第9話 アーカードはロリコンなのか?

 どうしたものかな、と思う。

 現在の状況。


 ツンデレのマリアンヌ・ブラムストーカーと決闘(?)ぽい何かに私は勝利した。

 ちなみに勝手に私はマリーと愛称で呼んでいる。

 彼女とはお漏らしを処理してあげた仲だし、別にいいよね。


 その後、すぐ。


 謎のゴシック系衣装の美形青年が現れたのだった。

 ホモ漫画……ゲフンゲフン、耽美系腐敗作品に出てきても違和感のない――

 まあ、どちらかというと攻めと受けなら受け系男子というか。


 タチとネコならネコというか。ああ、今思い出したんだけどタチネコ表現は女性用だった気がする。うん、百合もいいかもね。マリーと仲良くしちゃおうかな。


 話がズレたので元に戻すとして。


 まずは話しかけてみようか。



「にゃあ。あなたは、だあれ? マリーの言ってたアーカード?」

「人に名を尋ねるときは、自身から名乗るのが礼儀であろう」


「パパとママとお兄ちゃん以外みんな目下だもん。だからあなたから名乗るのよ」

「……こいつ」


「血の匂いがする。吸血鬼の匂い。でも半分? みゅう? わかんない」

「……」


「アーカードはダンピールよ。人間とのハーフなの」

「みゅ? そうなの? マリー?」

「うん、だってここの城主の息子だし」


「……へ? なんで? どうして実の息子が、魔苦死異無みたいな変態強盗を自分の家に招き入れるの? おかしくにゃい? 泥棒は家に入れたらダメなのよー」

「ああ……うん。今思えば、そういう考えになるのよねぇ……」



 この世界ともう一つの世界。異世界接続でやって来た魔苦死異無。そしてマリー。

 魔苦死異無が性質の悪い盗賊なのはすでに確定している。

 彼はマリーに以下のような嘘をついていた。


 この城にある物は、すべてわれら民から略奪された物。

 自分はそれらを取り返す!


