大河ドラマ「徳川慶喜」感想(9)

第45話「大政奉還」

老中「坂本龍馬なる者の船中八策」

さかもっさあの出番まだあったんだ。

不自然なごり押しなので、とにかくあと一回ぐらいは坂本の名前を出さんと許さんという圧力があったのかと勘繰ってしまうくらいやな。

大久保と原の鍔迫り合い、旗本連中のドグサレっぷり、薩土盟約、全部スルーしての大政奉還回。

そういうものを全部書いていったらあと一年分は必要になってしまうけど、やっぱり幕府終焉がいかに必然のことだったかを表すには必要なことだったよなあ……


しかし貴重な尺をくってのオリキャラパートは個人的には嫌いではない。

視聴者として息抜きになるし、ドラマにも膨らみが出るから。

幕末京都にああいう飲み屋が実在したら、ふるさと館みたいな感覚で幕府関係者に結構需要ありそう。


寅之介「薩長がなんです、朝廷がなんです、外国がなんです! みんな滅ぼせばいいのです! あんな陰険な奴らに政権をわたしてたまるものか、中根どのも平岡どのも原どのも、みなやつらに殺されたのではありませんか!」

いや中根を殺した犯人は不明(水戸浪士説あり)、平岡を殺したのは水戸浪士、原に至っては殺したのは旗本だしなあ……

木に登って自分の乗っている枝の根元を切るような真似、よくできたよなあ。

そして慶喜の議題草案の扱いは、あたかも遺書のごとし。

この回の慶喜が滲ませるのは諦念。

260年続いた政府の一員としての誇りを誰よりも持ちながら、その頽廃と回復不可能なことを知り抜き幕引きをしなければならない苦渋が、穏やかな表情から流露してくる。

せっかく作った議題草案だけど、譜代旗本が喜ぶようなものなら新生日本を預ける政治構想としては使えないと判断して葬り、大政奉還を決意したという解釈でいいのかな。


モックンの演技も演出も素晴らしくて慶喜の胸中が生々しく伝わってくる。

しかしそれだけに、幕府崩壊の根本原因たる、旗本全体の末期的な頽廃ぶりがきちんと描かれなかったのが残念。


小松「我々は幕閣など問題にしておりません。問題なのはただ一人、将軍徳川慶喜だけです」

ほんとこれだよなあ。

disるにしても薩摩こそがいちばんまっとうに、幕府と慶喜の真価を見抜いている。


幕府方は討幕の密勅を知らず、大政奉還と密勅発出がほぼ同時だったのは偶然と言われているが、あるいは後年の慶喜たちが外聞を憚ってそういってるだけで、実はこのドラマのように、密勅発出を知り先手を打つために大政奉還というものだった可能性もある。

幕府の命日たる大政奉還は10月14日、原の月命日にあたるのは、もしかして合わせた?と思っていた時期もありました。

でも実際の政治の渦中はそんな甘っちょろいことじゃなくて、もっと生々しくて切迫した理由で決まるものだよね。


慶喜「寅之介」

寅之介「はい」

慶喜「大政を奉還するぞ」

寅之介「はいっ……!><。」

寅之介はこの世界観における、「大政奉還の実施を初めて聞いた人物」なんだから重要キャラ。役者さんは若いのに演技巧いよ。


岩倉のファナティックなキャラはステロタイプを脱していて好きやで。

維新ではなく復古を熱望する岩倉。

とにかく滅幕、その後のことはその時考える、な薩摩。

せっかく作った政体構想も自ら葬り大政奉還する慶喜。

色んな思惑を抱えつつ状況はクーデターへと突き進む。


「青天を衝け」は少ししか見られていないけど、慶喜を聖人君子に描きすぎてる感があってちょっとねと思う。

「徳川慶喜」の慶喜は、英邁だけど怒り、苛立ち、不満、焦りといった人間臭い部分もちゃんとあるのがいいんだよ。

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