第10話 自称バンパイアハンターの末路

 謁見の間の先、奥まった通路に祭壇と魔法陣が一つあった。

 ここを『潜る』と、裏デモンズキャッスルへと『飛べる』らしい。


 上へ落ちる、みたいなものなのかなぁ? よくわからない。


 で、実際、試してみた。そして、なるほどと私は頷いた。



「建物がすべて逆さ向きなのね。まるでX軸Y軸での、X軸反転。または鏡写し」

「理解が追いつかなくて頭が混乱しそう……」

「父上の力作らしいよ。空間反転と力場の均衡がどうとか言っていた」


「うー。DIYも凝り過ぎるのはさすがに考えものなのよ……」

「ねえカミラ、そのDIYって、何?」

「Do it yourself の頭文字なの。自分の力で何かを作ったりすることにゃ」


「ママは色々と詳しいね」

「にゃあー。カミラはアーカードくんのママじゃないのー」



 響く金属音の足音は三つ。護衛暗黒騎士の姿も三つ。

 ああ、はい。ええと、実はですね……。

 追いすがるアーカードくんは、仕方がないので私が保護しました。


 一番小さな私が保護者みたいな真似をしている件について。


 想像魔法『 STAINLESS (K)NIGHT』にてもう二体ほど暗黒騎士を召喚、一体ずつ抱っこする形で、私とマリーとアーカードくんは現在城内を探索中です。


『空の雫』


 想像魔法のオート走査マッピングで現在位置を確認する。と同時に、パパ氏のいそうな場所を予測。幼女、眉間にしわを寄せて悩んで、おおよその見当をつける。


 この逆さ世界は、脳で受け取る認識全般を、否応なくバグらせてくるね……。


 たぶんここから、反転城をあえて正位置と考えるなら『上へと降って』行って、その中心部に当たる場所にパパ氏はいると思うのだけど……この城の城主であるドラクロワ伯爵はともかく、盗賊の魔苦死異無もいる気がしてならない。


 鬼が出るか蛇が出るか……まあ、鬼ならここにもいるけど。吸血鬼的な意味で。



 城内は相変わらず、探索そのものに支障はなかった。


 ボーンナイトの人に近道を教わったり、メデューサヘッドの人たちに途中まで道を付き添って貰ったり、ラミアの人が肩こりに困っているというので滞った血を吸ってあげたり。ちなみにラミアの人の肩こりの原因は、巨乳が過ぎるためだった。


 やっぱりおっぱいは、ママのあの控え目なふくらみが好きだね。

 別にいいでしょ、人の好みは十人十色なのよ。すべての乳に貴賤なし!



