第23話「戦闘に体験参加コース」
「ソル! こんなものがありますよ!」
ジャンヌは宿に貼ってあったポスターを指さして言った。そこに書かれていたのは……
「あなたも英雄気分を味わえる! 魔王軍との戦闘に参加できちゃいます! (危険はありません)」
こんな事も商売にしてしまうのか……商魂たくましい町だ。というか普通の人は参加なんてしたくないと思うのだが……隣で興味津々に見ているジャンヌに声をかけた。
「お前は気分を味わう必要は無いだろう、もうすでに勇者なんだろう?」
「それはそうなのですけど……魔王軍との戦闘が出来るというのは琴線に触れるんですよね、私向けに用意されているんじゃないかと思えてくるサービスですよ!」
「そうかよ、俺はもう飽きるほど戦ったから好き好んで戦いたくは無いがな」
この世界が剣と魔法の世界であることと魔物や魔族がいることは何か関係があるのだろうか?
『それなんですけど、実は後輩が世界を作るときの参考資料が欲しいって言ったので、地球さんのゲームとかも資料として渡しちゃったんですよね~まさかこんな世界を作るとは思わなかったですよ』
『ゲーム感覚で世界を作るのはやめてくれませんかねえ!』
地球の神も神だと思っていたが、こっちの神も大概ロクな奴じゃなさそうだ。やたらとゲームライクなシステムがあるなと思ったらマジでゲームを元にしてたのかよ! 出来れば知りたくない事実だぞ。
「ソル? この神プランが気になるんですか? いいんですよ、私と一緒に参加しても」
「え!? お前は参加すること決定なの?」
それに対して当然のことのように胸を張るジャンヌ。
「当然でしょう? 勇者の名を広めるチャンスですよ!」
果たして茶番のようなサービスで名が売れるのかはひどく疑問だったが、参加するなと言って聞くような奴でもないだろう。しかし本当に安全が保証されるんだろうな?
「じゃ、受付に行ってきますね!」
そう言ってさっさと申し込みに行ってしまった。相談という言葉はアイツの頭にはないらしい。危ないことに首を突っ込むと早死にするぞと言いたいところだが、一回アル中で死んでから転生したようなやつが言っても説得力に欠けると思って諦めた。
遠目に見ていると朗らかに手続きをしているようで緊張感は一切無い。この町は魔王軍を観光資源にしているようだ。この町の人間は実は魔王を倒されたくないのではないかという疑惑が浮かぶ。まあ魔王が倒されたらこの町は魔王軍との戦いの歴史を展示して観光資源にしそうな気がするがな。
そんなことを考えているとジャンヌが帰ってきてにこやかに紙を一枚折れに見せた。
『魔王軍討伐隊参加証』
「すごいでしょ? 参加した人には記念でもらえるようになってるんだって! これで私も立派な勇者の仲間入りですね!」
参加賞で勇者になって恥ずかしくないのだろうか? つーか誰でももらえるものでドヤ顔をしているが、それは記念品だと思うぞ?
「最近はゴブリンが増えているそうなので次の討伐対象はゴブリンだそうです!」
ああ、ゴブリンね。さすがにゴブリン相手で仲間があれだけ強ければ死ぬようなことはないだろう。精々勇者気分を楽しんで欲しい。
「ソルはやらないんですか?」
俺にそんな質問を投げかけてくる。お前のサポートでどれだけ魔物を倒したと思ってるんだ? 今さらゴブリンごときを必死に倒すわけが無いだろうが。
「俺はいいよ、興味無い」
本音を抑えて、とりあえずゴブリンとかどうでもいいのでそう答えた。
「へー……じゃあ私だけが勇者って事になりますね!」
勇者なんて名乗ったもの勝ちなんじゃないだろうかという疑問が浮かんだ。実際ジャンヌも厄介払い同然で勇者認定されているのだから、実力などそれほど関係ないのだろう。しかしコイツは楽しげにしているので、本人が満足しているならそれでいいだろうと判断した。
宿に帰るとジャンヌが楽しそうに武器を揃えていたが、ゴブリン程度なら素手でもなんとかなるんじゃないだろうか。そう考えては見たのだが、武器でゴブリンを刺したり殴ったりするのと、素手で殴るのでは気分的な物が違うのかもしれない。武器を使えば生々しい感触はなくなるからな。
「じゃあソル! お休みなさい!」
「ああ、おやすみ」
そしてまだ空が明け切っておらず、空の端の方がまだ赤みがかった時間にメイドさんに起こされた。
「なんれすかぁ……まだ眠いんですけど」
「ゴブリンの集団が町に向かっています。ジャンヌさんは討伐隊に参加するとのことでお知らせに来ました」
途端に元気になるジャンヌ。
「よっしゃあああああああ! 私の力が覚醒しちゃう感じですね! じゃあソル! 私は行ってきます!」
「ああ、行ってこい。俺はもうしばらく寝てるよ」
そう言ってジャンヌを送り出した。二人が部屋から出ていって足音が聞こえなくなったところで俺は窓を小さく開けて覗いてみた。
『神様、「魔力狙撃」と「視力強化」をください』
『おやおや、あなたの方からお願いとは珍しいですね~』
神様がニヤついている顔は浮かんだがそれを振り払って、その二つを与えてもらった。
窓からはゴブリンがこの町に向かってきているのが見える。待ち構えているジャンヌはきちんと安全を考えられて後方に配置されている。
『見難いでしょうから『透視』もつけておきますね~』
たまには役に立つサービスをするじゃあないか。俺はゴブリン達の集団を高い視力で覗いた。木々に隠れているがそれは透視スキルで無いも同然だった。
「ゴブリンゴブリンゴブリン……ホブゴブリン」
パシュ
ホブゴブリンに向けて指から魔力弾を発射する。ホブゴブリンの頭がはじけ飛んだ。
「あとは……ほとんどゴブリンだが……」
時折いるホブゴブリンやゴブリンメイジを狙撃して倒していく。町の入り口に着くまでに通常のゴブリン以外は全て魔力狙撃で片付けておいた。
「ゴブリンが来るぞおおお! お前ら準備はいいか!」
「応!」
ここまで聞こえる声で住民達は決起した。それと同時に主力を失ったゴブリンの群れが町の防衛隊と衝突した。
それは一方的な蹂躙だった。元々、体力のあるホブゴブリンや、知恵があって指揮系統を握っているゴブリンメイジはいない。ただ小さな子供並みの力でまっすぐ向かってくるだけの雑魚の群れとなっている連中に勝ち目はなかった。
一匹も後方に逃すなとも言っていたが、ジャンヌの方へ手負いのゴブリンを一匹漏らしていた、アレはわざとだな。いつでも倒せるように回復係と攻撃係の魔道士がそちらについている。体験させるからには少しでも戦わせてあげようという配慮だろう。
その一匹はジャンヌの力の入っていない剣でも殴るだけで倒すことが出来た。それを確認してから討伐隊は残りのゴブリンを軽く一掃した。
きっちり全滅させたのを確認してから、俺はベッドに寝ころんだ。
そして何事もなかったようなふりをしてしばらく後で帰ってきたジャンヌを出迎えた。
「どうですかソル! 討伐の証拠と討伐隊への貢献賞までもらっちゃいましたよ!」
「そりゃすごい。よかったな」
「興味なさそうですね……私の活躍を見ていなかったんですか?」
「知ってるだろう、あの時間はまだ寝ているはずの時間なんだよ」
チョロい敵だとは思ったが自信はついたようだ。無根拠な自信を持つのがいいこととは言えないが、とにかく満足はしたようなので俺は今度こそ本当に寝ることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます