ピアス

私の胸に顔を埋めながら、ピアスの話をしていた。


話ながら、思い出していた。


高校を卒業し、春樹と同棲して一年が過ぎた頃。


私は、春樹の優しい愛が物足りなかった。


「ねぇー。春樹。殴って」


「嫌だよ」


「ほら、してる時だけでもいいから」


「そんなの嫌だよ」


引き寄せて、抱き締められる。


こんなのいらないのよ。


「ねぇー。お願い。痛め付けて。ほら、これとかこれとか」


私は、ムチや蝋燭などを見せる。


「いや、こんなの買わなくていいから」


春樹は、そう言って苦笑いを繰り返した。


「お願い、やってよ」


そう言った私の頬をつねった。


「足りない」


「足りないって、言われても…」


春樹は、眉間に皺を寄せた。


「じゃあ、これを開けて」


私は、春樹の耳にあるピアスをさわった。


「どこに?」


「全身」


「全身に開けるの?」


春樹は、驚いていた。


「あそこにも?」


「もちろん、開けるとこなくなったらね。まずは、耳から」


そう言って、一つ目のピアスを左耳の一番上に安全ピンで開けた。


「っつ…ハァー、んっ」


「気持ちいいの?」


「うんっ、凄くいい。愛されてる」


「殴られるのは、愛じゃないよ。痛みだって、愛じゃないよ」


「いいの、それでも、春樹。お願い」


春樹は、わかったと言って開けてくれた。


左耳に五つ、右耳に五つ、へそに開けてもらって…。


最後に開けてもらったのが、胸だった。


「春樹」


「これは、絶対痛いよ」


「大丈夫よ」


「ハンカチ噛む?」


「春樹の手を噛んだら、血がでるわね」


「噛んでいいよ」


「なぜ?」


「静樹が、感じてる痛みを俺にもわけてよ」


「わかったわ」


私は、春樹に指をいれてもらった。


「自分で持ってて」


そう言われて、ギュッと掴んだ先に、消毒をされて、一気に針を突き刺した。


慣れたものだった。


「んんっーーっっ」


「痛いっ、っつ」


春樹の指先をゴリっと噛み締めたのを感じた。


口の中で、鉄の味が広がっていく。


ゆっくりと、春樹は指を抜いた。


「ごめん」


「っー。大丈夫だから」


指の皮が捲れ、ボタボタと血が垂れた。


「本当に、ごめんね」


「いや、大丈夫」


春樹は、ティシュで一生懸命血を止めていた。


春樹は、ピアスを開ける度に悲しそうな顔をしていた。


「なに?」


「赤く腫れて可哀想だね。静樹の体は痛め付けられる度に泣いてる」


「そんな事ないよ」


「そんな事あるよ」


春樹は、その日から左胸を見る度に優しくキスをするようになった。


私は、あの日のピアスをなっこにはずしてもらった。


はずしてもらったあの日、胸がスースーした。


それと同時に、ジンジンした。


春樹との関係が、消えてしまったのに…。


それを終わらせたのが、なっこだった事に嬉しさで胸が震えるのを感じた、


どう呼ぶべきかわからない愛。


でも、ずっと探し続けた愛。


あの日、失くした欠片を集めても集めても、辿り着けなかったのになっこに出会って一瞬で辿り着けたのを感じた。


なっこに瞼に、キスをされた。


柔らかい唇が、れた。


心臓が、ズキンズキンするのをバレないようにした。


なっこに、バレたくない。


バレたら、私と居てくれなくなる。


だから、絶対バレたくない。


なっこと一緒に買い物に行く。


今日は、なっこの誕生日だから、いつもと違う方がいい。


行き道で、なっこがお花屋さんで立ち止まった。


まだ、縛られてるのは知っている。


なっこの為に、ネックレスを選んだ。


絶対に似合う。


これが、いい。


帰宅して、誕生日パーティーをする。


私は、なっこにネックレスをつけた。


ネックレスを確認しに行ったなっこが、なかなか戻ってこないから洗面所に向かった。



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