第19話「ジャンヌの討伐訓練」
「なあジャンヌ、一言言いたいんだが……」
「なんですか?」
俺はこれを言ったらキレるだろうなと思う事をゆっくり話す事にした。
「お前、弱くね?」
「はぁ? ソルがちょっと強いからって言って良い事と悪い事がありますよ?」
「いや、だって俺も一日中お前の安全を守ってられないしさ、最低限の強さくらいあったほうがいいぞ」
ジャンヌに死なれると俺が自分の名前で討伐や採集が行われてしまう。俺としてはあくまでジャンヌという、優秀な勇者の補佐という立場を維持していたいのでジャンヌもたまには敵を倒してもらわなくては困る。
「ふっ……いよいよ私が本気を出さなければならないようですね……とはいえ残念、魔物がいないのでは戦いようが無いですね! イヤー残念残念!」
『魔物召喚の力をくれ』
『お、ついに私に頼る気になりましたか? いい心がけですね! 神の力を示しちゃいますよ!』
神様はいつもノリが軽い。自分が出てくると神の威厳が無くなるという理由がよく分かる軽さだ。
『魔物生成のスキルを取得しました』
魔物って召喚じゃなくて生成するんだな……
「じゃあ今から魔物を出すからそれを倒して見ろ。木剣でも勝てるような相手を出すから」
「うぅぅ……ソルは協力してくれないんですか?」
「俺が倒したらお前はまったく強くならないだろうが」
「分かりましたよ! その期待に応えて魔物ごときぶっ飛ばしてあげますよ!」
「じゃあ今から出すな」
『スライム生成、劣化個体、瀕死状態』
ここまで盛っておけば負けるはずが無い。訓練と共にジャンヌの自信だって一緒に育つ、一石二鳥だ。
黄色くて楕円形をしたぷにぷに跳ねるものが出てきた。いや、いきなりでバフをかけまくっていたせいで一回跳ねたら地面に広がってぺたんこになっている。
「じゃあジャンヌ、これを倒して見ろ?」
「分かりましたよ! やればいいんでしょう!」
持っているナイフで平面になりつつあるスライムに攻撃をした。パチンと弾けてスライムは光になって消えた。
『スライム生成に使用した魔力を回収しました』
なんと無駄の無いシステムだ。効率があまりにもよすぎる。生成して倒すのを繰り返すだけでいくらでも実戦訓練が出来る。マッチポンプもここまで簡単だと訴訟ものだろう。
「いやー、やっぱり私は強いですね! この程度の魔物など一発ですよ!」
「凄いな、結構強かったやつだぞ?」
自信を持たせるために話を盛る。いいように自信を持ってもらえたならこの茶番にも意味があったと言えるだろう。
「そうですよね、あのスライムは羊の皮を被った狼でした。もし攻撃が外れていたらソルが危なかったです」
褒める度に増長するジャンヌもムカつくを通り越して面白くなってきた。チョロすぎるだろう。あのスライムを生成するのにかかった魔力はほとんど無い。何ならその辺の雑魚を倒すために剣を振った方がよほどくたびれたくらいだ。
「じゃあもう少し強い敵を出すぞ」
「えっ!? 心の準備が……」
『イビルコオロギを生成します、体力低下、寿命寸前の個体になります』
そして大きめの虫が出てきた。跳ねて襲いかかってくる魔物だが、体力が無くなる寸前なので一回たりとも跳ねる体力が残っていないようで、威嚇のつもりかプルプル震えている。
「うわぁ……キモい……」
「それについては理解するよ。でもこれは魔力で生成した魔物だから、切りつけても体液とかはでないから安心してくれ」
「うぅ……」
目尻に涙を浮かべながらコオロギに向けてナイフを投げた、よほど触りたくないらしい。飛んでいったナイフは刃ではなく、柄の方があたったが、体力の限界に達している巨大コオロギはその衝撃でパラパラと崩れて光の粒子になった。
「案外雑魚ですね! 見ましたかソル! これが私の実力です!」
なるほど、ジャンヌの実力は瀕死の魔物にとどめを刺せる程度だと分かった。これについては先々の事を考えて時々は自信を持たせてやろう。本当にジャンヌがチョロい性格でよかった。
「よしよし、じゃあ先に進むぞ。ジャンヌ、今の感覚を覚えておけよ?」
「当たり前じゃ無いですか! 私は倒した魔物は全て記憶しているんですよ?」
戦争で死んでいったやつを全員覚えているような言い方だが、どう考えてもただ単に倒した敵が片手の指で足りる程度しかいないので成功体験を覚えているだけだろう。
ジャンヌには今後今まで食べたパンの枚数のごとく記憶しきれないほどの魔物を倒してもらわなくてはな。
マップで索敵をして、ちゃんと近くに敵がいないのを確認して俺たちは先へ進んだ。まだジャンヌはいい感じに調子に乗っているので、ここでまともな魔物が出てきたら戦うと言いかねない。
この旅は慎重極まるバランス感覚が求められる物になってしまった。そのうち野良のスライムくらいは倒せるように教育しよう。
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