第5話 兄をオトす妹 幼女生存戦略

 転生幼女の生存戦略ぅー!!!!


 前話から精神の幼児退行はとどまるところを知らず、幼女な私は今生の実兄に好意をぶちかましたのだった。もうね、格ゲーで開幕一撃必殺技をえぐり込むように。


『FROM HELL WITH LOVE (地獄より愛を込めて)』


 ちっちゃい子――しかも妹に満面の好意を表されて嫌悪する兄など、よほどの事情でもない限り有り得ないはずだった。が生まれて母が死んだならいざ知らず。


 もちろん貴族社会の一員として、どうしても好意を是とできないパターンもあるだろう。例えば異母兄妹とか。いわんや、継承問題が絡むと。しかし同母兄妹なら、そんなものは関係ないはず。単に長子が後を継げばよいだけの話だから。


 不老不死の吸血鬼に跡継ぎが必要なのかはともかくとして。


 とまれ、自分たち兄妹は、産まれ方が少し違うだけ。同じ父母の子。

 うん、大丈夫。押しまくれば兄にとっての可愛い妹ポジは確立できるはず。


 子供らしくない賢しらな思考+家族とは仲良くしたい素の思考。


 これが転生幼女の生存戦略。周りをみんな、味方にしちゃおう。


 寝そべりから、上半身を持ち上げて座り直す今生の兄。

 さり気に彼の右腕に腕を絡めてちょこんと座る妹。すなわち私。


 あざとい。あざと過ぎる。だがそれが良い。これが有効、これが鉄板……ッ。


 さて、気になる結果は?



「カ、カミラ……」

「なあに、お兄ちゃん」


「……」

「?」


「お兄ちゃんって響き、凄く良い……」

「変なお兄ちゃん」


「あわわ、なんでもないよっ。……カミラ」

「にゃあ。なあに、お兄ちゃん」


「良い……凄く……」

「うふふ、変なお兄ちゃん」



 じっと見つめる。好意の塊。お兄ちゃんだーい好き光線、目からうびびび。


 あっはっはっはっ。これは陥落寸前だな。一撃必殺、有効なり!

 可愛い妹を、存分に受け入れるが良い。

 せっかくなので頬ずりしよう。ウホッ、これはつきたてのもち肌。気持ちイイ!


