第7話 デモンズキャッスル

 なぜかパパ氏の転移魔法に巻き込まれた私。原因は今のところ不明。


 城内をトテトテと歩く。大理石の頑健な……えーと、今どこ歩いていたっけ。

 マップは想像魔法『空の雫』で走査したものを用意している。


 えーとえーと。


 ん、見たそのままだね。現在位置は、大理石の廊下、と。

 周りには、某ドラクエのさまようよろい(仮)みたいなのがウロウロしている。


 ああ、うん、そうだね。やはり三歳児がフラフラと一人でドラクロワ伯爵のデモンズキャッスルをうろつくのは危険なので、優秀な護衛がほしいところだよね。


『STAINLESS (K)NIGHT』


 想像魔法で言葉遊び的に掛け合わせた護衛を召喚する。

 KNIGHTとNIGHT。黒の全身鎧にマントの暗黒騎士。纏う漆黒オーラが最高。


 武器は吸血鬼の従者らしくブラッドソード。片手でも両手でも使えるバスタードソード形式。斬った敵の血を吸ってより破壊的に強くなる。


 なお、騎士だけに黒の騎馬も用意できるが、今回に限り下馬させている。


 自分でクリエイトしておきながら自画自賛。なかなかどうして頼もしい護衛。



「カミラを抱っこしてね。それで、カミラを護りながら探索だよー」



 こくん、と頷く暗黒騎士。スッと片膝をついて私を迎え、両手でゆっくりと抱き上げる。無骨な鎧を装着しているにしては優しいエスコート。



「さあ、いこー!」



 暗黒騎士の胸元に抱っこされた私は号令をかける。騎士はまたこくりと頷いて、思っていたよりも静かに歩き出した。


 ところで、大理石の廊下にいるさまようよろい(仮)たちの中身は空っぽだった。

 いや、別に私の騎士に真っ二つにさせたとかではなくて。


 吸血鬼として上位血族であるのが認識できるのか、さまようよろい(仮)たちはこちらに危害を加えようとしてこなかった。むしろ命令すると従ってくれる。


 なのでちょっと兜を取って見せてと頼んだら、先ほどのような結果となった。


 いやー、私、何をしているんだろ。


 暗黒騎士に抱っこされつつ、私はどんどん移動する。


 戦闘はない。というか、移動が大変。とにかく、広い。馬鹿ッ広い。塔を登り、空中回廊をひた進み、途中で人懐っこい黒狼の群れと戯れて、城内護衛のハーピィたちに道案内を頼み、ようやくデモンズキャッスル最上階部までたどりつく。


 ドラクロワ伯爵ったら、どれだけ城を拡張しているの。違法建築もほどほどにしないといけないわ。扶桑なの? 山城なの? ただ大きいだけより、利便性をね?


 さて、騎士に護られ、城内護衛クリーチャーたちの助けもあって、無事謁見の間にまで来れた私だったのだけれども。



「――にゃあ。あなた、だあれ? あなたがドラクロワ伯爵……ではないよね?」



 赤く爛れた月光の差し込む神秘的な広間に、その玉座というか、城主の座に一人の幼女が座っていた。年嵩は私よりずっと上。でも精々が十歳くらい。

 金髪ツーテール。碧眼。意志の強そうな口元。でもそれはそれで可愛い。ピンクのエプロンドレス。足は下まで届いてなくて、子供らしくブランブランさせている。



「何よあなた。人に名を尋ねるときは、自分から名乗るのがマナーよ!」

「みゅ? そうなの?」


「なんでそんな当たり前のことを知らないの!?」


「パパとママとお兄ちゃん以外、みんな目下だもん。名乗るのは下の者からよ」

「なんなのよ、それ……っ!」



 ツンデレさん(仮)は私の態度になぜかご立腹のようだ。ここだけの話、名前とは体を表す重要なメソッドだった。だからこそ名乗りは信用を与えるのだった。

 そして同時に、名乗りとは大変リスキーな行為でもある。名は、体を、表すのである。うん、そうね。西遊記の金角と銀角を例に上げてみようかな。


 彼らの根本的な敗因は何だったか。


 そう、名乗ったからだった。決して呼びかけに反応したからではない。


 知らない怪しい人不審人物に、自分の名を軽々しく名乗るものではない。


 え? じゃあなんで私は相手にあなたはだあれと訊いたかって? それはね……単なる罠、ではなくて、立場上のもの。向こうから名乗るよう促しただけで特に他意はないのです。ほら、私って公爵家の令嬢ですし? 高位貴族の娘ですし?



「じゃあ、ツンデレさん。ここの城主さんはどこに行ったか知らない?」

「わたし、ツンデレじゃないもん! わたしの名前はマリアンヌ・ブラムストーカー! ほら、答えたんだからあなたも名乗りなさいよ!」


「えー」

「えー、じゃないわよ!」


「ミナ・ハーカーだよ」

「何よ! ちゃんと名乗れるじゃないの!」



 念を入れて偽名を使った。とっさに思いついた名前なので深い意味はない。

 にしても、何を答えても怒っているねぇ。


 ツンデレさん、ツンツン状態。だけどこれはこれで良いもの。

 この子をデレさせたらどんなふうになるかな?


 うふふ、ゾクゾクしちゃう。



「それで、ここの城主さんは、どこ? どうして謁見の間にいないのかな」

「知らないわ! わたし、魔苦死異無おじさんの後を付いてきただけだもん!」


「魔苦死異無おじさん?」

「変な戦い方をする、でも、ありえないほど強いおじさんよ!」



 やはりムッムッホァイみたいな感じかな。ならば相当に強いなあ。人は、キシンになれる。怖いなあ。パパ、大丈夫かな。うーん、負けはしないと思うけど……。



「にゃあ。でも盗賊でしょ? どうせ城に侵入して金目の物を奪うのよね?」

「奪ってなんかない! 無辜の人々のため、奪われたものを取り返しているの!」


「え? それっておかしくない? そちらとこちら、異世界同士なのにどうやって奪うの? 大体、接続してくるのはそちらからだよ。……ほら、おかしいよね?」


「うっ……それもそうね。よくよく考えたらホント、おかしいわ……?」



 あらあら。混乱させちゃたみたい。



「うー。わからないわ。だけどアーカードお兄ちゃんは悪徳領主の搾取の城って」

「アーカードお兄ちゃん? まあ、いいや。……城主であり領主なら、税を取ってそして領地を治めるのは当たり前じゃない? 無償で人は動かないと思うのー」


「うううーっ。た、たしかに……」

「その、アーカードお兄ちゃんに、あなた騙されていたりしない?」


「むううーっ」

「考え込んじゃったかー。混乱したのかな? 頭、大丈夫?」


「……うるさい」


「え?」

「うるさいうるさい、うるさーい!」



 ツンデレさん、激怒する。でもこれはアレね。幼女の恋が関係しているかも?

 アーカードお兄ちゃんが一体どこの誰だか知らないけれど、ともあれ見た目は格好良い人で、この子は体良く騙されている気がする。まあ、勘だけどね。


 ロリっ娘を誑かすとは、このロリコンめー。


 こんな一本気で可愛いツンデレさんを……裏山死刑よね。



「ミナ・ハーカー! あなた、小さくても吸血鬼よね! お口の牙は、隠しても見る人が見ればわかるものなのよ! だから、わたしと決闘しなさい!」


「えっ、やだー」

「うるさーい! 決闘と言ったら、決闘よ! 決闘しなさーい!」


「戦ってもちっともメリットないのにー」



 黙れと言わんばかりに――

 マリアンヌは玉座からバンッと立ち上がってズビシッとこちらへ指さした。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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