大河ドラマ「徳川慶喜」感想(7)

第42話「孝明天皇の死」

この大河、幕末ものにつきものの方言がほぼ出てこない。

例外は中山五郎左衛門と公家の御所風しゃべりぐらいで西郷も標準語。

このドラマの西郷は外見も結構似せているし、人情家なせごどんイメージとは対極のブラックな策謀家でとても良い。

序盤で登場したときはまだ青臭い書生風だったのが、二度の島流しを経た元治以降は怪物感が出てきて、しかも出てくるたびにその印象が深まるのが凄い演技だなと思う。

大久保もこの回でようやく暗躍ぶりが具体的に書かれるようになってきたし。

(追記・たまたまテレビをつけたら渡辺徹さんの死去について触れていて、代表作として流れた映像が「徳川慶喜」の西郷役だった。

NHKだからと言われればそうなのだが、西田隆盛を見た後ではさすがに一歩を譲るものの、佐幕ものにおけるヒール役を存分に体現した素晴らしい演技でした。

心よりご冥福をお祈りいたします。2022年12月4日)


しかし慶喜がいかに新知識を学び幕政改革に尽力し、それが薩長を本気で畏怖させるレベルのもので幕府の延命にもひとまずは役に立ったという事をきちんと書いたドラマはこれぐらいだろうな。

この努力が結局はすべて無駄になってしまうのか…と思うと悲しいが、それでもこうやって西洋の制度や国家とは何かという観念を学んだことで、日本のために幕府に完全に見切りをつけ新政体にバトンを渡すという決断ができたのだと思いましょう。


大久保「起きろ、西郷!」

すご……

どんな創作物でも西郷大久保の描写はそれなりに上下関係を滲ませるものだけどこのドラマは完全にタメ。

実態とは違うと思うけど嫌いじゃない……常にイライラして血の気が多い大久保のキャラも。


このドラマで西郷が二度目の島流しから許されて帰還したときの西郷と大久保の会話

大久保「島では苦労したようだな」

西郷「まあな」

大久保「(久光の前では)今度こそ穏やかにしてくれよ」

西郷「わかっておる」

完全に対等なのがクールでなんかすき。

史実とは違うという認識があることが前提の萌え。

歴史創作物でよくある、西郷と大久保のお互いの呼び方「一蔵どん」「吉之助さぁ」はそれぞれ「くん」「さん」ぐらいのニュアンスだと思う。

対等な関係ではない。

そして史実ではおそらくもっと上下意識があったと思う。


第43話「議題草案」

孝明天皇の死は安易な暗殺説に傾くことなく、時代は幕府最後の年に突入。

当代最高の知性・西周を独占しての慶喜の勉強は続く……ロンドンに亡命してほしかったな(唐突)


会桑「御所を砲撃した長州を許してはいけません! これは正義の問題です! 許すなら我ら辞職して国に帰ります!」→わかる

慶喜「正義だけで国を動かせるか! あと辞職も許さん」→わかる

?「長州はわるくないもん尊皇だもん」→???


唐突に西周とABCDを唱和し始める慶喜。

こういうのほほんとしたシーンはもう尺がほとんどないこの時期に何やってんだとも思うが、やっぱり史実パートが見ているだけで胃に穴ものの辛い展開だからなくなると困るのだよな。

そして慶応3年前半期最大の懸案事項、兵庫開港勅許問題が俎上に挙がってきた。

この問題で慶喜が完勝しすぎたから、薩摩はもう政治ではだめだと判断し武力討幕に踏み切ったという側面もある。

政治って難しい…


いくら突っ込みが入るとはいえ、夫が出張中の人妻と男やもめが密室で差し向かいは現代感覚ですらちょっとねえ……放送時の前年は「失楽園」ブーム……いやなんでもない


結局のところ、どんなに改革、リストラ、組織制度変更を実現したところで、封建制度と身分制度(武士の存在)が完全に行き詰まっている以上幕府の終焉は避けられなかったと思う。

武家の棟梁にして最大の封建領主たる徳川幕府の存立基盤であり、否定すれば幕府の権力的優位の正当性もなくなるから。


桂「西郷、あなたの番です」

呼び捨てに敬語使いの桂小五郎


43話後半10分はモックン怒濤のコスプレショー

フランス皇帝の軍服に、黒烏帽子に白系キラキラの直衣?

漆黒の衣冠束帯をはまた違ってかっこよろしおすなあ!

あくまで日本の元首として目上の立場で、インパクトも与えないといけないからああいう衣装を選んだのかな


正直慶応以降の薩摩藩士の策謀暗躍ぶりを薩長同盟以外具体的に書いてこなかったので、西郷の慶喜危険視描写には脳内補完が必要

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