 異世界から来ていて、勝手に世界接続して、人の家を荒らし回って、その言い草はないと思う。大体どうやって世界向こうの民から略奪するの。効率悪いよ。


 あるいは自領の民から奪った? 領主が自領を治めるには税を徴収し、運営しなきゃならない。そうして税は民に還元されて、それで自領はより豊かになっていく。


 ドラクロワ伯爵の治める領地がどんなものかは知らないけど、そもそも私たちの帝国は平穏無事の、平和な帝国だよ。つまり、民は生活に満足しているってコト。


 泥棒って、やーね。犯罪者には人権なんてないわ。奈落に叩き落してやりたい。



「アーカード。あなた、反抗期なのー?」



 盗んだバイクで走り出すタイプの。夜の学校の校舎ガラスをバットで割る感じ。



「……失礼な。私は亡き母を大切に想うだけの、一人の、人間だ」

「みゅー。それで強盗を招き入れてどうするのー?」

「強盗ではない。父への反抗だ」


「ねえねえ。メッて、お仕置きして欲しい?」

「どうしてそうなる」


「ドラクロワ伯爵の奥さんがどんな人か知らないけど、あなたが立派に育っているところを見れば、パパもママもあなたを大事に育てたってことじゃないの?」

「……」


「だから、お仕置きするの。反抗期、大いに結構なの。中二病は誰もが通る道。でもね、やって良いことと悪いことは、ちゃんと線引きしないとダメだと思うの」

「言わせておけば!」


「ダメっ、アーカード! ミナ・ハーカーを傷つけようとしないで!」

「ミナ・ハーカーだと……? それは……それは私の母上の名だ!」


「あれ、そうなの? にゃあ。ごめんね、勝手に使って」

「ミナっ、あなた、偽名を使っていたのっ?」


「ごめんにゃ。知らない人に簡単に名乗るのはダメなの。でも、今は名乗れるよ」


「むう……嘘をつかれたのはショックだけど、だからこそ聞くわ。何て名前?」

「カミラだよ。カミラ・ノスフェラトゥ。改めて、よろしくね」


「……帝国筆頭、ノスフェラトゥ公爵家の令嬢だと!?」

「そうなのよ、アーカード。あなたは、カミラの一族の、眷属げぼくなの」



 ややこしくなってきました! テキトーに名乗ったら、偶然にして中二病&反抗期勃発中アーカードのママの名前だったとは。



「ぐうう……しかし、わが母の名を利用したのは許せない……」

「それについては知らなかったとはいえ、ごめんにゃー」

「許せないから、メッとしてくれ!」


「「――はあ?」」



 時間が止まった。不穏な空気。ちらと見ると、マリーの口が半開きになっている。

 私を護るためにだろう、暗黒騎士がソッと傍に寄ってくる。



「小さくてもいい。母上を、母上を感じさせてくれ……っ」


「「ええ……」」



 突然、宇宙人に話しかけられた気持ち。むしろ宇宙人に失礼か。

 なんなの、これ。

 私、この世界に生まれてからまだ半年と少しよ?


 たしかに前世の記憶はある。前世の自分についてはおぼろげだけど、前世世界の文化とか文明程度とか、特にサブカルなどはなぜか記憶に強く残っている。


 現状、私は魔力を父母から貰って、やっと三歳児くらいになれたおこちゃまよ。

 それが、母上とか。意味不明というか……。



 ド ン 引 き だ よ !



「にゃあーッ。あなたからは危険な香りがするから、それはダメー!」

「そんな! 酷いよママ!」



 ちょっとやめて。母上からママ呼ばわいに変えるのやめて。



 鳥 肌 が 立 つ よ !



「マリー、行こっ!」

「あ、う、うん」

「待って、ママ! 待って……っ」



 護衛暗黒騎士に私とマリーを抱き上げさせて、さっさと行く。

 大きいナリをして、情けない声でアーカードが追いすがってくる。


 気持ち悪い。気持ち悪いよキミ! マザコンはロリコンよりキモい!


 だけど、ふと、魔力の異変を感じて。

 後ろに振り返る――と。



「「ええーっ!?」」



 私とマリー、二人して素っ頓狂な声を張り出していた。


 青年、アーカードの背丈が大幅に縮んでいた。

 わたしは彼の身長を高身長だと記した。

 具体的には書かなかったが、少なくとも百八十センチはあると見て欲しい。

 それが、五分の三くらいになっていた。


 顔立ちが耽美なホモ漫画(ド直球)に出てくる美青年ではなくなっている。


 年嵩は……小学生高学年くらい? 二次性徴直前のあどけない顔立ち。情けない表情をしてはいれど、それでも美形は美形。男の娘としてもイケそう。


 私は彼を指して青年と記した。青年とは十五歳から二十五歳くらいを指す。


 それが、やんぬるかな。


 アーカードくん、ショタっ子じゃん……。


 男の子は、いつになっても、ママが好き。

 とまでは言わないけれど、十二歳くらいの男の子ならそりゃあママが恋しいかも。

 まして、亡くなっているんだっけ。


 でも、いくらなんでも、見た目三歳児の私にママを求めるのは酷だと思うのよ。


 私は暗黒騎士に一旦停止を命じる。立ち止まる騎士。



「ふにゅ。それが、あなたの、本当の姿なのー?」

「そうだよ、ママ。これが僕の本当の姿だよっ。だから、見捨てないでっ」


「護衛騎士、行っちゃってー」


「待って、待って! 悪かったから、反省してるから! だって父上ったら、母上が亡くなってからはずっと城の改築ばかりにのめり込んで……」


「あなたのパパさんは、奥さんの死を城の改築で心を埋めようとしていたのね」


「わかんないよ、そんなの!」


「うーん、まあ、当事者からすればわかんないよねー。こういうときこそ、家族を大事にすればいいのに。男の人って、なんでこんなに不器用なのかな」


「さっきから思うんだけど、カミラってさ、考え方が凄く大人っぽいよね」


「そんなことないよ、マリー。カミラはこんなちっちゃいし、パパとママに甘えたいし、カミラのたった一人のお兄ちゃんやマリーと一緒に遊びたいし」



 言いながら私はマリーに身を寄せてほっぺにキスをする。



「あああ……僕もキスして欲しい。ママのキス欲しい」



 どうしよう。青年が実は少年だったのは分かったけどマザコンには違いないし。

 さりとて放置するには忍びないし。事情が事情だしねぇ……。


 正直、如何ともし難く、扱いに困るわ。幼女の自分にどうしろと。


 とりあえず私は、護衛騎士に前進を命じた。彼がギリギリ追いつく速度で。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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