第6話 鈴門党、眷属の城に侵入す

 ※注意 敵方登場人物の一人は、二つの元ネタのキャラを悪魔合体させています。


 吸血鬼らしく、私は太陽が苦手であるらしい。

 ただ、存在として真祖や元祖に匹敵するため、太陽光線を浴びたからといって即滅ぶわけでもなかった。精々が、ああ気持ち悪いなぁと思う程度であった。


 日中の外出時は日傘必須。というか日中は睡眠時間だけれども。


 ビバ、昼夜逆転生活。だって吸血鬼だもーん。伸びる犬歯キラーン。


 そんなある日のこと。

 月光のきらめきが、その日は紅く爛れたように見えるうららかな


 私はパパ氏の執務部屋、そのソファーで魔法教本を読み込んでいた。



「……うみゅ。難しくて、よくわかんない」

「ふっはっはっ。カミラにはまだちょーっと早かったかなー?」



 私の呟きに、執務を摂るパパ氏が合いの手を入れてくれる。



「でも想像魔法で、魔法をしちゃえば問題解決なのよー」

「えっ」

「パパ、見て見てー」


『ギロチン男爵の謎の愛人』


 適当に名前をつけて、唱えて、ポン。

 召喚されたのは、自分そっくりの、吸血鬼幼女。

 彼女は虚ろな目をしている。

 それもそのはず、彼女は私の写し身の魔力皮を被せた、一種の剥製だった。



「こ、これは? カミラがもう一人……?」

「ダミーちゃんなの。身代わり、もしくはダメージの移し替え、特攻自爆とかー?」

「お、おお……」

「こんなのも出来るよ。あ、ダミーちゃんはもういいよー」

「……ハイ、マスター」


『虚空の迷宮』


 これまた適当に名前をつけて、唱えて、ポン。

 やおら、ぎゅばっと空間が広がった。

 何が起きたのか。それは――

 迷宮化。

 範囲はノスフェラトゥ城、執務室のみ。

 しかし、今回に限っては、執務室は某オーサカドーム十個分の広さに。

 執務室自体が迷宮化。

 元々は三十畳ほどだっただろうか、部屋の壁は瞬時に取り払われて広がり、意識になかったが近くにいた羊頭の執事は腰を抜かし、構わず新たに壁が生えてくる。


 つまるところ、執務室が、迷路のように再構築されていく。



「カ、カミラ。もうやめなさい。凄いから、分かったから!」

「にゃあ。うん、わかったー」



 想像魔法の施行を破棄。改めて、元の執務室へ再構成。



「すごいー?」

「ああ、凄すぎてパパびっくりしたよ」

「うふふ」


「でもカミラ、みんながとても驚くから、魔法の使用はよく気を付けるんだよ?」

「にゃあ。わかったのー」

「うむうむ。気分転換にブラッドブドウジュースでも飲みなさい」

「おいしーねー♪」



 と、和やかに躾を受けつつ夜の日常を過ごしていたのだが。


 出入口の扉にノックが5回。これは、わが家では緊急を表わすノックだった。

 応答を聞かず、扉が開く。緊急なのでこれは許される。

 入ってきたのは伝令兵。兜を脱ぎ、一度パパ氏に直立敬礼する。狼系獣人だった。



「報告! 御眷属たるドラクロワ伯爵の、デモンズキャッスルに鈴門党が侵入を!」

「……またか。あの異世界盗賊どもめ」



 鈴門党。またはベルモン党。自称バンパイアハンター。実質はただの盗賊。

 異世界からこちらの世界に彼ら独自の技術で世界接続し、バンパイア殲滅を謳いつつ付近一帯に強盗を働く超迷惑な悪党であった。



「あやつの城、デモンズキャッスル悪魔城と名付けただけに悪魔に呪われたのではなかろうか。これで何度目だ? ……まあ良い。それで、今回は何人の侵入を許した?」


「はっ。確認されたのは現状では一人であります! されどただの一人ではありません。魔苦死異無まくしいむ流戦闘術創始者、魔苦死異無まくしいむ鈴門べるもんです!」


「あの重力無視の変な機動というか、気持ち悪い飛び方をする変態か……」

