第12話 蛙の子はおたまじゃくし

 うかつだった。盲点とも言うけれど。

 人間とは、昼間起きて、夜眠る生き物だということに。


 私たちバンパイアは夜行性なのだった。

 つまり、何が言いたいかというと。マリーと一緒に遊べない。


 私が昼間起きていればいい。

 でもそれは無理。吸血鬼は昼間は寝るものだから。


 返して、マリーも夜更かしさせてはいけない。

 基本、人間は夜は寝るものだから。


 それに、そう――


 マリーはまだ十歳女児なのだ。なおさらちゃんとおねむの時間は寝ないといけない。

 でないと身体に色々と不調が出かねない。各種ホルモンバランスも崩れる。

 結果、本来あるべき成長を阻害してしまう恐れがある。寝る子は育つのだった。


 わが家に滞在したせいで、大切な友だちの健康を害したなど絶対に嫌。


 自分たちが魔族だからと言って、人族の健康を加味しないなどありえない。

 人数こそ少ないが、領内にはヒューマン族も領民として生活している。彼らの健全な生活とその安全は、この領内に於いてはキッチリ保障されている。


 私はマリーの健全な成長を、全力で応援いたす所存なのであります。


 となれば、必然として、こうなるわけで。


 現在、時刻は夜の9時半辺り。



「カミラたち、生活の上ですれ違いになっちゃうのよね……」

「ごめんね、カミラ。戦いにもなれば別だけど、平時だともう眠くて眠くて」

「ううん、元気にスクスク育つには、ヒューマン族は朝起きて夜寝るのが一番なのよ。だから、おやすみ、マリー。また朝に会いましょうね」

「うん、おやすみ、カミラ」



 ちゅっと彼女の頬にキスをする。マリーも私の頬にキスをくれる。


 現状、私とマリーは朝早くと夜のしばらくの間の数時間しか会えない。

 種族間の違いって、厳しいね。


 ……ああ、だからママ氏はパパ氏のために種族変更をしたのかも。


 愛って、いつだって偉大だね。羨ましい。


 私は眠りに入ったマリーを眺める。


 種族、か。


 そのつもりで私が咬めば、マリーを簡単に種族変更できるのだけれど。


 私自身、太祖に近い(たぶん次点)ので、最低でも伯爵位の力を持てるだろう。


 でもそれは私を信じてくれる友人への重大な裏切り行為。絶対にしたくない。

 彼女から吸血鬼化を求めるならまだしも、勝手な行為はしてはならない。



「良い眠りを。マリー」



 私は静かに、彼女にあてがわれた客間から退出する。



 自室に戻り、ブラッドブドウジュースをくぴくぴと飲む。ふうと息をつく。

 本能的に伸びた狩りモードの歯を意識して引っ込める。ほら、引っ込みなさい。

 それでも人間より若干犬歯が長いのだけど、まあ気にしない方向で。


 このブドウジュース。パパ氏が開発した骨髄血液生産プラントの培養血液とブドウジュースと半々で割られた、吸血鬼御用達の食糧にして飲み物なのだった。

 なお、大人は赤ワインと割ったりもする。吸血鬼にアルコールは無効なので一切酔わないけれど。飲んでも酔えないのはちょっともったいない気もしないではない。


 誰も傷つけない、誰も不幸にしない。どんどん飲める、平和的飲料。

 こと血液に関しての知識は、吸血鬼に並ぶ者などいないのだった。



「グラス、下げてねー」

「はい、お嬢様」



 お付きのメイドに空のワイングラスを渡す。血食はこれくらいでやめておこう。

 時代が時代なら、輸血パックから血を摂取する吸血鬼みたいなものかもね。

 もう一杯飲もうかなと思ったけれど、美味し過ぎるのが災いしてどうしても飲み過ぎておなかがタプタプになる。幼女ポッコリお腹は可愛いけれどね。



 さて、と。切り替えて、私は思考を巡らせる。


 マリーとの種族的な生活問題について?

 それも大事……なのだけれども。もう一つ大きな問題があった。


 前回の突然転移についてだった。


 ドラクロワ伯爵宅(城)に魔苦死異無なる賊が入り、血族の長として眷属の応援と応戦のために向かったパパ氏に続いて、私まで一緒に転移した謎の現象。


 調べてみたら、逆に謎が深まってしまったのだった。


 というのも。


 パパ氏に調べてもらったところ、どうやら転移の根源的な痕跡が私自身にあるとのこと。つまり私自身が望んで転移した? あれ? そんなの望んだっけ?


 うん、わけがわからない。


 確かに私は遺伝的にパパ氏の性質と才能を継承していると思われる。なので、あるいはパパ氏みたいなテレポートも扱えるかもしれない。でも、使った覚えはない。


 ちなみに兄はママ氏の遺伝が強いみたいだった。変怪が苦手で闇魔法が得意で、顔立ちもママ氏によく似ている。超美形。金髪に、燃えるような朱の瞳も素敵。


 蛙の子は蛙。ではなくておたまじゃくし。とまれ、子が親に似るのは当たり前。


 話がズレた。私についてだった。


 先ほどの通り、私はパパ氏の性質と才能を強く受け継いでいると思われる。変怪が得意で、灰銀髪、深紅の瞳。あと、想像魔法というチート。魔苦死異無事件の後で密かに知った話、パパ氏は想像魔法は使えないけれど、創造魔法は使えるのだそう。


 創造魔法。因果に基づき、理論と大量の魔力と素材を以ってモノを作り上げる超高等魔法。私の想像魔法との違いは『世界の法則』に従わなければならないところ。


 しかしてその『等価交換』を以って『創造』の奇跡を実現させる。


 一見不便なようで、しかし法則性さえ順守すれば大抵のモノは作れる。頑張れば骨髄血液生産プラントなども作れる。ここでお分かりになられるように、創造魔法とは『物質的』であって新しい魔法を創造したり世界法則の捻じ曲げなどはできない。


 そう考えてみれば、私の想像魔法は有り得ないほどのチートであった。

 必要なものは『柔軟な思考』と『そこそこの魔力』のみ。

 イマジネーション力が肝要。それで、魔力の許す限りなんでも生み出せる。


 あんなこといいな、できたらいいな、なのだった。どこぞの猫型ロボもびっくり。



「んん? 待って待って。そういえば……」



 自分の魔法チートについて考えていて、原因らしきものを、思い出したかもしれない。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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