煙草の煙

なっこが、このまま結婚とかするんも嫌や。


俺以外の人とするんも嫌や。


俺は、ワガママな人間や。


なっこが、誰かにれる。


なっこが、誰かにれられる


想像するだけで、悲しくて辛くて、胸が締め付けられる。


誰にも、なっこを渡したくない。


だから、俺がなっこを必ず迎えに行く。


だから、信じて待ってて欲しい。


出来るだけ頑張って返すから。


ちゃんと10年後には迎えに行けるように頑張るから


なっこ、誰のもんにもならんで


お願いやから、俺を待ってて


俺以外にれさせんで


会えなくなってても、待っててや


誰にもさわらせんで待っててや


俺が、絶対なっこを幸せにするから


眠ってるなっこにも、ドライヤーで髪を乾かしてるなっこにも、酔っ払ったフリして、何度もなっこにゆうた言葉覚えてるかわからんから、もう一度ゆうで


愛してる、なっこ


そこまで言うと冬木さんは、手紙を閉じた。


手紙を血のついた封筒に、しまった。


私は、涙が止まらなかった。


誰にも、渡したくなかった。


ひかるの願いは、少なくとも静樹に会うまでは叶っていた。


「めちゃくちゃな、手紙やな」


冬木さんは、笑った。


「それでも、私も光しかいりませんでしたから…。同じです」


「ほんなら、よかったんかな?」


「どうでしょうか?」


冬木さんは、スマホで何か入力していた。


「あ、春樹に終わったって伝えただけやから」


「そうですか」


「もうすぐ、もどってくるんやないかな?」


「そうですか」


私の胸の中に、ゆっくりと空っぽが広がっていく。


「なっこー。俺でええやん」


カチッ


「その匂い」


「あっ、ごめん。煙草、こんな所で吸うたらアカンよな」


「消さないで」


「なんで?」


「それ、光が」


「吸うてたんやろ?」


「うん」


「違う煙草吸ってたんやけどな。俺のマネしよった。」


「そうだったんですね。あの、渡したいものって?」


「それがな。わからんのよ。何やろな?何か、聞いたりした?」


「わかりません。この場所だって、別に何の思い出もない気がします。忘れちゃっただけかもしれません」


私が涙を流すのを冬木さんは、見つめながら言った。


「枯れへんぐらい泣く程、愛してたんやな。ほんなら、いつか何か思い出すかもしれへんで。なっこさんだけが、この場所の意味わかるんやない?とにかく、光は、あの日なっこさんに渡したいものがあったから、ここにきたんやから」


そう言って、冬木さんは煙草を携帯灰皿で消した。


暫くして、静樹と川北さんが現れた。


「なっこ、帰ろうか」


静樹の声に、私は立ち上がった。


「それじゃあ」


「あっ、待って。何かあったら電話したいから」


私は、冬木さんに番号を教えた。


「なっこさん、さようなら」


「さようなら」


栗色のの川北さんは、光とは、やはり別人だった。


静樹が呼んでくれていたタクシーに乗り込んだ。


「川北さんと話してたの?」


「ううん。私は、あの人とはいれないわ」


そう言って、静樹は笑った。


「名前が、同じだから?」


「そうね」


「静樹は、何処にいたの?」


「彼と離れたベンチに座っていたわ」


静樹は、そう言って目を伏せた。


私と静樹は、家に帰った。


もう、一時回っちゃったわね。寝ましょうか?」


「静樹」


「どうしたの?」


「私を抱き締めて」


「どうしたの?」


「わからないけど、静樹がいい」


「なっこ」


静樹は、私をそのまま寝室に連れて行く。


「はずして」


右の薬指を差し出してきた。


「静樹、いいの?」


「いいの。なっこなら」


さっきの手紙が、頭に浮かんだ。


「やっぱり、出来ない。ごめんなさい。」


「なっこ、泣かないで。何があったの?」


私は、手紙の内容を全て静樹に話した。





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