第22話「観戦」

 コンコン


 俺たちの泊まっている部屋のドアがノックされた。


「はーい」


 ドアを開けるとメイドさんが立っていた。


「本日はコボルトの群れが観測されたのでこの部屋の窓から観戦出来ますよ」


「ええっと……俺たちが戦う必要とかは?」


「お客様に戦わせるなんてとんでもない! この村の人間だけで十分倒せますので安心して観戦なさってください」


 そう言って部屋を後にしたメイドさんを見送りながら、この町は本当に魔王軍と戦っているのだと思わされた。


「ソル、本当に来ると思いますか?」


「来るんじゃないか、割と本気で言ってたみたいだし」


「『真偽判定』が必要ですか?」

『要らない』


 そんな事まで神に頼りたくない。嘘か本当かくらい自分で判断するっての。


「あ! なにか来たみたいですよ!」


 ジャンヌが窓の外を見ながら大声を上げる。やっぱり来たか……しかし本当に三線が要らないのだろうか?


 俺も窓のところに行くと森の奥の方に砂煙が舞っていた。


「おー……来てる来てる……」


「意外と冷静ですね? 魔王軍が来たなら倒すべきでは?」


「でも見ろよ、待ち構えてる連中なら勝てそうだぞ」


 筋骨隆々とした戦士達と、年老いているがマナの流れが良さそうな魔道士達が村の入り口で待ち構えている。


「あのメンバーが負けるとは思えないな、索敵魔法に引っかかったのも小物ばかりだし」


「ソルはよく分からない魔法を使いますね……どうやって体得したんですか?」


「日頃の行いじゃないか?」


「まるで私の日頃の行いが悪いような言い草ですね?」


「……」


 明らかにそうだろう。とはいえ俺の魔法は神から与えられたものだがそれは黙っておこう。それはそれとしてジャンヌは行動を改めようとは思わないのかな……


「ソル、そこで黙ったら私が悪いみたいな感じになるじゃないですか! そこは『そんな事ないよ』とやさしく慰める場面でしょう!」


「そんな事あるじゃん、お前普段の行いが褒められるものだと思ってるの?」


 ジャンヌは顔を真っ赤にして怒った。


「失礼ですよ! 私は品行方正な善人ムーブをしているんですからね!」


 どこからどう見てもゲスいやつの行動だと思うのだが、本人に自覚が無いのか?


「グルオオオオオオ!」


「お、コボルトどもが来たみたいだぞ!」


「え!? あ、ホントにコボルトですね!」


 窓の外では森を出てから待ち構える戦士と魔道士の集団に突っ込んでいく。


「お前ら! 一匹も通すんじゃねえぞ!」


「応!」


「前衛に支援魔法を! 一人も死なせるなよ!」


「任せろ!」


 それはもう圧倒的な蹂躙だった。バフを与えられた戦士がコボルト達を片っ端から切って捨てていく。中には殴って吹き飛ばす人までいる。一方的な攻撃だったがコボルト達は必死に噛みついたり殴りかかったりしていたが、傷がつき次第下がって魔道士部隊に回復してもらって再びコボルトに切り込みに向かっていく。


 不死身の軍団と子供の勝負のようだった。圧倒的な力でコボルトは僅かに逃げる事に成功したのを除いて全滅していた。あらかた片付いたコボルトの素材を剥ぎ取って皆町の中に戻っていった。


 戦士達が剥ぎ取りを終えたあと一カ所に集められたコボルトの死体を魔道士達が炎魔法で燃やして片付けていた。


 コンコン


 ドアがノックされる。


「失礼します。我が町の名物はいかがでしたでしょうか?」


「名物ってあの戦闘がですか?」


「はい、ゴブリンだったりオークだったりする事もありますが定期的にわく魔王軍の下部組織と戦うのがこの町の観光資源になっています」


 いやな観光資源だな……


「しかし、そんなに魔王軍に襲われていて大丈夫なんですか? 強い相手が来たらどうするんです?」


「こんな辺境にわざわざ襲ってくる大物はいませんよ。ただ……相手がスライムとかだと迫力がないと苦情が来たりするんですがね……」


 戦いに勝っても責められるのか……戦っている人からすればたまったもんじゃないな。


「コボルトの素材は町で売っているので気になったら行ってみてくださいね?」


「ソル! 行ってみましょうよ! 気になりますよ!」


「はいはい、分かったよ」


「それでは、失礼いたします」


 そう言ってメイドさんは去って行った。ジャンヌは今にも以降と浮き足立っている。


「ソル! 行ってみますよ! 一緒に行きましょう!」


「分かったよ……」


 宿を出て『我が町の戦史館』という館に向かった。中には魔物の肉や、牙や骨を使った装備品などが置かれている。幸い見た目的にグロテスクなものは展示されていない、家族連れに配慮でもしたのだろうか?


「これ! これどうですか?」


 そう言ってさしだしたのはコボルトの牙の首飾り。


「あんまり可愛いものじゃないと思うが……」


「違いますよ! これをつけていれば日常的に魔物を倒してその証拠を持っているように見えるじゃないですか! 強者の証ってやつですよ! ちょっと買ってきますね!」


 そう言ってジャンヌは販売所に向かって銀貨を数枚支払って満足げにその首飾りをつけて帰ってきた。


「どうです! 強そうに見えませんか?」


「強そうに『見える』かもしれないが、実際に強くなろうとは思わないのか?」


「私は軍師ですからね! 戦闘力は求められていないのですよ!」


 ドヤ顔でそう言うジャンヌに俺は呆れながらその館を後にした。

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