第24話「魔王軍の中間管理職がきた」
その日も町に滞在をしており、いつも通り魔王軍がやってきた。雑魚の集まりであり、住人達に打ち倒されていた。ざっこ……
この町なら平和に過ごせるかもしれない、金ならたくさん持っているので滞在費も十分だ。何より戦う必要が無い。ジャンヌの方はこの前の戦闘に参加したことで満足したのか、お土産用のコボルトの牙を嬉しそうに手のひらで転がしていた。
そして魔王軍朝の部は無事終わったのだが、その日は少しだけいつもと違った。
俺たちが昼飯を悠長に宿の食堂で食べているところで給仕がやってきて言った。
「食事中済みません! 今日はまだ魔王軍が来るそうなので部屋に避難しておいてください!」
「え……あ、はい!」
「ソル、私まだシチューを食べてないんですが?」
「命が惜しかったら戻るぞ」
そう言ってグズるジャンヌを引っ張って宿の部屋に戻った。いつも通りのところから今日はオークの群れが襲撃してきているようだ。幸いと言うべきか、ゴブリンの群れに比べて圧倒的に数が少ない。体が大きいので数が多く見えるが数としては大したことがない。
『「魔力狙撃」をしようしますか?』
『必要無い、ジャンヌが参加していないなら危険は無い』
スキルの使用を却下したところ神様から割り込みが入った。
『惚れた女がいないならどうなってもいいんですか~? 冷たい勇者様ですね~?』
『俺はまだ自分を勇者と認めてはいませんからね?』
まったく、気まぐれな神様にも困った物だ。
『ところでソル』
『なんですか? そろそろ引っ込んでくださいよ……』
『そうしたいのですがね、あのオークを指揮しているのは魔王軍下部組織の構成員ですよ?』
『は?』
それ以降突然黙ってしまった神様、当てにならないな……とにかく今必要なのは……
『『魔力狙撃』『視覚強化』を使用します』
「どうしたんですか? 級に黙り込んで?」
「いや、観戦をしようと思ってな」
ジャンヌは楽しげに窓際の俺に並んだ。
「なーんだ、やっぱりソルも興味があるんじゃないですか!」
そう言って窓から前線を眺めている。俺はサーマルモードに視線を切り替えて熱源を探していく。視覚強化は便利なスキルだな。
オークが襲いかかってくる方が赤く見える。伏兵もいるようで前線のオーク以外にもいくつかの個体がそれより少し後ろの方で潜んでいるようだ。
しかしそれらに『鑑定』を使ってみたのだが、『オークメイジ』『オークプリースト』くらいしかいない。もう少し視線を遠くに向けると隠れ潜んでいる『ハイオーク』も見つけた。
倒しておくべきだろうか? ジャンヌはここに居るし、この町の戦力は十分にあるようだ。滅多な事では死ぬような事はないだろうが……
『魔力狙撃を使用します』
指から魔力弾が飛んでハイオークを吹き飛ばす。通常モードに戻していた視力をサーマルモードに切り替えて対象が爆発四散している事を確認した。
「ヤバいのはアイツくらいかな……」
隣でジャンヌが俺の行動に食いついてきた。
「ソル! なんですかその技!? 私も使いたいんですけど?」
「魔力を弾にして打ち出すだけの技だ、たぶんお前が使ったら敵に届く前に魔力が尽きるぞ」
「そんな事が出来るなんてズルいです!」
俺だって平和に暮らしたいんだよ、そんな文句を言われても困る。なんなら代わって欲しいくらいだが、コイツが力を持つとロクなことにならないような気がする。
「ちなみにさっき撃った一発で倒せたんですか?」
「ああ、はじけ飛んでる。ハイオークは町の人間にも厄介だろうからな」
しかし魔王軍下部組織が出張ってきているという話が気になる。オークは野生の者だろうし、地位が低いとは言え魔王軍に入っているなら知恵が全く無いと言う事は考えづらい。思考力のない人間を雇えないのは人間と同じはずだ。
「なんか釈然としないですね……ソルばかり優遇されすぎでは?」
「神様に文句を言ってくれ」
マジで神に文句を言って欲しいんだよなあ! 原住民に戦わせようと考えてくれよ本当にさあ!
『そうそう、魔王軍はまだ生きているのでそっちを倒すのもがんばってくださいね~』
『まだいるんですか!? どこにいるのか教えてくださいよ!』
『あなたがそれを必死に探すのが神界チューブ映えするのでがんばってくださいね~』
コイツ邪神じゃね? 神様にしては性格が悪すぎるぞ。人間を娯楽と思っているあたりそのうちチェーンソーでバラバラにされそうな神だな……
この町で平穏な生活をするためには魔王軍に荒らされても困るし多生の手助けは必要だ。
熱源探知では見つからないようだな……X線も出せるのか?
『可能です』
『なら視力をX線探知モードで使用』
視界から山の植物が消える。X線を通さない地面や骨、歯等が見える。これなら植物を覗いたものを見る事が出来る。
そこである一点に目がとまった。植物は見えないので地面がなだらかに続いているはずなのだが一点のみ大きくくぼんでいる。
「穴……だな……」
「穴ってなんですか?」
俺は構わずその穴の中に潜んでいる者に鑑定を使う。
『オークキング、魔王軍所属』
なるほど、アイツがオークの親玉か。
『魔力弾を強化』
『強化しました』
「消し飛べ」
その一言で指先から飛んでいった魔力の塊が目標を破壊して地面をえぐり取った。
サーマルモードの視力で着弾点を見ると体温を持っていたであろう少し熱を持った者が飛び散っている。これで完全に倒しただろう。
町の方に目をやると体制は決まっていた。怪我人が居ないあたりこの村は戦闘民族なのではないかと思えてくる。突然遠くの地面が吹き飛んで穴になっている事に疑問を持つ人がオークキングがいたところまで向かったが、もうそこには誰もいない。
そして戦果ははっきりしないまま戦闘は終了した。
戦闘終了と共に部屋のドアがノックされ『戦闘は終了しました。ご自由に行動できます』と伝えに来てくれた。ジャンヌは不機嫌そうなので飯でも奢ってやるか。
「ジャンヌ、食堂に行くか。奢るぞ」
「ソルはなんで目立とうとしないんですか! あの戦果を報告すれば名前だって売れるはずでしょう!」
「そんな事をしても面倒なだけだからな」
そうして釈然としていないジャンヌの手を引いて少し高めの料理屋で食事をした。
なんだかんだと言っても肉を食べると黙ったし、上手くごまかせただろう。
そして無事今日も一日目立たずにすんだ事に感謝した。
『ソルさ~ん! イマイチ映えないんですけどね~?』
『それは編集でどうにかしてください』
そして神様の見る戦闘がつまらないという勝手な理由は無言で無視したのだった。
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