静樹の手紙
その言葉に、静樹は共用で使っているドレッサーの静樹が使用している引き出しを開けた。
中から、細長い封筒を取り出した。
「なっこ、読んで」
そう言って、私にその手紙を渡した。
私は、ゆっくりと手紙を広げた。
【静樹へ】
俺はね、凄く静樹を愛してます。
静樹が、誰かにとられたら生きていけない。
静樹が、誰かに
必ず、静樹を迎えに行く。
時間は、かかっても待っていて欲しい。
それまで、この指輪は右手につけていて下さい。
静樹、両親を説得するまで会えないけれど…。
必ず、静樹を迎えに行く。
だから、誰のものにもならずに待っていて
静樹が、誰かのものになるのを考えただけで狂いそうだ
俺が、絶対静樹を幸せにするから
だから、俺以外を見ないで
俺以外に
約束して
静樹の人生は、俺だけのものだって
愛してるよ、静樹
【春樹】
私は、その手紙に泣いていた。
目を伏せてる目の前で、何か影が動いた気がして顔をあげた。
「静樹?」
静樹は、カッターシャツのボタンをゆっくりはずしている。
私は、手紙を封筒にしまった。
静樹は、その手を止めない。
「静樹、寝よう。パジャマ着替えるなら」
そう言った私を、静樹はベッドに押し倒した。
「どうしたの?」
ワンピースのボタンをはずされていく。
「静樹?手紙が、汚れちゃう」
「そんなもの、もういらないわ」
静樹の涙が、私の顔にポタポタとふってくる。
「どうして?」
「どういうつもりで、投函したの?海に飛び込む前に、何故投函したの?愛してるって言ったら私を縛り付けれるから?」
静樹は、ワンピースのボタンをはずす手を緩めない。
「静樹、苦しいの?」
「なっこ、苦しいわ。私は。ずっと…。」
「いいよ」
私は、静樹の頬に手を当てる。
ワンピースのボタンは、全てはずされた。
「なっこ」
「静樹のしたいようにして」
その言葉に、静樹は私の右手に握りしめていた手紙をとって起き上がった。
「出来ない、出来ないのよ。ぁーああぁぁぁあああ」
水道の蛇口の栓をいっきに捻ったような涙を流しながら…。
静樹は、ドレッサーに手紙を閉まった。
私は、起き上がって後ろから静樹を抱き締めた。
「なっこ」
「静樹も私も、ずいぶん苦しんだんだよ」
静樹のはだけたカッターシャツを私は脱がした。
「なっこ」
静樹は、私の手を握る。
「さっきみたいに抱き合って眠ろうよ。温もりを強く感じて眠ろうよ。生きてる事を確かめて眠ろうよ。」
私の言葉に、静樹は腕を強く握りしめる。
「歯磨きしなきゃ」
「そうだね」
私と静樹は、洗面所に行った。
並んで、歯を磨く。
鏡越しに、静樹と目があった。
わかってる、今の気持ちは同じ。
その唇に、無理矢理キスをさせて忘れさせてあげたい。
歯磨きが終わった静樹は、衣服を脱ぎ捨てた。
下着姿で、洗面所を出ていく。
私も、歯磨きを終えて、ワンピースを脱ぎ捨てた。
ベッドに横になった静樹の元に行く。
「まだ、朝は少し肌寒いわよ。」
静樹の香りがする。
「いい匂い、大好きな匂い」
「なっこ、彼の従兄弟の光さんに彼を見たんじゃないの?」
「静樹、気づいていたの?」
「フリーなら、そっちに行く方がいいかもよ。私みたいな人じゃなくて」
「嫌よ。私は、静樹がいいの」
静樹の胸に顔を埋める。
「どうして、私がいいの?」
「静樹の折れた翼を直すのは、私だって…。あの日から、静樹の闇を照らすのは私だって…。だから、静樹がいいの」
「ただ、傷を舐めあっているだけよ。私となっこは…。それでも、私でいいの?」
「いいわ。静樹がいい。静樹の温もりを、静樹の手の感触を…。私は、静樹の形になりたいと思う」
「なっこ、私を捨てたっていいのよ。前も話したけれど、私はなっこを愛する事は出来ない。抱き合う事でしか埋まらない気持ちもあるのよ」
「でも、
静樹は、私をギュッーと抱き締めてくれる。
「先に進むのは、ゆっくりでいいわね」
「うん」
下着一枚を隔てただけだから、いつもよりダイレクトに全身を静樹の体温が伝わる。
私は、穏やかな眠りについた。
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