「で、たぶんここだと思うのだけど……」



 反転城内を『上へと降って』見込んだ場所へと向かったその最奥。

 重力を無視して逆さ向きに上る変なエレベーターに乗り。

 やがて、一個の魔法空間部屋へとたどり着く。



 部屋の隅にドラクロワ伯爵らしき人物が倒れている。ボッコボコであった。


 じーっと見る。ボロ雑巾みたいになってはいるが、まだ生きて――アンデッドに生きていると表現するのは逆に失礼極まりないけど『生存』はしているようだった。


 で、その伯爵ノックアウトの原因はというと……。



「ムッムッムッムッ、ズザーズザーズザー! ムッムッムッホワィ!」

「この変態強盗め! いい加減に成敗してくれる!」



 まあ、伯爵は普通に魔苦死異無にやられたんだろうね。しかたないね。


 現在この変態と対するは私のパパ氏。某世紀末救世主伝説の主人公みたいに上半身裸になってる。ならば、ほわちゃっ! と秘孔でも変態に突いていただきたい。


 変態盗賊は見ているだけで気持ち悪くなる異様な機動で空中をわが物としている。

 が、パパ氏はこれを上手くあしらっているように見える。


 強い。パパ氏、さすが。あんな変態に負けないで。


 魔苦死異無、苦戦。当然よ。パパ氏強いもん。

 だけど変態盗賊の彼には、彼らしい変な奥の手があって。



「くっ、こうなれば魔苦死異無最終奥義――」

「させんわ!」

「ぐぼはぁっ!? 魔苦死異無最終奥義――」

「だから、させんわ!」

「うげべぇっ!?  魔苦死異無最終奥義――」

「させんと言っておろう!」

「いいや、押すね!」

ダニぃ!?」



 どうも違うネタが埋設されているような気もしないではない。

 魔苦死異無は背負っていた剣を投擲(彼は素手でこれまで戦っていた)後、急降下キック、そして空中攻撃へと持ち込んでいった。


 いけない、それは。


 私の考えが正しければ、それは、異常な勢いで攻撃が多段ヒットする――



「甘いわ! 娘にもらったこの指輪を使えば……っ」



 パパ氏、変態の奇襲をボクシングの連続スウェーの如く細やかに回避、逆に変態の脇腹に強烈なパンチを抉り込む。口から血を吐きつつ吹き飛ぶ変態。


 が、しかし。



「かかったな! これが我が逃走にして闘争経路! 離れてしまえばこちらのモノなのだ! 魔苦死異無最終奥義、発動! 質量を持った残像攻撃、受けてみよ!」

「――パパ、危ない!」

「カ、カミラっ!?」


『荒涼たる新世界』


 必死だった。私は想像魔法を無理やり発動させた。

 名前は直感だけでつけた。それがどんな効果を持つか、自分でもわからない。


 変態の彼はパパ氏になぜか背を向けている。

 そして、彼の周りにはビュンビュンと三つの影が。これが、質量を持つ残像?



「虚像であり実体。そちらの攻撃は一切通じぬ! だが、わが攻撃は通じる!」



 うわあ、なんてズルい。一方的な攻撃とか。まるでチート。


 パパ氏に迫りくる質量を持つ残像。

 

 だけど……なんだか? だんだん動きが……? あと、変態の身体の大きさが。


 二分の一、二分の一、二分の一、二分の一。二分の一、二分の……。



「「「「……は?」」」」



 魔苦死異無の残像×三つ、すべてパパ氏まで行きつくまでにだんだん遅くなり、小さくなり、目に見えなくなってしまうのだった。


 うーん? これは逆ね。パパ氏に接近するにつれ変態の体格が二分の一化するので移動も二分の一になり、結果、永久に目標地点に到達できない。


 終わらないのが終わり。

 例えるなら、ゼノンのパラドックスの一つ、アキレスと亀のように。


 気づけば奥義を使った本体(?)も二分の一化したらしく目に見えなくなっていた。



「……終わった、であるか?」



 ちょっと不完全燃焼気味のパパ氏。



「もう少しなの。ここから空間を切り取って、二分の一世界を繰り返すように閉じ込めるの。そうしたらこれからずっとこの悪い人は二分の一世界から出られないの」


「あ、うん。……終わりがないって、物凄い怖いのであるが」

「にゃあ。だって、だって。パパが傷つくの、嫌だもん」


「うおぉ……愛娘に心配されるワシ、感動!」



 喜ぶパパ氏。でも、家族を大切にしたいってこういうことだと思う。

 家族がピンチのときは、もし為せるのなら、私のような子どもでも助けに入る。

 大きな力を持ちながら行使しないのは、どこか間違っている気がするし。 


 とまれ、私は想像魔法を口にする。


『El・DO・RA・DO』

『虚空の迷宮』

『荒涼たる新世界』


 初めにマッチ箱くらいの鋼鉄の小箱を想像魔法『El・DO・RA・DO』にて作成。

 箱の内側に空間遮断フィールドをみっしりコーティングしておく。


 そして、パンパイアの第三の目で縮んだ魔苦死異無を座標認識しつつ彼を捕縛。


 彼を箱に閉じ込めた後、箱内部を範囲指定『虚空の迷宮』にてダンジョンを作る。

 切り取った空間内に、この城が丸ごと一個入る規模を盛り込ませる。


 箱の内側、四方のコーティング部分に内向きの『荒涼たる新世界』を座標設定。

 内側から四方に寄ると対象は二分の一の大きさに。永遠に四方の先へは届かない。



「にゃはっ。収監完了だよ。もうこれで出てこれないの」

「かの憎き盗賊も、とうとう囚われの身であるなぁ」


「事象の地平面を越えられない限り、脱獄は不可能なのよ」

「カミラにかかれば、あっけないものであった」


「パパが眷属を大事にして頑張ったから。私はそのお手伝いなの」

「うふふ。今日ほど子を持つ親の甘美さはない。ワシ、にやけっぱなし」


「うっふっふー♪」

「うっふっふー♪」



 笑い合う父娘。互いの鋭い犬歯を見せ合う感じで。


 そうして私はパパ氏に封印の小箱を手渡した。後はすべてパパ氏にお任せだ。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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