大河ドラマ「徳川慶喜」感想(2)
大河ドラマ「徳川慶喜」を語るには、まず脚本家田向正健氏の個性について語らねばならない。
私は田向作品の良い視聴者ではない。
これまでに視聴した田向作品は大河ドラマ3作品だけ、「武田信玄」を1回と「信長キング部ジパング」を2巡したのと、そして今回「徳川慶喜」を2巡目したのがすべてである。
しかし実際、田向作品を追いかけようとしたら難なく視聴できるのは大河ドラマぐらいしかないというのが現状だ。
田向先生初の大河である「武田信玄」は完全に正統派、重厚で荘重。
しかし後の2作品に共通する「主人公ないしメインヒロインに幼少から仕える強烈な怪物的オリジナルキャラクター」「ファンタジックでオカルティックな要素」が出てくる。
原作をつけないオリジナル脚本となった「信長」ではその傾向が完全炸裂。
加納随天、大河史上でも一二を争うオリキャラモンスターであろう。いやな優勝争いだな。アデレーベ、オブリガード!
で、3作目であるこの「徳川慶喜」である。
一応、原作は司馬遼太郎「最後の将軍」とクレジットされているので司馬大河ということになるのだろうが、これはもう慶喜の人生を知る参考資料の一つという扱いでしかない。
事実上は、慶喜ageageの「徳川慶喜公伝」をベースに、脚本家が独自に組み立てたオリジナル脚本といっていい。
本作はとにかくオリジナルキャラが異常に多い。
大河には「いのち」や「琉球の風」のような特殊な内容のものもあるが、実在する有名歴史人物を主人公に据えた大河としてはおそらく屈指の多さと思われる。
しかし、残念ながら使いこなせたとはいいがたい。
上述の主人公の幼少期からの従者キャラに相当するのは老女の松島だが、単体で見ればウザキャラだけど、八重や随天を知っている身からすればほとんど人畜無害のレベル。
何より、散々出張っただけでオチがついていない。
八重や随天のように死んでほしいというのではない。
ドラマのキャラクターとして何らかの決着を見せてほしいということなのだが、結局は「その後も慶喜公にお仕えしたんでしょうね多分」で終わり。
このドラマはそんなオリキャラばっかりで、きちんとドラマ内で決着をつけたオリキャラは、新三郎関連と、永原、うめとさくらぐらいじゃない?
中山五郎左衛門と息子は結局どうなったの?
松島は慶喜の心情の代弁者、中山と新三郎は時代の空気を伝える、うめとさくらは時代の両側面を象徴するという役割はまあわかる。
新三郎絡みは新門辰五郎が慶喜に心酔して尽くすようになる理由付けとしての意義もある。
その他
・駆落ち行為に対する慶喜の対応力を見せることで後年の政治力の片鱗を表現
・左衛門と我が子の死と絡んで、鷹揚だった慶喜が心を硬化させていく
という伏線にはなっている。
しかしそれ以外はなあ……
冒頭の火消し三バカ(上島竜兵さんのご冥福をお祈りします)、おれんと会津藩士の失楽園もどき、およしとガンツムの実母問題、結局何だったの?
しかもそのせいで実在人物の描写も政治パートも割を食いまくり。
このドラマは3話で黒船が来て最終49話で無血開城、つまり47話分かけて徳川幕府最後の15年間を書くという構成になっている。
明治維新以後のことも描かないといけない近代またがり大河に比べれば恵まれている、はずなのだが。
徳川慶喜という政局の渦中オブ渦中の人物を描くには本来これでも全く足りない。
直近の政局だけじゃなく水戸の事情も書かないといけないし。
ただ、オリキャラを一切入れなかったとしても慶喜中心で幕府最後の15年間をみっちり描き切るというのは困難なことだったかもしれない。
つづく。
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