第13話 たぶんこれが正解なんだけど
前世の今際の際に、私はこう願った。
病気にならない不死身のボディが欲しい。むしろ逆に生命や血を支配するくらいの存在になりたい。……ええ、なりました。吸血鬼という形で。無病息災です。
次の生はぜひ美男か美女で。……ええ、パパ氏とママ氏のおかげで美少女です。
前世世界にはそこそこ進んだ科学はあれど魔術や魔法などの心躍るロマンがなかった気がするので、実行力のある魔術や魔法のある世界に行きたい。……ええ、来世というか、今世は魔術も魔法もアリアリの
そして、最後。これが一番の問題点。
「以上の条件で、節度を持ったプチ私つえーな冒険でも楽しめれば言うことなし」
このひと言かな? 私、死を前にしてこんなこと願っちゃったわけね? というかそれ以外なさそう。覚えがあるので自分としては如何ともし難い気持ちだけど。
神様が死の目前の私の願いを叶えてくださって、転生して、現在に至り。
しかしてその一部が、未だ現在進行形で叶い続けていると。
……なるほど。
これまでの推測を加味すれば、この転移現象の原因はパパ氏の言う通り私にある。
正直、推理モノで実は私が犯人でしたみたいな気持ち……。
真実はいつも一つのジッチャンの名に賭けて。死神探偵ズ、面目躍如。
混ぜるな危険!
まあ、頭を抱えるのは後でもできる。
次なる問題。転移発動のトリガーについて考えてみよう。
単純に思うに、要は冒険がしたいという願いに奇跡は反応するのではないか。
あのときの転移も、魔苦死異無のドラクロワ伯爵宅(城)への侵入が発端だった。何せ某ゲームの如く自称とはいえバンパイアハンターがやって来たのだから。
それで、私は眷属を大事にするパパ氏と一緒に応戦に向かおうと、パパ氏に許可を求めた。相手は自称とは言えバンパイアハンター。下手をすれば自身が狩られかねないのに、それでも冒険心に心を躍らせてしまったのがトリガーではなかったか。
『冒険したいなぁ=条件を満たしました=転移発動しまーすギュイーンッ!』
そういう感じでファイルアンサー? え? 結論のネタが古い? そんなー。
「承知いたしましたお嬢様。では、冒険心を楽しめる絵本を幾つかご用意いたしましょう。タイトルは『アンデッドガーディアンヒーローズ』『プリンセシア・クラウン』『
「あ、うん」
どうやら独り言を拾われたらしい。優秀なお付きメイドが気を回したようだ。
ちなみにお付きメイドの主任はノスフェラトゥ家の孫眷属たるクリストファー子爵家の令嬢で、名をセラーナという。いわゆる
さて、さて。
推論からの結論付けは一応完了した。いくら冒険心に転移反応すると言っても物語には反応しないだろう。何せ、架空なのだから。ゼロに何を掛けてもゼロのはず。
そして、それ以上に用意された絵本に興味が湧いた。どう考えても絵本向きのタイトルではないところが……特に3つ目とか、そもそもが幼児向きではなさそう。魔国ではこういう類のモノが絵本スタンダードになるのだろうか。
というか物凄いセガサターン臭がする。大好きなハードだったなあ。
『アンデッドガーディアンヒーローズ』←むしろラノベタイトル。あとサターン臭。
『プリンセシア・クラウン』←かろうじて絵本タイトルになるかも。あと以下略。
『
もっとこう、絵本と言えば『かさじぞう』とか『シンデレラ』とか『あかずきん』などと単純なネーミングが多いのに、ある意味『攻めている』というか。
しかし、これはこれで内容が気にならないといえば嘘だった。大いに気になる。混沌の種とか、それってかの名作ゲームのカオスシードではなかろうか……。
『汝……願イ……ヨウ……』
「お嬢様に読み聞かせをさせていただいても、宜しいでしょうか?」
「じゃあ、お願いなの。セラーナ、あなたのお膝に座るけど、いいよね」
「もちろんでございます。はい、どうぞお掛けください。では――お、お嬢様!?」
「……にゃふ?」
◆◇◇◆◇◇◆
「……あれ? あれれれ? ここ、どこー?」
「こ、これは一体……? て、転移、でしょうか……?」
気がつけば、私たちは、知らない場所にいた。
まずは落ち着くべき。
ハイ深呼吸。鼻から息を吸って口から息を出す。すーはー、すーはー、すーはー。
吸血鬼に、生命活動としての呼吸は、必要としないけど。
あと素数は数えなくていい。私にはあんなの無意味。余計に混乱する。
ひとまず、ゆっくりと周りを見る。
夜の野外だった。すぐ傍には数アールほどの規模の池が、暗闇の中で水面を静かに湛えている。その周りを囲むように森が広がっているのも見て取れる。
バンパイアは夜の魔族でもあるので、暗闇も良く見通せる。
目線を上げれば、左前方に妙に不自然に切り立った崖山を確認できる。よくわからないが、ファンタジー異世界ゆえの独特の山と言ったところだろうか。
現状を詳しく書くと――。
私に絵本を読み聞かせるためにソファーに腰かけたお付きメイドのセラーナ。
その彼女の膝の上に、私はちょこんと座している。
セラーナが手にしている絵本は『混沌の種、仙窟活龍魔大戦』だった。
で、知らない森の中、夜の池の傍に、私たち二人がいるわけで。
いつかどこかで体験したパターン。って、これ、また転移してるし!
そうなのね、冒険なのね。……やれやれ。
それはそうと、本当にここはどこなのだろう?
夜目は利くけれど、はて、ノスフェラトゥ城内とドラクロワ伯爵の違法増築デモンズキャッスルしかまだ世界を知らないので、さっぱり見当もつかない。
「セラーナ。ここ、どこか分かる?」
「も、申し訳ありません。ワタクシにもさっぱりです」
「うんー」
「お嬢様がワタクシの膝に腰掛けになられて、それでは絵本の読み聞かせをと思った矢先に、すーっとお嬢様が半透明になられたため思わず抱きしめたのですが……」
「にゃあ。セラーナはちっとも悪くないよ」
「慈悲深き言葉、感謝いたします。すーはーすーはー、いい匂いでございますぅ」
むしろこちらの特質に巻き込んでしまってすまなく思うよ……。
でも抱きついて、すんすん私の体臭を嗅ぎ取るのはどうかと思うわー。
ここのメイドさんたち、幼女臭好きがホント多いよねー。
「ふーむ、じゃあちょっと調べるね」
「お嬢様のユニークスキル、想像魔法でございますか?」
「にゃあ。マップを走査すればきっと場所もわかると思うの」
『空の雫』
想像魔法を行使する。魔法が発動した瞬間、中空にスクリーンが現れる。
まるでレーダー走査がくるくる回るような状態がしばらく続く。
やがて、等高線がゆるゆると描かれ、地形が形作られていく。
道路らしきものが線引きされ、そうして地名が出てきた。
『リーン大陸の東の島。
「えっ、ホント、どこなのこれー?」
私は仰天してセラーナの膝の上でパタパタと足を振った。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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