第17話「野盗に襲われた」
「ソル~この道であってるんですか? な~んにも無いですよ?」
「そりゃあ待ちと町のあいだにまで建物を期待するのが間違ってるだろ」
今は旅路の途中だ。町と町のあいだなのだから建物が無いのは自然だ。もしここに大量の建物があればここは通り道では無く町の一部と言う事になる。つまりは定義として旅路にはたくさんの建物など無いのが普通だ。町から離れてしばらく経ったので索敵スキルに引っかかるようなものも無い。
人間も魔物もいない平和な道を進行中だ。敵など怖くはないにしても戦いなどメリットが無いのでやりたくない。強さは極めているし、金は無限に出てくる、戦わなければならない理由がどこにあるというのか。面倒事に進んで関わるつもりは無い。
「退屈ですね~……ドラゴンでも襲ってこないんですか?」
「竜の巣はここからずっと遠い、はぐれ竜でも居なけりゃこんなところに出てこないよ」
ちゃんと世界地図で確認済みだ。今回の移動は南の方へ向かって町を出た。北部の方の治安の悪い地域はしっかりと避けている。世界地図に犯罪発生率の表示があるとは思わなかったがやってみるとしっかり色分けされて表示されたのでそっちは避ける事にした。
「ねえソル、勇者の旅っていうのはもっとこう突然現れた強キャラに絡まれるというのを昔から読んでた勇者様の伝記で読んだんですけど、私たちにはそう言う事は無いんですか?」
「無い」
断言する、そんな方向に向かうなんてわざわざするはずが無いだろう。俺は安全な地域で人間と魔族の争いからは離れて生きるんだ。
『それは大変困るんですがね~』
『だったら勇者の資格がある新人を地球からもう数人送ってくればいいんじゃないですか?』
『そんな事をしたらソルさんを送ったのが失敗だったと後輩にバレてメンツが潰れるじゃ無いですか!』
神様超見栄っ張り。魔王との戦争より自分のメンツを取るのか……誰だって好き好んで戦うわけがないだろう。
「ソル、魔族は居ませんかね?」
ああ、目の前に戦闘狂が居たな……コイツはもう少し常識というものを知った方がいい。
「いないよ、魔物もいないし何も問題無い」
「そうなんですか……ちっ……」
舌打ちをしている。目に見えた危険に突っ込んでいくのはどうかと思うんだが、勇者になるためなら危険な目にあっても構わないようだ。
「まあそんな都合よく魔物なんて出てくるわけが……」
『ピコン』
脳内のマップ上に表示されていた人間のマークが青色から敵意を示す赤色に変わった。人間が魔物になった? いや、突然敵になったのか?
「どうしました?」
「この先一キロに敵が居る、俺は先に行くから後から来い」
俺は能力に任せてダッシュして一気に走り去った。後ろで「待ってくださいよ!」という声が聞こえたが、アイツを危険にさらすわけにはいかないので単独で敵の元へ向かった。
「た……助けてくれ!」
「悪いなあ……俺たちも金が欲しいんだよ、だからまあ……死ねや」
そんな言葉が聞こえてきたのでジャンプをして一気に距離を詰める。そこから剣を振りかぶっている敵に向けて拳を向ける。
「たあありゃああああああ!!」
ドゴオ
人間の骨が折れる音と共に武器を向けていた敵が一気に数十メートル吹き飛んだ。
「な……なんだお前は!?」
「勇者のお供だよ」
さすがに自分を勇者と名乗る気は無い。後から来るであろうジャンヌに花を持たせるためにアイツの配下になっておく。
「大丈夫ですか?」
座り込んでいる商人らしき老夫婦に声をかける。
「あ、ああ……助けてくれるのか?」
「そうだ、そのために来たんだからな」
安堵した二人を後ろに盗賊らしき連中に向き合う。
「そんなジジイとババアをかばう事もないだろうに。勇者様ってのは結構なものだな」
「お前らこそなんで人間を襲うんだ? 魔物を倒せば感謝もされて報酬も出るんだぞ?」
「バカかお前! 魔族より人間の方が殺しやすいからに決まってんだろ!」
「クズめ……」
清々しいほどのクズだった。倒すのに気兼ねがなくていいな。
「どうせ護衛の振りして町を出たところで襲う気だったんだろう? 俺が気にしないくらい離れてからやってりゃ無視してやったのに焦りすぎなんだよ」
「こ……この野郎!」
「ばーか」
手のひらで相手の胸を殴りつける。『うっ……』とうめいて気を失った。
「さてと、雑魚の仲間もやるかい? 言っておくが殺さない保証はしないからな?」
数人居た手下達は忠誠心の欠片もないのか蜘蛛の子を散らす要に逃げ去っていった。実力の差が分かるくらいには知恵があるらしい。
パラパラ逃げ去った後に老夫婦に目をやる。「ひっ」という声が聞こえた、ビビらせてしまったかな?
「安心してください、もう敵は居ませんよ」
老人は恐る恐る立ち上がって俺に頭を下げた。
「ありがとうございます、あの者達は警護として雇ったのですが……安さに釣られるものではないですなあ……」
安さに釣られたとは災難だな。しかしいかにも治安が悪そうな地域にいそうな奴らをわざわざ雇う事もないだろうに……
「おっと、代金くらいは返金させておいた方がよかったですね」
「いや……勉強代として捨てますよ。あんなのに命を賭けるこたぁない」
「そうですよ、私はあの者達は素性が知れないといったでしょうに……」
「ソル! あなた一人で先行して私のことを無視しないでくださいよ!」
「おお……あなたがこの方の仰っていた勇者様ですか?」
ああ、そういえば俺は勇者のお供って自己紹介をしてたな。さて、ジャンヌはどう答えるか……
「え!? ああ、そうですよ! 私が偉大なる勇者ことジャンヌです!」
「おお……勇者様に助けていただけるとは、長生きはするものですなあ……」
しみじみとそう言う爺さん。ばあさんに至ってはジャンヌを拝んでいる。御利益のあるやつではないと思うが俺が崇められても困るので黙っておこう。丁度ジャンヌの方もいい気になって胸を張ってドヤ顔をしているんだし黙っておいてやろう。
「そうです! 私が求めていたのはこれです! 私は偉大な勇者なんですよ!」
ニヤけているジャンヌとそれを拝んでいる老夫婦を放置してマップを脳内に展開した。先ほど倒した連中の赤いマークはどんどん離れていっている、追撃をするほどの相手でもないだろうし、連中を殺すまで追い詰めるのは面倒だしやりたくない。
まあ本人は満足の極みのような顔をしているので俺について語るような事はしないだろう。精々英雄様になってくれ。
「勇者様、ありがとうございます……あまりお礼は出来ないのですが」
そう言って数枚の金貨を取り出している。さすがに金をもらうのは悪いかと思ったのだろうか、俺の方を見てくるので俺は手で受け取っていいぞとジェスチャーをした。俺の方は金に困っていないのでジャンヌのお小遣いにでもすればいい。
そうして俺とジャンヌは老夫婦と別れた。あの二人はメビウス町に行くと言っていたのでもしかしたらそっちでも噂くらいは聞くかもな……
「ソル! 善行を積んだのは評価しますよ!」
「はいはい、分かったから先に進むぞ」
「もう! いきなりすっ飛んでいったのはソルじゃないですか!」
そんな言い合いをしながら俺たちは旅路を進んでいった。
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