平城もこれ、実はナラとも読めるんだよ……。


 予期せぬ地名に、私は知らずの内にうむむぅと唸る。


 まあ、冷静に考えずとも、違うよね。そんなわけあるはずがない。

 この世界と、かの世界は全然まったくの別物。いわんや、異世界である。



「……東の果てに独自の文化を開花させた島国があるそうですが、もしかしたら」

「それ、詳しく、教えて欲しいの」


「はい。その国の名も扶桑扶桑皇国と呼びます。皇家と呼ばれる国の長は存在しますが象徴としての存在でしかなく、それぞれ皇家より下賜された氏名うじなを持つ武士たちが分割された『クニ』を治め、外敵が来ようものなら一所懸命にて敵の首を狩りまくる戦闘民族の国なのだそうです。かつて大陸の東を暴れ回ったモーコ兵が船団で襲来した際、逆にモーコ兵を追って首を斬って追い詰めて首を斬って船を燃やして首を斬ったとか」


「うわあ……」



 なんという首狩り族。武士怖い。みんな薩人マシーンじゃないのさー。


 とにかく場所は把握したとしよう。あと、扶桑皇国は封建制度の国である、と。


 それよりも、だった。あることに気づいてしまった。



「うん、どうやら急ぎ、この場を離れて安全な場所を確保しないといけないみたい」

「と、おっしゃいますと?」 

「東の端へ転移してしまったことで、ある問題に直面しているのー」



 私は空間投影されるマップの右上を指さした。


 4月20日 午前4時32分



「マップ表示の右上にある時刻が、朝の4時半になってるの。マリーとお休みの挨拶したのは夜の9時半くらいだったのよ」


「なんと。瞬時に思えた転移が、実は7時間近くも過ぎていたというのですか」


「違うのー。これは時差なの。星は自転するので、東の端の国へ移動したことで星の位置的な問題で時間が7時間ほど早くズレが生じたの」


「時差でありますか」


「15度ズレるごとに1時間ズレるの。つまり、7時間×15度で105度。カミラたちがいた場所から、星の座標で大体105度東へ移動したことになるの」


「な、なるほど……?」



 うん。これは、いろいろと拙いかもしれない。

 何がって、もうすぐ暁が差し込む夜明けが始まるのだから。


 吸血鬼は、太陽と仲良くできない。


 私は大丈夫。陽光を受けても気持ち悪いなぁと思うだけで済む。

 しかしセラーナは違う。孫眷属になるため吸血鬼としての格が低いのだった。


 彼女は陽光を受けると、それこそ一瞬で消滅こそしないけれども、代わりにジワジワと弱火で炙られ続けるDoT(ダメージオンタイム)を強いられる羽目となろう。



「まずは救援を求める前に陽光避難から。安全確保を第一に考えるの。セラーナ、左手の……ううん、このマップで見える西側にある崖山へ行くよ」


「は、はい!」


「変怪はできるよね。コーモリさんになって飛んでいくの」


「はい!」



 私たちは姿をコーモリに変えてばっさばさと、崖山のふもと目掛けて飛行する。


 しかし避難するにしてもどうすべきか。私はフルに思考を巡らせる。


 思いつくのは崖山に洞穴があれば、そこに入って日没をひたすら待つという案。

 いささか消極的ではあれど、行動は次の夜にすべてをかけるわけで。


 ただ、肝心の洞穴がなければどうするか……。


 崖山の側面を想像魔法で強引に掘るか。それとも、民家を探すか。

 仮に民家を見つけたとして、私はどうするべきか。


 無人ならまだしも人が住んでいたら。奪うのか、諦めるのか。


 高貴なる者の義務として、低位の者を護らねばならない。ノブリスオブリーチェ。

 たとえ三歳児ボディのロリっ子で、普段は生活をお世話されていたとしても。


 肝心なときに役に立たない高位貴族など、存在価値の根本から否定されよう。


 これはまだ言ってなかった話、実は前回の転移でパパ氏からGPSビーコン的な魔道具を手渡されていた。それは一見すれば子供用指輪だった。が、中身は距離に関わらず精細な座標が示される魔力が付与されている。パパ氏の創造魔法の賜物だった。


