第11話 そういえば……。

 何か、大事なコトを、忘れている気がしてならない。

 んー。あれれ、なんだったっけ。えーと、えーと。思い出せー。


 周りを確認してみる。あっ、と思う。


 ズタボロになったまま気を失っているドラクロワ伯爵の存在を忘れていた。


『満月の夜』


 私は想像魔法を行使する。満月の夜は魔力が満ちる夜でもある。

 範囲はドラクロワ伯爵とパパ氏の二人に。


 空間を操って月――厳密には月の耽溺モント・ザハトにより清浄なマナの光を投射、効率よく魔力変換を促してそれで変怪し、結果的に身体を癒すのだった。



「う……? 魔力が、満ちる。身体の修繕を……ふう、死ぬかと思った。いや、死んでるんだったな……ああ!? こ、公爵様! いらっしゃるのにとんだ無礼を! ご助力、心より感謝いたします! さすがに今回はダメかと思いました!」


「そんなに恐縮しなくて良い。賊の討伐はした。が、決着をつけたのはわが娘である。そなたの身体を癒すための魔力を供給したのもわが娘。良かったのである」


「お嬢様が……」


「にゃふー。伯爵さんおつかれさまなの」

「あ、いえ、勿体なきお言葉。こちらこそ感謝でございます」


「はーい」



 申し訳ないけど、ここで中座を。たぶん人間視点では奇妙に映るはずだから。


 他の魔族、または人間たちの貴族制度とは異なり、『太祖(真祖・元祖)より始まる旧き血脈による位階』こそが、私たち吸血鬼社会での階級制度となっていた。


 ノスフェラトゥ公爵家の血脈を軽く触れてみよう。


 第一位はもちろん、パパ氏ことヴラド・ツェペシュ・ノスフェラトゥ。

 第二位はママ氏、バートリー・エルジェーベト・ノスフェラトゥ。

 第三位が私のお兄ちゃんで嫡子のカイン・ノスフェラトゥ。

 第四位は私、カミラ・ノスフェラトゥ。


 ここだけを見れば単なる家族順ではある。が、ここから先が少々特殊となる。


 第五位は、ごめん、知らない。なんでも侯爵位の血族(眷属)がいるらしい。

 第六位はドラクロワ伯爵。実は私、伯爵のファーストネームを知らない。

 第七位が、上記伯爵とミナ・ハーカー(人間)の子、ダンピールバンパイアハーフのアーカード。

 第八位――ごめん。これ以降はよく知らないけど、血族(眷属)はどんどん続く。


 血脈は、祖に遡れば遡るほど強くなり、バンパイアとしての地位が高まる。

 たとえハーフあろうと、吸血鬼の特性が色濃く出ている限り格付けに変化はない。


 ママ氏は『真祖』たるパパ氏の血脈ではないけれど元神聖アーデルハイド国の聖女であり、ビカムアンデッドにて『元祖』吸血鬼として生まれ変わったので超強い。


 儀式にて、二人の血脈から祈りを経て生まれたカインお兄ちゃんも実は超強い。


 パパ氏ママ氏の、二人の愛情によりママ氏の胎を経て産まれた私もわりと強い。


 パパ氏はバンパイア界では最強。星の『地の霊気』より出でる星の意志の具現体。

 どんなバンパイアハンターであれ真祖の吸血鬼を個の力で滅するのは不可能。

 星をも砕けるトンデモ存在なら、話は別になるかもだけど……。


 一方、ママ氏はビカムアンデッドにて星の『地の霊気』を纏い、バンパイアへと自ら生まれ変わった星の新たな意志体。ゆえに『元祖の吸血鬼』と呼ばれる。


 そう、バンパイアとは、地霊の一種なのだった。

 なのでたとえ倒されたとしても、高位のバンパイアであれば星の地脈から精気を吸い上げればいつでも復活できる。低位の子たちはちょっと厳しいかもしれない。


 以上、魔族における貴族階級と、吸血鬼血族による位階の違いでした。


 もちろん他にも派閥上の貴族はたくさんいる。ライカンスロープの狼侯爵とか。

 繰り返すと、これはあくまで吸血鬼の血族としての格付けなのだった。


 さて、話を戻して。



「にゃあ。それでね、それでね、聞いてほしいの伯爵さん」

「はい、カミラお嬢様」


「あのね、アーカードくんと仲良くねー」

「えっ、あ、はい」


「でないとね、アーカードくん、わたしのことママって言ってきて困るの」

「見捨てないで、ママ」



 大人しかったアーカードくんが、護衛騎士からぴょんと飛び降りて後ろから私を抱きしめてきた。見た目の三歳児幼女に、膝をついて抱きつく十二歳少年。


 色々と危ないシーンではある……。


 ここで変に抵抗すると余計に彼の何かが拗れそうなので、ぽんぽん、と頭を撫でてやる。まったく、私みたいなちっちゃい女の子に母性を求めるの、ダメよ?


 ほら、アーカードにたぶん恋心を秘めていたはずのマリーが、見るに堪えないような表情でいるから。今まで、あえて、黙っていたけれどね。しようがないね。



「……これはどうしたことであるか」

「パパ、殺気を出しちゃダメなの。アーカードくんは、寂しかっただけだから」


「う……むぅ」


「伯爵さん、だから、アーカードくんと仲良くにゃ。カミラのようなお子ちゃまをママにするとか余程なの。城の改築もほどほどに。それより親子のつき合いなのよ」


「あ、はい……わがことながら申し訳ない……」

「今ならまだやり直せるの。アーカードくんもまだ子供だもん」


「最大限、努力いたします……」

「ママぁ……」


「うーん、ロリコン+マザコンはさすがに見るに堪えないわ……」

「人間の小娘、ワシも大いに同意である。ワシの可愛いカミラを……ぐぬぬ」


「パパ、人間の小娘ではなくてマリーなの。わたしのはじめてのお友だちなの」

「そ、そうであるか。うむ、わが領にも人族はいる。……娘とはよしなにな」


「はい。閣下に置かれましては勿体なきお言葉を拝します。仲良くさせて頂きます」

「……小さいのによく出来た子であるな」


「一応、向こうの世界での、ブラムストーカー侯爵家の三女ですので」

「なるほど、そうであったか。重ねてうちの娘とはよしなに頼む」



 会話が色々と飛び飛びに、カオスになってきているなぁー。


 ともあれ、これにて魔苦死異無デモンズキャッスル侵入事件は解決となった。


 ドラクロワ伯爵と息子のアーカードくん――彼は私のことを未だママと呼んで憚らないのが気になるところだけど、まあ、それは父である伯爵に対処してもらおう。


 私はパパ氏に抱かれて自宅というか、自城へと戻った。


 なお、マリーは元世界へ戻るすべが魔苦死異無にあったため、戻り方が判明するまで食客としてわが家に滞在することとなった。


 あの変質者に付いてきたのはまあ騙されていたのもあるので仕方ないとして、一番の問題は異世界など星の数ほどあるため『彼女が元いた世界』がどこなのか判明しないことにある。たとえ私の想像魔法を使おうとも、対処のしようがないのよ……。


 というわけで今夜はマリーと一緒に眠ることにした。


 ……人間は昼間起きて夜眠るというのを完全に失念していたけれども。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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