第4話 ✕ 創造魔法 ◎ 想像魔法

 今生の両親にチヤホヤされるのも悪い気はしない。

 むしろ良い。すごく良い。病みつき満喫。ディ・モールトである。


 そして、ツッコミをこれまで堪えていたみなさま方、大変お待たせを。


 お前、何、幼女のフリしてるねん、と。

 元大人が、舌っ足らずな幼い女の子を演じるなと。

 気色悪いと。キモ過ぎて草も生ないと。

 キラキラしたモノを吐きそう。オロロロロロロロロロローッ!!


 はい、遠慮のない盛大なツッコミをありがとうございます。


 でも、言い訳させてくださいなんでもしまかぜ――しまかぜ?


 だってこの身体、メス個体だし。間違っても珠珠たまたま珍珍ちんちんもついてない。

 それがこのたび、成長して赤子から幼女にグレードアップした。

 見た目は……吸血鬼は特性上鏡に映らない(はず)なので手足の長さから推測するに、人間で言うところの三歳くらいのお子ちゃまなのだった。


 何より、今生では、彼らが私の親なのだ。これ、重要。


 親の求めるささやかな希望をぶち壊すような真似は、正直、したくない。

 これまでたった半年間とはいえ、慈しみ育ててくれた恩義もある。


 愛には愛で応えたい。

 世の中、持ちつ持たれつなのである。


 さて、さて。



「わが愛しい娘、カミラ。パパにちょっとだけ教えてくれるかなー?」

「はい、パパー」


「そーぞーまほーとは、何かなー?」

「にゃあ。えっとね、あんなこといいな、できたらいいなって想像したことを、自分の魔力の範囲で具現化するのー」


「それは、モノを作り上げる方の創造魔法と、どう違うのかなー?」


「作る方のそーぞーまほーは、因果とか摂理とか素材に縛られるけれど、イマジネイションのそーぞーまほーは、自分の魔力の範囲内ならなんでも具現化できるの」


「ふむ、ふむ!」


「にゃあ。それがね、あのね、あのね、一種のがいねんまほーなのよー」

「お、おお……がいねんまほーであるか。これはレアである。曰く、超スゲェ」


「あなた、地が出てますわよ」

「おうふ。すまぬ」


「親バカかもしれませんけれどカミラは天才かもしれませんわ」

「うむ、そうだ。あるいはもはや、天才の域すら超えてそうでもあるなあ」



 褒めちぎりで、ほちゃほちゃされる。

 突発的に答えしまったが、あながち間違っているとは思わない。

 私として、なんとなくではあれどわかるのだ。

 その答えで正しいと。

 自分の使う想像魔法は、創造魔法とは根本から異なると。


 こんな話を聞いたことはないだろうか。


 この世で人が想像できるものは何であれ、いつかは実現可能であると。


 簡単に言えば、思いつきさえできれば、いずれはなんだって実現してしまう。


 想像を超えたものこそ人には実現不可能なのだった。

 つまりそれこそ、真に、奇跡である。


 まあ、私は魔族であって、人類ではないけどね……。



 それにつけても。



 決して慢心してはならないが、目上の人に褒められるのはやはり嬉しいもの。


 これは親を持つ子供独特の感情でもある。

 目上の者に無条件に従う快感、束縛される快感。褒められる快感。


 基本的に親のいる子どもはドM気質も自然と培うのだった。

 逆を返せば、サディストは正しく親から愛情を受けなかった可能性がある。

 可哀想に。

 愛情の何たるかを知らないので、愛し方も知らないのだった。


 かなり上から目線で失礼させてもらってゴメンナサイ。



 続きを語ろう。


 実は、先程から少々気になることがありまして。


 部屋の外、扉の際。この部屋は私=カミラの育児部屋である。

 部屋に入っていいのは専属のお世話(お付き)メイドたちと、両親のみ。


 部屋の外には、十歳程度の少年が、そーっとこちらを伺っていた。

 金髪、しゅ眼。おかっぱ頭。ブレザー姿に半ズボン。

 ともすれば少女のようにも。いやあ、いい仕事(?)してますなぁ。


 金髪のレイ・アヤ○ミ? いえ、なんでもないです。


 表情はどこか不安げ。ママ氏からの遺伝だろう整った顔立ちではあるが、目を伏せがちで、覇気というか、自信がなさそうにも感じられる。


 いやあ、まつ毛が長いねぇ。銀河鉄道999のメー○ルですか? もしくはちょっと昔の少女漫画から抜け出してきましたかー? ベル〇らですかー?


