第21話「魔王軍と戦う町」

 道に看板が立っていた。看板自体は珍しくないのだが、書いてある内容が異常だった。


『魔王軍出没注意! 現在は出現しない時期ですが野宿はやめてこの先にある町まで急ぎましょう』


 物騒な事が書いてあるので索敵範囲を広げた、今のところは敵はいないようだ。


「ソル! 魔王ですよ魔王! 私たちのいずれ戦う敵のトップですよ!」


「落ち着け、こんなところにトップが来るわけないだろ。下っ端が小競り合いをしている程度じゃないか?」


「夢がないですねえ……」


「言っておくが魔王軍と戦うときに俺が守らなかったらお前はすぐに死ぬぞ。そうならないように強くなろうとか思わないのか?」


「私の部下であるソルが強いと言う事は私が強いという事ですから!」


「誰が部下だ……」


 とにかくここが物騒な地帯である事は確かだろう。看板がイタズラという可能性もあるがこんなしょうもないイタズラをする理由も無い。早いところ町に向かった方がよさそうだ。


『その先はボルト町ですね~魔王軍滅ぼすべしと言う過激派の町ですよ~』

『戦う意志があるなら俺が関わる必要はあるんですかね?』

『そこであなたが功績を残せば私が後輩に威厳を示せるじゃないですか~』


 この神様はクズだな、間違いない。


 脳内にマップを広げて町までどのくらいか計る。山道ではあるが一日でいけない事もなさそうな距離だ。


「ジャンヌ、道を急ぐぞ」


「私、もう疲れてるんですけど」


「置いていかれたくないなら本気を出せ」


「はぁい」


 やる気のなさそうな声で返事をしたジャンヌだが、やる気になればそれなりの実力があるのかキビキビと歩き出した。俺は索敵範囲を大きく広げて警戒をしながら山道を進んでいった。


「ソル……魔王軍が来てたりしますか?」


「いや、無いな。本当に魔王軍と戦ってるのか怪しいもんだ」


『何言ってるんですか! 神様の言う事が信用出来ないんですか?』


 この神様はいちいち俺の考えに割り込んできてうざったいのだが、ミュートにすると時々は重要な情報も出すので困る。


『ミュートに出来ると思いましたか? 強制割り込みはちゃんとできますよ~』


 逃げ場は無い様子だ。町まで急ごう。


 山道はきちんと草が刈られており、轍も出来ているのでそれほど危険は無いのだろう。ボルト町とやらが過激派なのかは知らないが、一応人の交流がある程度には常識的なのだろう。


「ぜぇ……ぜぇ……ソル、町はまだですかね?」


「えーっと……」


 マップを見るとあと一時間程度で着くみたいだな。


「もう少しがんばれ、そろそろ着くよ」


「しょうがないですね……がんばりますか」


 コイツ、以外と根性はあるな。俺はステータスのゴリ押しで一切疲れていないのでジャンヌを抱きかかえてダッシュを使うという方法もあるが、コイツにはもう少し鍛えて欲しいのでがんばってもらう事にしよう。


 俺がいつだってジャンヌを守れるとは限らないからな。最低限くらいは自分の身を守って欲しい。


 そしてしばらく歩くと町の入り口が見えてきた。魔王軍と戦っているとは思えないくらい入り口は平和そのものだった。


「疲れましたー……ソル! 宿を取りましょう!」


「はいはい、宿ね」


 目に付いた宿に入った。入り口に『魔王軍幹部を切り捨てた剣が飾ってあったのだが、本物なのか観光客向けのイミテーションなのかは分からなかった。鑑定を使ってみたが、それなりの剣ではあるようだ。しかしそれで何を切ったかまでは鑑定の首尾範囲外のようで分からなかった。


「いらっしゃいませ! ご宿泊ですか?」


「ええ、しばらく泊まろうかと思ってます。部屋はありますか?」


「ありますよ! 魔王軍が攻めてきたとき戦闘を眺められる一等室があります! お勧めですよ!」


「戦闘を眺めるって……?」


「あ、お客さん知りませんでしたか? この町には魔王軍の下っ端が時々来るのでその軍勢を蹂躙するのを見世物にしているんですよ! 結構評判いいんですよ!」


 俺はとんでもない町に来たんじゃ無いだろうか? 魔王軍と戦わされるのかと思ったら、魔王軍を倒すのを眺める事になるとは……


『その町の住人には結構力を与えたって後輩が言ってましたからね~血の気が多すぎるって愚痴ってましたよ~』


 神界はもう少し真面目に世界を作ってくれないものだろうか……人間を……いや、魔族でさえ紙の手のひらの上で踊らされているようにしか感じられない。あまり気分のいいものではないな。


「部屋はそこでいいので鍵ください……疲れました」


「はい、一泊銀貨五枚ですね。繁忙期はもう少し高いんですけどね、今の時期はサービスしてます」


「じゃあこれで」


 ジャンヌは前に売り払った素材代から金貨を取り出して受付に渡した。鍵をもらってあっという間に宿の二階の部屋へ走っていった。


「お連れの方、随分とお疲れのようでしたがまさか歩いて来たんですか?」


「ええ、それがなにか?」


「いえ……ここへは馬車でお越しになる方が多いもので……」


 ああ、ここは馬車を使う道だったのか……そういえば馬車の轍ができていたものな、馬車が日常的に通っている証しだろう。


「俺は食事をしたいんだが別料金か?」


「いえ、宿泊費込みですのでご安心を! ウチの旦那が腕によりをかけて作りますよ!」


「では寝る前に食事を頂けますか」


「はい、では食堂でお待ちください」


 俺は食堂のプレートの掲げてあるドアを開けて入る。中はテーブルがいくつかあるがどれにも客は座っていなかった。繁忙期ではないからこんなものだろうか。


 しばし待っているとパンとステーキが一枚載せたプレートが運ばれてきた。


「どうぞ」


 俺は腹が減っていたので何も考えずにパンをかじりステーキを切って口に運んだ。濃厚な味の肉は牛や豚ではないようだが……異世界だし謎の家畜もいるのだろう。


「ふう……美味しかったです」


「お口に合ったようで何よりです」


「良いお肉でしたね。調理も上手だった」


「ええ、ウチは魔物の肉でも一番味のいい部分を使っていますからね!」


「え……魔物の肉」


「どうかしましたか?」


「い、いえ、ごちそうさまでした!」


 部屋に行き横になった。窓の外は夕暮れになっている。魔物は食べても平気なのだろうかとは思ったが、そういうときに限って神様は助言をくれなかった。

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