第18話「ワイバーンの襲撃」

 俺はマップを展開して敵とそれ以外の一覧をアイコンで表示する。この前のごろつき達は皆索敵に反応しない程度に遠くまで行った様子で表示されない。遠くの方にはポツポツと赤い反応があるが距離的にかなり離れているので問題無いだろう。


「ソル? また何かしてるの? あなたはいつも私に相談無しでやりますよね?」


「俺だって相談できることはやってるよ。急な事はどうにもな……」


「そうですかね、ソルは独断専行が過ぎますよ」


「じゃあお前が盗賊やドラゴンと戦えるのか? どっちにせよ俺が戦うしかないだろ」


 ジャンヌもそれに反論出来なかったのか黙り込んでしまった。魔物ともまともに戦うのはキツいやつに戦えと言うほど無茶は言わない。花を持たせるという考え方を否定はしないが命を賭けてまでやるような事ではないと思う。ジャンヌは戦わせるにはあまりに非力すぎる。


「ソルが戦うのを眺めて軍師面がしたいじゃないですか!」


「思った以上にゲスい理由だな……」


 軍師面って、お前戦略と考えた事があったか? 近くで見ながら頷いているだけだったような気がするんだが……メッキは剥げたときに評価が下がるから気をつけた方がいいだろ。


「ちなみに自信のある戦略とか教えてもらってもいいか?」


「ソルのパワーによるゴリ押しが一押しの戦略ですかね」


 戦略でもなんでもない! レベルを上げて物理で殴ればいいという発想は嫌われると思うぞ。あと俺だからその戦略でも通用するだろうけど普通の人にその戦略を伝えたらキレられてもおかしくない……


 そこへ急速に近づいてくる警告が脳内に響いた。敵意を持つ相手が急速接近中と出てきた。


「ジャンヌ! 離れてろ!」


 俺は近くの岩陰にジャンヌを押し込んだ。的のアイコンは離れた場所から一気に近づいてきている。脅威としては大したことがないようだがジャンヌは死にかねない相手なので逃がしておこう。


『空間トラップを習得しました』


 何だそれ? とりあえず使用するぞ!


『展開』


 光が俺の前から上空に立ち上り広がっていった。これがどういう効果を発揮するのか……?


「ぎゃああああおおおおおおんんんん」


 光の広がった範囲に引っかかったドラゴンが落ちてきた。空中にも効く罠か、便利だな。


「ドラゴン? それにしてはあっさりチープな罠に引っかかったな」


『鑑定を使用します』


『ワイバーン、亜竜種、戦闘を推奨』


 なるほど、本物のドラゴンではないのか。大して強そうでもないし勝ち筋は結構あるな。


『ソルさんなら魔王にだって負けませんよ~』


『神様、緊張しているときにしょうもない口を挟まないでもらえますか?』


『失礼な! 私は神ですよ?』


『だったら自分でなんとかしてくれませんかねえ!』


 俺は落ちてきたワイバーンを一発殴りつける。頭がぐわんと動いてふらついているようだ。一応デミでもドラゴンの仲間ではあるようで俺の攻撃で意識を飛ばされない程度には強いようだ。


「グルルルル……」


 デミのくせにギャアギャアとわめくな。コイツを死なせて問題が無いのだろうか? ワンチャン人が飼っている個体という可能性がある。


『野生の個体、敵意あり、討伐推奨対象』


 自動で鑑定が働いてしまった。危険は無さそうだし今のうちに潰しておいても問題無さそうだな。ジャンヌの方には気づいてもいないようだ、アイツの存在がばれるとやばいのでさっさとこの場で消えてもらおう。


「悪いが死んでもらうぞ」


 思い切りワイバーンの頭にアッパーを当てた空高く吹き飛んでドサリと落ちてきたがまだ生きているようだった。


『一応亜竜種なので首を落としておいた方がいいですよ~?」

『アドバイスどうも……』


 収納魔法から剣を取りだしてワイバーンの首に突き立てた。単純な力の強さが鱗の耐久力より強く、ブスリと剣は刺さりそのまま掻き切った。血が一面に飛び散ったがジャンヌ以外の人がいる気配は無いので問題無い。


『ワイバーン、死亡を確認』


 一丁あがりっと……雑魚で助かった。古代竜とかだったら結構危なかったかもしれない。


『大丈夫ですよ~ステータスは全生物に勝てるように盛りましたから』


 神様の助言はさておき、とりあえずこの死体を収納魔法でしまってしまおう。ここでこの体を残しておくと大事になりそうだ。


「ソル! 勝っちゃったんですね?」


「よう、大軍師様?」


「ふっふん! 私のいったとおりの戦略でこの程度の敵は倒せましたね!」


 戦略……? ああ、力押しの事か……いや、確かに力のゴリ押しで勝ったけどさあ……それを自分の功績にするのは違わないか?


 何にせよここに僅かに残った血痕だけが戦闘が起きた事を示している。死体については……売れるところで売ってしまおう。持っておくと邪推をされかねないしな……金があるとしても処分しておいた方がよさそうだ。


「ねえソル? あなたはなんでこんなに強いのに勇者に立候補しなかったの?」


「そりゃあ目立ちたくないからだよ、勇者様はだろう?」


 その言葉に自信を持ったジャンヌは先へと進む方へ足を向けた。ワイバーンはここで死んだ、特に理由の無い暴力によってだ。世の中の死体の大半は特に理由の無いものなのだろう、日本では違ったがここでは死体をいちいち検査したりしないようだしな。


「よし! じゃあソル! 一緒に次の町へ急ぎますよ!」


「はいはい……配下の人使いが荒い事で……」


 こうして俺たちは旅路に戻った。念のためマップで索敵をしたがこの付近に敵はいなかった。可哀想なワイバーンに少しの哀悼の意を示して先へと進む事にした。

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