第6話 新しい町と門番

それから数日後、ディグルは隣町に着いた。

森に自生していた果実や根菜などで飢えを凌ぎ、街道付近を流れる小川でのどの渇きを癒した。

街道を行き来する商隊に同行させてもらえばもう少しまともなものにありつけたのかもしれないが町に着くまでは余計な面倒は避けたい。


どうせ町に着けば嫌でも面倒に巻き込まれるのだから。


それにスキルのこともある。

この国では初対面の相手は互いに自身のステータスプレートを見せるのが風習というか挨拶だ。

相手がどんな祝福を受け、どんな職に就いているのか、そして信頼に足る人物なのか、それらを判断するために根付いた文化だ。

スキルで人生が決まる、この国らしい文化だと思っていたが犯罪スキルを得てしまったディグルにとっては厄介な風習でしかない。


しかし、ディグルと手商隊に取り入ることを全く考えなかったわけではない。

詐術でうまく騙せばいくらでもやりようはあったし、ステータスプレートを見せずにすることもできた。

だがそうすれば本当に犯罪者の仲間入りをしてしまうことになる。

善く生きるつもりなどないが進んで悪く生きるつもりもない。

スキルを悪用するのは最終手段。

ディグルはそう固く決めていた。


そしてそんな時を経てようやく町に着いたのだがここでも問題が生じる。

長らく戦争が続いているこの世界では町に入るためのチェックが厳重だ。

持ち物の検査はもちろん、ステータスプレートの確認、町へ来た目的など洗いざらい調べられる。

門には国から派遣された真偽官が常駐している為嘘はつけない。

嘘をついたことがバレた時点でスパイ容疑をかけられ王都へと強制連行される。

それに入市税も決して安くはない。


ディグルがいた孤児院では盗みは盗まれた方に非がある。

ディグル自身んは盗んだことはないが孤児院にバイトで稼いだ銅貨を取られ、痛い目を見たことがある。

それ以来、金銭は肌身離さずに持っていた。

だから着の身着のまま町を飛び出してきたディグルではあったがお金だけは持っていた。

とはいっても孤児院の子供が持てる金額などたかが知れている。

入市税をなんとか払える程度だ。


「次の奴。あ?まだガキじゃなぇか、どうした?」


門の前で待つこと数分、ディグルの番が来た。

嘘はつけない、かといってステータスプレートを見せていい反応をされることはないだろう。

ディグルはどう対応するか決めかねていた。


「おい、聞いてるか?成人してるならとりあえずステータスプレートだ。あとこの町に来た目的を言え。」


黙ったまま反応がないディグルに門番がステータスプレートを催促してきた。

それでもディグルは下を向いたまま微動だにしない。

それを見かねてか門番んは自分の頭を掻きながら膝を折りディグルの視線をとらえようとしたから覗き込む。


視線が合った。

門番はいかつい顔でそのごつごつとした顔を横切る古い切りが印象的な大男だった。

背中には大き盾を持ち、腰には太い剣が指してあった。

そして胸にはこの国の騎士であることを示すエンブレムが爛々と輝いていた。

それを見たディグルはますます口を堅く閉ざした。

よりによって町の自警団ではなく国の騎士が門番をしている町に当たってしまうとはなんともついていない。


ディグルは成人の儀を終えてから何度目か、自分の運命を呪う。

つくづく運に見放されている。


「ったく、訳ありか?取り合えずこっちに来い。心配すんな、話を聞くだけだ。お前みたいなガキ取って食いやしねーよ。」


なおも頑なに黙秘を続けるディグルに門番の男はそういうとディグルの肩を掴み、別室へと連れて行った。


「おい、俺はこのガキから話を聞いてくるからあとはまかせるぞ。」


門番の男はもう一人の騎士らしき男に声をかけると抵抗しようとしたディグルの力など全く感じていない様子でディグルの肩を掴んだまま別室へと連れていく。


がっつり掴まれているのに、不思議と全く痛くはなかった。











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詐欺師で勇者な俺 銀髪ウルフ   @loupdargent

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