ロッカーの中身

「着替えて、なっこ。待ってるから」


静樹は、モコモコのルームウェアを脱いだ。


空色のカッターシャツを着て、黒のズボンをはいた。


ドクンと心臓が波打つのがわかった。


今まで、ちゃんと意識した事などなかったけれど…。


静樹は、男の人で、とても綺麗だった。


静樹は、ひかるとは違って瞳の色は薄い茶色だった。


睫毛は長く、綺麗な目の形をしている。


シュッとした鼻に、形のいい唇…


街行く人が、静樹を見つめていた理由が今になってハッキリとわかるのだ。


「どうしたの?着替えられないの?」


パステルグリーンのセーターを持っている私に、静樹は声をかけた。


「えっ、ううん」


「着替えさせて、あげましょうか?」


そう言って、ニコッと笑って私に近づいてきた。


「だ、だ、大丈夫だから」


変に意識したせいで、静樹に近づいて欲しくなかった。


「どうしちゃったの?」


「別に、何もない」


私は、セーターを着て、ベージュのズボンをはいた。


「なっこ」


突然静樹は、私を抱き締めた。


鏡越しに潤んだ瞳が映った。


「静樹?」


「なっこが、いない人生なんかいらないよ」


「そんな事、言わないで」


「何度だって言う。」


「大丈夫、どこにも行かないよ」


そう言うと静樹は、私から離れた。


「行こうか」


「うん」


荷物を持って、玄関を出ると静樹は手を繋いでくれた。


わかってる。


私は、変な意識をしたせいで静樹の手を強く握り返せなかった。


駅前で、タクシーに乗った。


何かを見せられて私は、おかしくなるのではないだろうか…。


警察署についた。


「なっこさん、静樹さん」


従兄弟の光さんと弟の春樹さんが立っていた。


「おはようございます。」


「おはようございます。」


そう言った私を二人が、連れていく。


若宮夏子わかみやなつこさんですか?」


「はい」


「私、刑事の須藤です。こっちが、高宮です。」


須藤刑事と高宮刑事は、私達を部屋に通した。


「犯人も逮捕されて、ご家族に遺留品も返しましたので、こちらもお渡ししたくてお呼びしました。」


そう言うと須藤刑事は、小さな箱と手紙とノートを渡した。


「これは、何でしょうか?」


「中身を確認しましたが、ご自身で見るべきです。何をしにあの場所に居たのかがハッキリと書いています。それと、犯人にこれが見つからなかった事に私は、ホッとしていますよ。」


「何故ですか?」


「そのノートの最後に、貴女の名前と住所と連絡先が書いてありましたから」


そう言われて、ノートを開いた。


【4月1日。なっこと別れた帰り道に、やっと見つけた。まだ、桜の花が残ってる場所があった。よし、ここに決めた。明日の夜になっこを呼び出してプロポーズする。なっこにきちんと俺の気持ちを伝えよう。その為に、一旦指輪をロッカーに預けて置く。言えなかった時の為に手紙を用意して置く。安物だけど、気に入ってくれるだろうか?】


私は、涙が止められなかった。


「彼は、私のせいで、死んだのですね。」


崩れ落ちそうになる私を静樹が支えた。


「椅子に座りましょう」


「うん」


「どうして、桜の花なんか…」


その言葉に、須藤刑事が手紙を差し出した。


「どうして?その答えを彼は、キチンと残していましたよ」


「手紙に書いていたのですか?」


「そうです。」


私は、刑事さんから手紙を受け取った。


震えながら、ゆっくりとその紙を開いた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る