 ただ、問題があるとすれば。あまりにも遠すぎる点が挙げられる。


 大前提として、この星が地球とほぼ同じ大きさとしようではないか。

 あえてわかりやすく地球準拠でモノを例えていけば。


 仮に、北緯36度、東経140度の東京から西でも東でも1度だけ移動するとしよう。

 それは、距離にして、大体80キロメートルほどに相当するのだった。


 現在、私たちはノスフェラトゥ家から惑星レベルで約105度移動した座標にいる。

 なお、緯度は参考程度に東京の『北緯36度』を利用させてもらう。


 1度は約80キロ。ここから105倍。

 80✕105=8400キロ。


 偉大なパパ氏の、その転移魔法であってもさすがにここまで遠いと厳しい。



「にゃあ……。プランBしかないよね。洞穴を見つけるのではなく、ダンジョンを作って魔力を貯めて、それでどうにかして二人を元の城へと転移させる……」



 よくよく考えればダンジョン自体は簡単に造れるのだった。

 想像魔法の『虚空の迷宮』を使えばいい。

 でも、それだけでは、閉鎖された『単なる迷宮』でしかなくなる。


 必要なのは、成長する迷宮。魔力に満ちた迷宮。要するに、生きた迷宮。


 つまりどういうことかというと。 


 ダンジョンを構築後、どうかして魔力を貯めて、まずは迷宮の規模を成長させ、しかしてそのためには魔物を跋扈させるのを忘れずに、ともかく運営するのだった。


 他に有効な手段もあるかもだけど、急を要する現時点ではとても思いつかない。



「ひとまずは試さないとねー」



 私たちは崖山のふもとにたどり着いた。コーモリ変怪を解き、人の姿へと戻る。


 時間的にあまり余裕はない。早速、私は崖山に手を付けて想像魔法を唱える。


『虚空の迷宮』


 まずは兎にも角にも安全確保を優先する。バキバキと崖山の側面を掘り進む迷宮が構築されていく。デザイン参照は某ウィズでザードリィ1作目の一階部分とする。



「にゃあ。セラーナ、早く入るの。そろそろ暁が差し込んでくるの」

「は、はい。お気遣い、感謝します」



 私たちは急いで、出来たての迷宮に侵入する。


 内部はヒカリゴケっぽい何かで薄く光源を確保されていた。

 私たちは夜目が利くのであまり意味ないけれど……。


 直進して角を曲がり、門扉を抜け、中央ホールにたどり着く。


 ふー、と二人して安堵の息をつく。

 時刻は午前5時少し前。暁が夜の帳を吹き飛ばしにかかっているはず。


 セラーナはというと、空間収納の魔道具にて如才無く収納していた、転移時に座っていたソファーを取り出してどうぞお掛けくださいと私にかしずいていた。



「ひとまずは、これで安心なの」

「はい、お嬢様」


「でもこのままではダメなの。ジリ貧なの」

「はい、お嬢様……」


「なので、ここでダンジョン運営をして帰還に必要な魔力を貯めようー」

「はい、お嬢様……っ」



 セラーナ、セリフはすべて同じなのに感情の入れ具合が全然違って面白い。うん、そんな余裕を醸している場合ではないとは分かっている。さてどうしようか。


 まずは、なにはともあれ。

 ダンジョンコアを作るべきなのだけれど。


 どうすれば魔力を得られるか、アイデアが浮かばない。


 取っ掛かりがあれば、後はなし崩しに『想像』できちゃうのだけどなぁー。


 複合魔法などはどうだろうか。


『El・DO・RA・DO』――迷宮を閉じ込める専用の小箱を生成。

『虚空の迷宮』――迷宮生成の魔法。規模はドラクロワ伯爵の城デモンズキャッスルとほぼ同じ。

『荒涼たる新世界』――端へ移動すると二分の一効果が発動。永遠に辿り着けない。


 これらは魔苦死異無を閉じ込める迷宮を作り上げた際に使った魔法だった。



「うーん……何かヒントが欲しいにゃあ……んんん、そういえば……」



 ふと、転移前にセラーナが手にしていた絵本を思い出す。


混沌ちえの種、仙窟活龍魔大戦』


 これだ、と私は思った。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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