美しさ

開かれたままの洗面所で、なっこは、自分で自分を撫でていた。


物欲しそうな顔を浮かべながら、口に指を入れた。


私は、なっこのその美しさに目を奪われ続けた。


この表情をさせるのが、彼ならば私は変わりにはなれないのではないだろうか?


「なっこ」


声をかけた、私と鏡越しに目が合った。


私は、なっこに近づいた。


なっこは、私の手を鎖骨に持っていく。


さっきの見ていた通りに動かす。


なっこは、さよならをしに行くと決めた。


ケーキを食べる。


私は、なっこしかいらなかった。


あの桜の木の下に向かい声をかけられ。


春樹さんも、現れた。


なっこが、従兄弟に彼を見ているのがわかった。


私の気持ちは、複雑だった。


春樹さんと共に、そばを離れた。


「静樹さんは、なっこさんの彼氏ですか?」


「いえ」


「そうなんですか、お二人は友人ですか?」


「そうですね」


「静樹さんは、なっこさんを好きじゃないんですか?でも、あのお店で働いてたって事は、そっちですよね」


「悪いかしら」


「いえ、悪くないですよ」


「そう、私は少し離れた場所にいるわ。春樹さん」


「わかりました。」


私は、春樹さんから離れた。


一緒にいたくは、なかった。


私となっこの間に、誰かが入ってくるなんて、この四年間一度もなかった。


いや、もう少しで五年か…。


私は、ポケットから電子タバコを取り出した。


「ふー」


心を落ち着かせたかった。


さっきの人に、手紙を読まれ泣いているなっこを想像する。


胸が潰れそうな程、痛んだ。


ポケットに、電子タバコをしまう。


私は、目を閉じて春樹の指輪をゆっくりとさわる。


春樹、私は何をしたいの?


春樹、私はなっこを失いたくない。


春樹、私は自分の気持ちを押さえられない。


「静樹さん、行きましょう」


そう声をかけられて、目を開いた。


「終わったのですか?」


「はい」


春樹さんとなっこの元に戻った。


私は、スマホでタクシーを呼び出した。


なっこと一緒に帰宅した。


右手の薬指を差し出した私に、なっこは、出来ないと言った。


彼の手紙の内容に、私は春樹を思い出した。


見せなかった手紙を渡した。


なっこが、私を受け入れてくれようとしたのに…。


その視界に春樹の手紙が入ってきて、私は泣いた。


蛇口の栓が、壊れたように泣いた。


泣きながら、ドレッサーに手紙をしまった。


なっこの言葉が、心の中に降り積もっていく。


私は、なっこと居たい。


でも、なっこにはさっきの従兄弟の方がいいのではないかと思った。


並んで、歯を磨く。


その唇に無理矢理キスをして、全てを忘れさせてあげたかった。


好きや愛してるなんて、簡単な言葉で表す事は、もう出来ない程に、私となっこは強く惹かれあっていた。


スルスルと纏っていた衣服を脱ぎ捨て、パンツ一枚で寝室に向かった。


横たわって、掛け布団をかぶった。


しばらくするとなっこが現れた。


私は、なっこを迎えいれた。


私は、なっこに話した。


本当は、なっこの形になる事を全身が望んでいた。


昔、お店で働いていた七緒ちゃんが結婚したのを思い出した。


「どうして?」


「彼女は、違うのよ。静樹ちゃん」 


「何が違うの?」


「いつか、静樹ちゃんにもわかるかもしれないし、わからないかもしれない。好きや愛してるなんて、簡単な言葉じゃあらわせられない相手なのよ」


その言葉に、頭の中でハテナマークが飛び交っていたのをよく覚えている。


なっこの息が、胸にあたる。


さっきよりも、ゾクゾクする。


私は、なっこを抱き締める。


下半身は、何も感じていない。


なのに、心はなっこへの思いを流していた。


ただ、この思いに名前をつける事が出来ずにいた。




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