第3話 変怪(へんげ)を覚えたよ

 魔族の、それも最高位吸血鬼夫婦の娘に転生して半年が過ぎた。


 いやあ、驚きましたよ奥さん。

 あ、はい、私です。転生したら赤子になってた人です。


 それよりも奥さん、私、デカくなりましたよ。


 なーんか身体がキツイなぁーと思ったら、ばっと――バットになっていました。

 ええ、ダジャレです。ばっと、バットに。ボールを打ち返すアレではなく。


 すんごいでっかいコーモリさんに。


 現在、私、無駄に高い天井の無駄に豪華なシャンデリアで、逆さ宙吊り状態。



「カミラお嬢様! どうか変怪を解いて降りてきてくださいませ!」



 メイドさんたち、かなーり慌て気味に、私に呼びかけてくる。

 でもね、もう少しこの新鮮味を味わいたいというか……。

 というのも半年間、ずーっとベビーベッドで寝転んでいただけだったからね。

 ハイハイすらしてないよ。食べて寝てシモを漏らして。また食べて寝て。


 魔族の、しかも吸血鬼の赤子の生態とか、さっぱりわからない。


 それよりも。


 コーモリさんって凄いね。目を瞑っていても音波で風景が見えるし。

 これってエコーロケーションとか言うんでしょ?

 しかも、逆さ向きにぶら下がる状態でも頭に血が上らない。

 足部分が鉤爪状のため、でっぱりに引っかけるだけで身体を固定できるし。


 む。あれれ、気づいてしまったよ。これってもっとアドバンスな変怪があるね。

 どうすればいいのだろう。えーと、分裂、みたいな感じ?


 とたん、私の身体は千に分割された。

 小さなコーモリさんが群体となって、ばっさばさ部屋中を飛び回る。


 あはははははっ、何これ何これ!?


 たーのしー!!



「あらあら、まあまあ! これはどうしたことなの?」

「お、奥様! それが、お嬢様が突如変怪を習得なさいまして……」



 おっ、ママ氏だ。小振りなおっぱいサイコーな、美人のママ氏ではないですか。



「――ママッ!」



 私はスルリと変怪を解いて千に分かれたコーモリを融合、人の姿に戻した。そしてママ氏の前にちょこんと立つ。



「ママッ! あのねあのね! コーモリさん気持ち良いの!」

「あらあらあら! まあまあまあ! カミラが、カミラが! わたくしの可愛いカミラがママと! ママと呼びましたわ! 今日はオセキ・ハーンの日ね!」



 オセキ・ハーン。祝い事があると食べる小豆と餅米の蒸し飯。魔族の伝統料理。



「おめでとうございます、奥様!」

「しかもちゃんと身体が成長しているわ! 半年間の魔力吸収も順調。ああ、そこのあなた、うちの人を早く呼んであげて! 執務室にいるから! 大至急ね!」

「はい、今すぐ!」



 言いながらママ氏は私を優しく横抱きにしてくれる。と、ここで自分が全裸であることに気づいた。年嵩三歳くらいの、マッパつるペタ幼女である。


 えーと、やはりそれっぽいドレスが必要になるね。

 素っ裸でもちっちゃい子供には羞恥心なんてないとはいえ、私は例外。


 まず下着は普通にショーツとキャミソール、その上に黒を基調にしたドレスを。


 んん、そういえば某モリガンや某リリスのようなレオタード型もいいかも。ああでも、彼女らは夢魔だったか。レオタード衣装の少女吸血鬼も悪くないのだけどね。


 迷ったが結局はママ氏のドレスに似せた、シンデレラドレス風(黒)に決定する。


 ドルマンスリーブ、装飾をこれでもかとあしらったペタンコドレス胸部に、外部に透け透けチュール生地を幾重にも重ねた絹のブラックロングスカート。

 なお、ママ氏の頭部にはルビーと白金のティアラが輝いているが、これは真似をせず自分にはブラックヘッドドレスにしておいた。靴はヒールではなくパンプスで。


 端的に表現すると、洋風結婚式に女性が着る、純白のウェディングドレスを漆黒のドレス生地で作ってみました的なもの。


 ヤンデレっぽくて、いかにも貴族階級女吸血鬼が着そうというか……。


 それらをすべて、自らの魔力――だと思うのだけれども、とにかく形作る。


 ぎゅっと集中力が重なる。ユニークスキル、、発動ス。


『呪いのボンテージ』


 やいなや、思い浮かべた漆黒のドレスがシュルシュルと幼児ボディに沿って形を持ち、ふんわりと着せられてゆく。


「この子ったら、天才かもしれないわ……」



 ママ氏は何かに圧倒されたみたいに、ドレス姿になった幼女の私を見つめた。

 いえ、いえ。これくらいはね、できて当然ですよ。

 私はニコッと彼女に微笑みかける。幼女の効果バツグン無邪気スマイル。


 とりあえず、にゃあ、とお返事しておく。


 パパ氏とママ氏、お二人から良質の魔力を一日三度、半年に渡り欠かさず頂きましたので。しかも魔力を通して、感覚的ではあれど魔法の扱い方を学びました。


 私は微笑みかけるだけでなく、ママ氏に幼女っぽく抱きついて頬にキスをする。



「――どうしましょう、娘が可愛いすぎて鼻血が出そうですわ!」



 彼女はうっとりしている。というか、出てますよ、鼻血。


 つうっと鼻から赤い一本線のママ氏。見た目は金髪ロングに燃えるようなしゅ眼、目鼻立ちの整った美人さんなのに鼻血ですべてが台無しに。



「カミラが言葉を話したと聞いたが……おお、わが愛しい娘! なんと、もうドレスを着せたのか? ワシも選びたかったのに」

「にゃあ。パパ、このドレスはね、カミラのそーぞーまほーなのよー」

「うおお……」



 パパ氏、突如として手をワキワキさせながら言葉に詰まってしまった。



「みゅっ? どうしたの? パパ?」

「うん、うん! ワシがパパである! パパであるぞ! むふぉ……愛娘にパパと呼ばれるこの善き日よ! ワシ、感動の嵐! 鼻血出そう!」



 あ、はい。鼻血ね、出てますね。

 ロマンスグレーの美形紳士、パパ氏は鼻血一本ですべてがシュール&台無しに。


 パパ氏はママ氏ごと、外側から私を抱きしめた。

 せっかくなので父親へサービスを。私はパパ氏の頬に幼女キスをする。



「ウホッ。娘のチュウ、キタコレッ!」



 パパ氏、鼻血のままキタコレ宣言。というか、キャラがブレブレになってません?




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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