目覚めた朝

朝目覚めると静樹の姿はなかった。


嫌よ、静樹。


下着姿のままで、キッチンに行った。


「あらら、慌てなくても今日はゆっくりじゃなかった?」


いつものように静樹が、キッチンにいた。


ホッとして、床にヘナヘナと座り込んだ。


「どうしたの?服着たら?」


火を止めた静樹は、私に近づいてきた。


静樹は、私のどんな姿も受け入れてくれる。


「静樹」


静樹の首に腕を回した。


キスをしそうな程、唇を近づけた。


リリリリーン。


「なっこのじゃない?」


私と静樹は、寝室にスマホを持ち込まない。


スマホは、リビングにある。


「誰かな?」


私は、下着姿のまま立ち上がった。


キスをしたかった。


胸がズクズクと波打っているのを感じながらスマホを見る。


ひかるの従兄弟だった。


「はい」


『朝早くに失礼します。』


「はい」


『先ほど、犯人が光の殺害を自供しました。』


「そうですか」


『はい。遺体の一部は、少しづつ海に捨てたらしいです。』


「そうですか」


やけに、冷静に頭の中がクリアになっていく。


『海に捨てれなかった遺体は、……山林に埋めたそうで、警察が朝から捜索活動をしています。』


「ずいぶんと、遠くに連れていかれたのですね」


『はい。後、犯人がコインロッカーの鍵を持っていたようで…。そちらのロッカーを警察が調べています。』


「犯人は、一人だったのでしょうか?」 


『いえ、もう一人いたそうですが…。犯行後、しばらくして自殺したそうです。』


「そうですか」


『まだ、動機などはわかっていません。それと、犯人からの伝言で………さんに伝えて欲しいと笑いながら刑事さんが言われたそうです。その話をされて、犯人は……さんを味わってみたかったと言ったそうです。』  


「そうですか」


『また、何かわかりましたらご連絡します。失礼しました。』


「はい」  



プー、プーと切れた電話の音がやけに遠く感じた。


「なっこ、服着なきゃ風邪引くわよ」


そう言った静樹は、驚いた顔で私を見ていた。


「どうしたの、何があったの?」


「何が?」


「泣いてるのよ、なっこ」


「えっ?」


私は、泣いてる事にも気づかなかった。


だって、心はこんなにも冷静なんだもの。


「なっこ、服持ってきてあげるから」


「行かないでぇ」


自分が思ってるより大きな声が出て、自分自身が驚いた。


「なっこ」  


そう言った静樹の腕を握りしめた。


「どうしたの?」


私は、静樹の付けてるエプロンを外す。


静樹の大好きなふわふわのルームウェアが、あらわれた。


「なっこ」  


チャックをおろして、上服を脱がす。


もう、無我夢中だった。


「なっこ、やめて」


気づくと静樹のものを掴んでいた。


「ダメよ。そんな事」


静樹の言葉に、手を止めた。


「なっこ、私はいなくならないわ」


そう言って、静樹は下着をはいた。


「ごめんなさい。ぁーぁああああーぁぁぁぁああああ。」


「なっこ、大丈夫だから、大丈夫」


静樹は、下着姿の私をダイレクトな温もりで包み込んだ。


「静樹抱いて、抱いてよ」


「どうしたの?」


「もう、忘れさせてよ」


私は、静樹の胸に顔を埋める。


さっきの言葉を口に出せば、心が粉々に割れてしまうのなんてわかりきっていた。


でも、私は自分の中で抱え込んでいたくなかった。


「静樹、犯人が光を殺したのを自供した」


「えっ?」


「一部は、海に捨てて、残りは山林に埋めた」


「もう、亡くなっていたの?」


「いずれ、骨が見つかるでしょ?」


涙が目に溜まっていく感覚をやっと感じる。


「なっこ、大丈夫?」


「大丈夫よ、こんなに頭はクリアだからといって」


会ったことも見たこともない犯人が、ニタニタと高笑いを浮かべてる姿が目に映る。


「静樹」


「なに?」


「犯人が、私に伝言をくれたの」


「なんて?」


「亡くなる寸前に、彼が言った言葉をね。笑いながら、プレゼントしてくれたのよ」


「なっこ、大丈夫?」


私は、静樹の左胸に手を当てていた。


「俺はなっこに会いに行かなアカンのや。なっこを俺が幸せにするんや。だから、なっこ待っててくれ。ずっと、俺だけを待っててくれ。俺は、なっこだけを愛してる。なっこは、俺のや。お前らなんかに渡さへん。」


静樹の顔が、強ばったのが見えた。



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