今日から息子やから

母は、怒りでズンズン歩きだした。


「あー。腹立つ。きゅう、なんやあれ。」


「ホンマやな。僕、殴りたかったわ」


「竹君、なんであんなイイコやのに。あんな、父親やねんやろな」


「ホンマやで、何やあの言い方」


「子供から、金まで巻き上げよって」


母と僕は、イライラしながら帰宅した。


「九、竹君にLimeした?」


「したよ」


時刻は、七時半を過ぎたところだった。


「お母ちゃん、ご飯するわ。お赤飯炊くねん」


母は、すぐに気持ちを切り替えた。


「これ、そっち置いとって」


中身を確認していないそれを、僕はTVの横の棚に置いた。


「ただいま」


父が帰宅してきた。


「おかえり」   


「あー。どやった?」


ネクタイをはずしながら、父が尋ねると。


母は、怒りに任せて父にさっきのを全部話した。


「なんやそれ。なんちゅう人間や」


温厚な父が、珍しく怒っていた。

 

「九、一緒に酒のも酒」


「アカン、それは、私らの息子が帰ってきてからや」


「せやな」


そう言って、父はスーツを着替えに行った。


ブー、ブー。


「もしもし」


『もしもし、九。早く行けそうやねんけど、九時やないとアカンかな?』


竹君からの電話やった。


「ええよ、今すぐでも」


『わかった。ほんなら行くわ』


「うん」


電話が切れた。


8時を過ぎたところやった。


暫くして、ピンポーン。


インターホンが鳴った。


「僕、迎えにいくわ」


「はいはい」


母は、キッチンでご飯をしていた。


僕は、玄関の扉を開けた。


ガチャ…


「いらっしゃい」


「お邪魔します。これ、ケーキ。若が好きやったの」


「ああー。あがって」


僕は、竹君をあげた。


「いらっしゃい」


「お邪魔します。」


「叔母さん、これ若が好きやったとこのケーキです。」


「あー。ありがとう。後で、供えるわ」


「はい」


そう言って竹君は、お辞儀をして兄ちゃんの仏壇に手を合わせにいった。


九你臣くにおみ、さっきの紙袋持ってきて」


「あっ、うん。」


竹君が、戻ってきた。


「竹君、ご飯食べる前に話せるか?」


「はい」


母は、竹君をダイニングに座らせた。


僕は、紙袋を机の上に置いた。


「今日な、竹君のお父さんに会ってきたんよ。それで、おばちゃんこれ預かってきた。」


竹君は、紙袋の中を覗いて机の上に出した。


「やっぱり、返してきたんやね」


悲しそうな目をしてる。


それは、お母さんの位牌と写真。


「この手紙なに?」  


僕の言葉に、竹君は手紙を開いてボロボロと泣き出した。


僕は、その紙を覗いて読んでしまった。


「お前の母親の遺骨は、永代供養にしました。住所は、こちらです。金輪際、この家に現れないで下さい。やっと、ゴミを捨てれてよかったです。母親共々、死んでもらえたらよかったんですがね。私の30年間を返して欲しいぐらいです。」


僕が読み上げた瞬間、父がテーブルを叩いた。


「ふざけるな」


ガンっ…。


「こんな人、親やないよ」


僕は、泣いていた。


竹君は、紙袋に手紙とお母さんの位牌と写真をしまった。


「やっと、父が自由になれてよかったです。ご迷惑をおかけしました。」


そう言って、僕達に頭を下げる。


「やめて」


母は、竹君にそう言った。


竹君の目から、涙が幾重にも重なり落ちる。


「お話は、これだけですか?これだけなら、明日も早いので俺は、失礼します。」


その言葉に母が、竹君を怒った。


「さっきから、何やの。他人行儀みたいに」


「俺は、他人やから」


「はあ?何ゆうてんの?あんたは、私らの子供になるんやで」


竹君は、目をパチクリさせていた。


「兄ちゃん、ご飯食って帰れや」


「九、何ゆってんの?」


「嫌やや、ゆうても。お父ちゃんは、離したらんで」


竹君は、状況が掴めずに固まってる。


「兄ちゃんから、竹君に一生のお願いが発動されたんや。これからは、若行臣わかゆきおみとして。僕の兄として、生きてくんやで。竹君」


竹君は、その場に膝から崩れ落ちた。


「もう、お母ちゃん赤飯炊いたんやから、食べていきーよ。ゆっくんが、嫌や言うてもお母ちゃん離さへんで」


「なんで、そんな優しいんですか?」


「だから、敬語はおかしいって。優しいのは、ゆっくんが優しいからやで。お父ちゃん、小さい頃から知ってるで。優しいん」


父と母は、竹君に近づいて頭を優しく撫でた。

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