 どうしよう薄い本が分厚くなりそう。

 これは大変な美少年くんでございますなー。眼福、眼福ぅ。



「パパ、ママ。あの子はだあれ?」

「ん? おお、カインはワシらの息子であり、カミラの兄であるぞー」


「にゃあ。お兄ちゃん?」


「そうよぉ。カミラのように私は産んであげられなかったけれど、儀式で生まれた私達の息子で、カミラのお兄ちゃんよぉー」

「お兄ちゃん!」



 私は、ズバッと彼に手を差し出した。

 おいでおいでする。

 そんなところにいないで、部屋に入ってきて、と。



「――ひっ!?」



 なのに彼は、どこかへ走って行ってしまった。ええーっ、なんで?



「ほんのすこーし人見知りなのがなぁー」

「そうよねぇ。人によっては、かなり人見知りと誤解されそうだけれど」

「つまり、カインお兄ちゃんに追いかけっこに誘われてるのね!?(超判断)」


「「あっ、カミラっ。どこへっ?」」



 一瞬だけ霧化してママ氏の抱っこから抜け出す。そして連続して変怪。持続力があって速い生き物。しばし考えて銀毛の狼に姿を変える。



「カインお兄ちゃーん! カミラと追いかけっこしよーっ!!」



 部屋を出て廊下に出る。

 どどど、と真紅の絨毯を駆ける。

 走りながら、鼻をスンスンさせる。

 10歳くらいの、幼い子どもの匂いをサーチする。


 ミツケタ。


 ミツケタ。ミツケタ。ミツケタ。ミツケタ。ミツケタ。


 途中、事情を知らないメイド服の使用人たちにぶち当たりそうになるも、瞬時に霧化して再び銀狼に戻り、また駆ける。


 走るの、気持ちいい!


 感覚だけで変怪を繰り返して兄を追う。


 たーのしー!!


 明らかに思考が幼児退行しているが、身体的自由に心が踊らないわけがない。


 前世の末期は常に苦痛とともにあった。

 血管炎性ニューロパチー。

 細動脈に炎症が起こり、末梢神経に鋭い痛みを与える。

 自分の場合、主にそれは足に症状が表れた。


 それが今や、なんの痛痒もない。


 素晴らしい! 生きてるって最高! 吸血鬼なので生きていると表現していいのかはわらないけど、そんなの些細な問題だよねっ! 細けえことは以下略なのよっ!



「にゃははっ。カインお兄ちゃん発見っ!」

「ひいいっ!? ぎ、銀狼!? ぼ、ぼくを狙っているの!?」


「待て待てーっ!!!」


「や、やめてとめて! ぼくは美味しくないよう!」

「にゃふふーっ♪」


 ジャンプ一発。狙いを澄まして兄に飛びつく。ズダンッと、捕らえる。



「た、食べないで!?」



 傍から見れば、倒れて腰を抜かしたショタっ子に襲いかかる銀狼であった。


 食べないよ。代わりに……。

 狼の長い舌でベロベロ地獄だよー!


 ベロベロ! ベロベロベロベロ! ベロベロベロベロベロベロベロベローッ!


 ウホッ、美少女みたいなショタっ子のほっぺをベロベロたーのしー!



「ちょ、くすぐったいっ!? やめてとめてっ!」

「ベロベロベローッ、ベロリンチョ!」



 そして変怪を解いて幼女に戻る。



「カインお兄ちゃん、つーかまーえた!」

「あう……」



 私、幼児退行したまま美形ショタっ子に抱きついて、今度は幼女キスを右頬にぷちゅっと致す。ついでに左にも、もう一発。



「も、もう……好きにして……うにゅ……」

「にゃふふっ、だーいすき!」



 テンションがおさまらぬまま、私は脱力して寝そべる今生の兄に、妹としてありったけの好意をぶちかましていた。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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