「はっ。あの変態であります!」


「あいわかった。ご苦労、下がって良い」

「失礼いたします!」



 狼獣人の伝令兵、見事な直立敬礼を再度して、無駄な所作なく退室する。



「カミラ、ごめんな。パパ、ちょっとだけでかけてくる」

「変態さんを退治しに行くの?」

「うむ、退治だぞー」


「にゃあ。カミラもついて行っちゃダメ?」

「んー。あの変態の変態機動を見ると気持ち悪くなっちゃうぞー?」

「そうなんだー」



 残像付きの連続飛びとか、変なかけ声とか、スライディングの嵐とか。いや、アレはキシン流だったか。前世の変な記憶がよみがえる。人は、キシンになれる。だったっけ。大体予想はできるが、たしかに実物を見るのは気持ち悪そうだ……。



「パパ、これあげるー」


『EL・DO・RA・DO』


 ちょっと考えて、私はパパ氏に想像魔法でクリエイトしたアイテムを差し出す。



「……これは? 黒色の合金指輪、オモイカネの刻印、悪魔の顔の刻印?」


「脳力クロックアップ十倍&未来予測ラプラス効果の指輪なのー。どんな気持ち悪い動きも脳内処理でゆっくりに見えて、しかも五秒先の未来を正確に予測するの!」


「娘のクリエイトアイテムがほぼ神器に近い件について」


「一回の使用で客観時間で五分間効果を持続。クールタイムは十分間――実質五分ごとに使用なの。周囲のマナから魔力を補給するので何度でも使えるにゃあ」


「使い捨てではない時点でもはや神器確定な件について」



 手渡して、パパ氏は早速クロックアップ&ラプラスの指輪を装備した。

 その指輪を使って、一マクシームに挑戦する驚異の変態さんを撃退して欲しい。


 できれば私も戦力として手伝えたらいいのだけど、先程の意見を翻してやっぱりまだ自分はちっちゃいおこちゃまだからね。ムッムッホァイとか、人はキシンになれるとか、気持ち悪い動きにかなーりゲンナリするのが目に見えている。



「あとね、使用はね、意識するだけで発動するよ」

「ありがとう、カミラ。では行ってくる!」

「ぶうんちょーきゅー。がんばって、パパ!」

「うむ、任せておくがいい!」



 パパ氏、その場で何かを唱えてしゅぱっとテレポートしていった。


『汝……試シ……願イ……ヨウ……』


 一瞬感じた魔力の束は私の数百倍はありそうだった。さすがはパパ氏――と、思ったらなぜか私も一緒に転移していた。ええ……なぜに?



「……みゅー。ここ、どこー?」



 周りには誰もいない。でも、たぶん、ドラクロワ伯爵のデモンズキャッスルではないかな、と推察する。パパ氏のテレポートに巻き込まれたのなら、有り得る。


 とはいえパパ氏とはぐれてしまったのはちょっと困りものだった。



「――つまり、これは、冒険しろということね!」



 一瞬、心臓を掴まれたような恐怖心が立ち上がってくる。よく知らない場所。そりゃあ怖いよ。しかし、なんとか堪えてビッグマウスを放言する。


 後ろ向きに取るよりは前向きに暗い美人より明るい不細工

 怖がるよりは恐怖を楽しめホラー映画はキャーキャー叫べば怖くない


 まあ、どうあっても強がりだった。怖いものはやはり怖いのだった。


 でも、心の奥底ではこういう展開もアリかなあと思う自分がいて。

 ほら、学校に突然完全武装のテロリスト集団がやってきて各教室を占拠して、それをどうかして退治するなどと中二妄想に近いナニカ的な。



「みゅっ! 行こう! 凄い冒険がカミラを待っているの!」



 事態を良いように受け取って、私は勇んで足を踏み出した。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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