壊れゆく心

「それが、最後の言葉なの?」


静樹は、涙をボロボロ流していた。


若さだ。と言えばそれまでだった。


私は、静樹と同じ檻に閉じ込められた。


「ねぇー。私に静樹をちょうだいよ」


「なっこ」


「犯人は、私を探したんだって。この男が、ここまで言うならどんなに素晴らしい女性なのか、味わってみたかったって」


「なっこが、生きていてよかった」


静樹は、私を強く抱き締めてくれた。


「静樹、私はもう逃げられないじゃない。」


「なっこ」

 

「最後の言葉は、なに?ひかるは、私を許さないじゃない」


「そんな事ないわよ」


静樹は、私の髪を優しく撫でる。


「私は、ずっと光を待つしかないのよ」


「それは、違うわ。彼は、死ぬなんて思わなかったのよ。イタッ」


気づくと私は、静樹の左胸の膨らみをギリッと噛んでいた。


「ごめんなさい」


「忘れさせて欲しいのね。心が、壊れそうなの?それとも、壊れたの?」


静樹は、そう言って私の頬に手を当てる。


私は、静樹をソファーに押し倒した。


「なっこ」


「キスして、静樹の形にして」


「わかったわ、なっこのしたいようにしていいのよ」


静樹は、そう言って笑った。


私は、静樹にキスをした。


「んっ…」


静樹の唇は、想像以上に柔らかくて、口の中は、想像以上に暖かくて、私は何度も何度も静樹にキスを繰り返した。


「なっこ」


唇を離した私に、静樹がそう言った。


私は、静樹の首筋にキスをしてゆっくりと下に…



リリリーン


まただ。


私は、その音を無視して続けようとした。


「なっこ、駄目よ。出なきゃ」


そう言われて、静樹の上から降りた。



「もしもし」


『ロッカーの場所がわかったみたいです。』


「そうですか」


『警察が、なっこさんに確認して欲しいもんがあるそうです。』


「私にですか?」


『今から、これますでしょうか?』


「わかりました」


『では、……署に来て下さい。』


「わかりました。」


プー、プー


「なっこ」


電話を終えた私を静樹が呼んだ。


「警察に行かないと行けなくなった。」


「そう」


「仕事場に、電話してから用意する」


「わかった」


静樹は、モコモコのルームウェアを着てる。


さっきの勢いを失ったせいで、私は静樹に、もう一度キスが出来なかった。


「静樹、服着替えてくるね」


「ついていく?」


「わからない」


静樹は、通りすぎる私の腕を掴んだ。


「彼の従兄弟に抱き締められるわね。きっと…。なっこは、もうずっと泣いているから」


静樹は、目を伏せた。


「じゃあ、ついてきてよ。私の意見なんか聞かずについてきてよ」


「なっこ」


静樹が、悪いわけじゃないのに…


この悲しみを怒りを悔しさを、ぶつける場所が見つけられなかった。


「行くわ」


静樹は、そう言って立ち上がった。


「私は、春樹や光さんと同じよ。なっこを誰にも取られたくないもの」


その言葉に私は、静樹に近づいた。


「帰ってきたら、私を静樹の形にして、ここも、ここも、ここも」


静樹は、その言葉に泣いてる。


「わかったわ。しましょう。私の形にしてあげる。」


頬に当てた手で、涙を拭ってくれる。


「私は、静樹のものよ」


「うん」 


「誰もれさせないで」


「わかってるわ」


私達の間に、もう誰も近づけて欲しくなかった。


「静樹、職場にかけてくる」


「わかったわ」


スマホを持って、洗面所で電話した。


今日は、休みをとった。


服を着替える。


洗面所の鏡で、静樹にキスをした唇をさわった。


20年ぶりに、人の唇にキスをした。


柔らかくて、トロけそうで、何度もしていたかった。


あの唇が、首筋にれれば…


私の体にれれば…


光を忘れられる気がした。


「なっこ、着替えないと」


「あっ、うん」


静樹に見られたのでは、ないかと思った。


唇をさわった左手の人差し指一本で、私は体を撫でていた。


「なっこ、帰ったらいくらでもしてあげるわ」


静樹は、後ろから私を抱き締めて耳元で囁いた。


息をかけられてゾクゾクッとした感覚が、体に伝わる。


「ハァー、静樹。私は、静樹のものになりたい」


その言葉に、静樹はさらに私を強く抱き締めてくれた。




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