第28話「町民vs魔王軍」
「グルオオオオオオ！！！！」
宿屋まで響く魔族の咆哮が聞こえた。それに対抗するかのように町の防衛担当の声も響く。
「準備はいいかー！ 観光客の皆さんに俺たちの勇姿を見せるぞ！」
「うぉおおおおおおおおおおおお！！！！」
町を守るとかではなく、あくまで観光客へ見せるための戦闘であると宣言している。町の人も呑気なもので『やっちまえ！』と煽っている。
戦闘のゴブリンの群れに血気盛んな連中が突っ込んでいった。全員が筋骨隆々だったり高位の魔石をつけた魔導杖を持っていたりと実力があるであろうことは明らかだ。
『シャイニングフレア！』
真っ先に攻撃を始めたのは魔道士の一人だった。戦士が突っ込む先に強力な炎魔法をぶち込む。そこから広がった炎がゴブリン達をパニックに陥らせる。
「よっしゃああああ！！ 俺たちもやるぞ！」
「うおおおおおおお！！！！」
戦士達がゴブリンの首を撥ね、体にレイピアを突き刺し、メイスで頭を潰していく。本当に俺の出番はないようで、もう全部原住民に任せればいいんじゃないかな。と言う気分になる。しかも怪我をした数人はすぐに引き下がって魔道士に回復魔法を使ってもらったりポーションを飲んだりして、回復したら即魔物達に突っ込んでいく。よくよく見れば素手で殴り倒している人もいた。殴られたゴブリンがピクリともしていないのでかなりの筋力でやっていることが分かる。
「ソル、私たちって勇者なんですよね？」
おっと、ジャンヌがアイデンティティを喪失しかかっている。まあ実際魔王軍がただの市民にボッコボコにされている様を見せられると無理もない気がする、ジャンヌのアイデンティティって勇者候補と認定されたことくらいだからな。
「俺たちが戦ったってしょうがないんじゃないか？ 危なくなるまではここで観戦させてもらおうぜ」
一等席で戦闘を微妙な顔で眺めるジャンヌ、俺は立ち見をしながら魔王軍がオークを出してきたことを感知する。さて……オーク相手でも問題無いのかね？
オークの前座に出てきたコボルトは出てきた瞬間に魔法使いに氷漬けにされた。残りを戦士が軽く薙いであっという間に戦力が消し飛ぶ。先遣隊が消し飛んだところでオークの出番が来たようだ。
「グルオオオ……ニンゲン……コロス」
威勢のいいことを言っているオークの皆さんだが、町より遙か遠いところで雷魔法で消し飛び、氷に固められ、炎で焼かれて、数が減ったところでようやく僅かに残ったボロボロの勢力が派手に大剣で殴られていた。
「確かにこれは見物だなあ……」
「ソル、完全にギャラリーのコメントですが勇者としてそれでいいんですか？」
「いや、だってやる必要無いじゃん。皆十分強いみたいだしさ」
「戦闘民族ですよねえ……まかり間違っていたらここが勇者の里になっていたかもしれませんね……」
「勇者なんて真っ当じゃない生き方を選ぶより、こういうショウビズで生きていくことを選んだんだろう」
猛獣使いと猛獣のように魔王軍はコントロールされ各個撃破されていく。しっかりしていると思ったのは各人見せ場を用意していることだった。先ほどゴブリンを大量に屠った人は後方に下がっていた。回復魔法を受けているのかと思ってそちらを見ると後ろの方にいた人員を前に出して一時交代しているようだ。どうやら誰もが活躍をしなければならないのか全員が魔物相手に大活躍をしていた。
「オーガだ！」
人の二倍くらいの大きさをしたオークのさらに半分くらい大きく牙を生やし、筋骨隆々の鬼が出てきた。さすがに俺の出番かなと思いストレージを開こうとしたところで声が響いた。
「アイツを倒せばMVPだぞ！ 皆狙え！ トドメは俺が刺す！」
「何言ってやがる！ 俺が倒すんだよ！」
「いや！ 俺が戦うべき相手だ！」
様々な戦士達がオーガに向かっていく。自分が死ぬかもしれないなどとはまるで思っていないようで、魔道士も大量の魔法をオーガにぶち込んでいる。さすがはオーガと言ったところで魔道士だけでは倒せないようだ。しかし大量の魔法を浴びたせいでボロボロになり、ふらつくオーガを殴り、刺し、切りつけてぼろきれにしていった。
「トドメだああああああああああ！」
「俺がやる！」
「俺に任せろおおおおお！」
倒れ伏したオーガに武器を持った皆が集まって頭部を突き刺したり殴ったりしている。ピクピク痙攣したあと動かなくなり、全員が勝ちどきをあげた。
さすがにオーガが最高戦力だったらしく指揮官らしき魔族もいたが、目視可能範囲から大急ぎで離れていき索敵魔法でマップ上にプロットすると逃げ足だけは速いようでものすごい勢いで索敵可能範囲から離れていった。
魔物達が全員いなくなり、楽器の音が聞こえた。
「いかがだったでしょうか！ 我が町名物魔族狩りとはこのようなものです！ 皆様の心を動かすものがあったなら我々にとって幸いです！」
魔王軍もなんでこんな町を襲ってるんだろうな……
見世物にされていた魔王軍がいなくなり、俺はジャンヌに聞いてみた。
「勇者ってあんな感じの生き方なんだな」
「いやいや、これは極端な例だと思いますよ！ さすがに全勇者がこんな蛮族な訳ないじゃないですか！」
さすがのジャンヌもドン引きするほどの暴れっぷりに俺は感嘆してから彼方の方から朝日が上がってきていることに気がついた。真っ赤な朝日は魔物達の血液のような色で地面を照らし、邪悪な存在を消し飛ばすように下級魔物の死骸は灰となって消えつつあった。
「さて、終わったみたいだな……」
「そうですね、今回のはなかなか楽しかったですよ！」
「もう敵はいないようだし俺は寝るよ。お前は英雄譚でも聞きに行くか？」
「……いえ、少し寝てからにしましょう。気分のアガっている今行ったらおかしくなりそうです」
「じゃあお休み」
俺は窓を閉めてベッドに寝転んだ。ジャンヌも少し休むために隣のベッドに飛び込んですぅすぅと寝息を立て始めた。
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