新しい家族

僕は、竹君の背中を擦る。


「ゆう兄ちゃんって呼んでいい?」


竹君は、頷いた。


「これからは、幸せになろな」


そう言うと竹君は、泣き出した。


「ぁぁぁあああ。ぁぁぁあああ。」


母は、竹君を引寄せた。


「いっぱい、いっぱい泣き。これからは、ゆっくんのお母さんは私やで」


「お母さん」


そう言って、竹君は母に抱きついた。


母も竹君を抱き締めた。


「これからゆっくんのお父さんやからな」


父も抱き締める。


「お父さん」


竹君は、ずっと泣いていた。


「ご飯冷めてまうから、食べよか」


母は、立ち上がった。


「あっ、その前に」


そう言って、紙袋を取り上げた。


「みんな、こっちくる」


母に言われて、兄の仏壇の前に行く。


母は、竹君のお母さんの位牌と写真を兄の写真の横に置いた。


僕達も仏壇の前に座った。


「これから、私があなたのかわりにゆっくんを支えていきます。せやから、そっちでたっくんのお母さんになってあげて下さい。お願いします。」


そう言って、手を合わせた。


「これから、家族になるんを見守っててください。」


父は、そう言った。


「兄ちゃん、僕もゆう兄ちゃんと兄弟になるから見守っててな」


そう言って、手を合わせた。


「若の両親と弟をとってごめんなさい。俺が、かわってやりたかった。お母さん、一緒についていってあげんくてごめんなさい。」


竹君の言葉に母が、竹君の肩を引寄せた。


「何をゆうてんの。生きなさいよ」


「若の癌がわかって、毎日神様にかわりますってゆったのに、神様はかわらしてくれへんかった。若がいなくなって辛いのにこんなんゆうて、ごめんなさい。せやけど、俺は、あの人にずっとゆわれてたから。死んだらどんなに嬉しいかって」


僕は、その言葉にめいさんが言った。


芽衣子さんの母親の話を思い出した。


「何ちゅう人間や、ゆっくん。そんな奴に一生おうたアカンで」


母が、怒っている。


「もっと早う、この家の子にしたげたらよかったな」


父は、そう言って手を握ってる。


竹君は、首を横にふった。


「あの、あの人は、他には何かゆってませんでしたか?」


その言葉に、母は思い出した顔をした。


「なんや、0が二個足りんとかどうとかゆうてたな。私がな。私の息子に関わらんといてくれゆうたら。それくれたらええみたいな事やったな。100万とかか?」


母の言葉に竹君は、首をふった。


「ホンマに、それで縁を切ってくれるってゆったんですね?」


「ゆったよ。なっ、九你臣くにおみ


「うん、ゆっとったな。」


竹君の顔が、安堵した。


「なら、明日振り込みます。」


「いくらよ。金なんかださんでええやんか」


「1000万で、縁が切れるなら安いもんです。」


「1000万って、そんな大金かえすんか?」


「ゆう兄ちゃん、もってるん?」


「あるよ。二十歳から、ずっと貯めてるから」


「そんな大事なお金、あんな奴に渡しな」


母は、さらに怒っている。


「でも、渡さんと会社にあの人かけてくるんです。しつこいぐらい何回も…それで、半年前に営業にかえられて。次、またあったら地方に行かすってゆわれてるんです。」


「ゆっくんの人生をどこまで奪ったら気が済むんや。お父ちゃん、あれ使おか」


「うん、せやな」


そう言って、父は仏壇の引き出しを開けた。


「これな、たっくんが私らに残した保険金や。三千万もかけてたんよ。九你臣に何かあった時や必要な時がきたら使おう思っておいてるんや。これから、払ってあげるからな。お母ちゃんが、明日入金したる」


「そんな大事なお金、俺なんかに悪いです」


「何ゆうてんの。息子が親に遠慮するんやあらへん」


「ホンマや!たっくんも、あの世でグッジョブいうとるわ」


そう言われて、竹君は泣いていた。


今は、まだちゃんと家族になれきってないけど…。


いつか絶対、僕等ならなれるよ。


僕は、この両親なら竹君の本当の親になれると思った。


「でも、なんでゆっくんって」


「あー。美里さん。ゆっくんのお母ちゃんと私は、あんまり一緒に過ごしてなかったけど…ママ友やったんやで。ゆっくんの事、よー。自慢しとったよ。料理を手伝ってくれたり、洗濯を手伝ってくれたり、ゆっくんはホンマにイイコに育ったって。イイコすぎて、自分の気持ちをおざなりにするところだけが悪いとこやって。せやから、すぐ流される。若さんとこと付き合いしてなかったら、ゆっくん犯罪者になってたと思います。ってゆっくんが、14歳の時にゆうてたで」


母の言葉に、竹君は声を出して泣いた。


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