 私としても美少女みたいなショタっ子が自分の兄というのも悪くない。


 え? 変態っぽい? でも今の私、ちっちゃい女の子だし。セーフセーフ。

 それでもおかしいって? 逆にショタの良さがわからないとは嘆かわしいにゃー。


 アレコレ理由をつけて――

 近い将来、ママ氏とタッグを組んでショタ女装とかさせて楽しむんだよー。


 うふふふ。せっかくだし、高らかに貴族趣味を謳っちゃうぞ、私は。


 わりと邪悪なコトを考えている私、見参。



「ねぇねぇお兄ちゃん、そろそろお部屋に戻ろ?」

「あ、うん」


「帰り道、知らないから教えてね? このお城? 館? とっても広いし」

「うん、任せて」


「にゃあ。お兄ちゃんはわたしの背中に乗ってね」

「へ?」


「変怪して、銀狼モードでピューって走るの」

「え、え? でも大丈夫? ぼくを乗せて走るんだよ?」


「おっきくなれるから大丈夫ー♪」



 言いながら変怪する。さっきまではハスキー犬を一回り大きくした程度の体格で銀狼を模っていたが、今回は某ジブリの怪物狼くらいの大きさを模ることにする。


 黙れ小僧ぉ! なーんてね。



「お兄ちゃん、ほら背中、早く乗ってね。毛に手を巻き付けて、脚はわたしの背中部分になるべく内股に挟む感じで。これをニーグリップっていうのよ」

「う、うん。これでいいかな」


「はーい。じゃあ、行っくよーっ」


「あっ、待って待って。できればそんなに急がないでね」

「……にゃ? 全力はダメなのー?」


「ぼく、振り落とされちゃうよう。あと、狼の姿でにゃあは違和感あるかも……」

「わんわんわーん♪」



 女の子みたいな美少年の一人称の『ぼく』って、なんだかエロいよねー。


 あー、ぺろぺろしたい♪ ワンコの気持ちー♪ 今は狼だけどー♪


 それはともかく。

 銀の大狼に変怪し、兄を背に乗せてたったか走る。


 迷うことなく、無事、自室に戻る。

 パパ氏とママ氏は部屋で待ってくれていた。銀の大狼の姿のままぬうっと室内に入ると、両親共々大層驚かせてしまった。これは申し訳ないことをした。



「とーちゃくー。お兄ちゃん、着いたよー」

「あ、うん。降りるね」


「背中、どんな感じだった?」

「毛並みがモフモフでとっても気持ちよかったよ」

「うん!」



 私は兄を降ろしてしゅるりと元の姿に戻る。黒のシンデレラドレスの幼女である。



「カミラは変怪を使いこなせるのであるなぁ。結構魔力を消費するはずであるが」

「ねえカミラ、コウモリと狼と霧と、他には何になれるのかしら?」



 パパ氏とママ氏、私の変怪能力にご執心らしい。後で知るには、変怪はかなりの高等技術であって兄のカインはまだコウモリ変怪(単体)しかできないとのこと。


 彼曰く、闇魔法はともかく、種族特性を利用した変怪スキルは苦手なのだそう。


 この、種族特性スキルをきっちり習得できれば、たとえ身体に重大なダメージを受けても変怪にて――つまり魔力消費を代償に自己身体の再構成ができ、実質的には完全回復能力を手に入れるのに等しい状況を作り出せるのだった。



「えーとね、ママが言った三種類に、コウモリはいっぱいになれて、それで狼は大っきくなれるの。霧はみょーんと薄く引き伸ばせるけど、それをしたら戻るのに時間がかかりそうかも。あとね、まだ試してないけど、ネコさんにもなれるかなー?」


「縮尺可変に群体変化まで扱えて、四種類も変怪を?」

「うん!」


「これは将来有望ねぇ。わたし、元は人間からビカムアンデッドで元祖化したけれど、人だった意識が僅かながら残るのか変怪は得意じゃないのよねぇ」


「ワシの妻にしてカミラのママは、神聖アーデルハイド教国の聖女だったのだぞぉ」

「にゃあ! 魔と聖、属性が真逆なの! 光と闇が合わさって最強に見えるの!」


「あの国の腐敗には愛想が尽きちゃって。それで良い人を探したの。うふふ」

「とっても愛し合って、お兄ちゃんを生み出したのね!」


「そうだぞー。その後、バートリーの元人間の性質を見込んで、その……愛し合ってだな、凄く……愛し合ってだな、それで産まれたのがカミラであるぞー」

「うん! カミラ、元気に産まれたの!」



 生むと産むでは少し意味は違うが、しかし兄妹に違いはない。

 私は兄であるカインと手を繋いだ。目と目が合う。にっこり幼女スマイル。


 大好き視線をドンドコ送る。


 兄、照れたらしく気恥ずかしげによそを向く。可愛いのう、可愛いのう。


 後で知る話、先程のように兄は変怪は得意ではないとのことで、顔立ちや髪の毛、瞳の色などの見た目もそうだが、この美少女みたいな兄は母似だと推察できた。


 対する私は父似。あらゆる意味でパパ氏の性質を継承。


 吸血鬼は鏡に姿が映らないので専用の魔道具で自身を投影させるとよくわかる。

 グレー形質の銀髪に深紅の瞳、目鼻立ち、魔力の質感。しかもパパ氏も変怪は大得意とのこと。あー、自分はとーちゃん似なんやなーとわかるのだった。



「カミラはパパ似なのね!」

「そうだぞー?」


「うふふっ、大好きなパパと似てるの、とっても嬉しいの!」

「ウホッ、娘から大好きを頂きました!」


「地が出ちゃってるわよあなた」

「そうはいっても、タマランチだぞ。タマランチ会長!」

「誰なのよ、その人……」



 キャラブレブレのパパ氏に、ママ氏呆れる。私も内心で呆れる。


 でも、それも悪くない。むしろ、そこが良い。

 生存戦略である。実際、私はパパ氏を特に好ましく思っていた。好きなのである。


 私はカインお兄ちゃんに抱きついて、ママ氏、パパ氏と抱きついて微笑んだ。



 以後、私は、彼らを生命線として生きる。生きるも死ぬも彼ら次第――かな?

 血族――家族にこのような考え方はおかしい? 魔族的? うん、どうだろうね。


 自分には前世の記憶がある。つまり、家族の概念がもう一組あるわけで。


 たとえ、家族がいたはずだというおぼろげな記憶だけで、一体どんな人たちが私の家族だったのかまったく覚えていなくとも。二組の家族を得た身としては。


 どうだろう。これって物凄く混乱しない? 一人の自分に二つの家族。


 でも心配いらない。いずれ慣れる。もうだいぶ慣れてもいる。

 何よりどこかの音楽アーティストがこうも歌っていた。


『時の流れとは、人と人との関係性を、血より濃いものにする場合がある』


 ならば血を分けた家族なら、もっともっと濃厚な関係になれるはず。



 今はこれでいいのだ。私だけが知る嘘の部分。

 たとえ嘘であっても真実を凌駕してはならない理由なんてない。


 築き上げれば良いのだった。真っ白なキャンバスに、絵を描き込むように。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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