第15話「呪いのアイテムの解呪を頼まれた」

「勇者様、魔法の解呪ってできますか?」


 ギルドにやる気もなさそうなジャンヌとやってきたらそんな事を聞かれた。ジャンヌは気まずそうに答える。


「いやあ……解呪ですか……難しいんですよね」


 ジャンヌは出来ないというのがプライドに関わるらしく、『難しい』という表現を使っていた。


『「解呪」スキルを取得しました』

『選択肢さえくれないんですか……』


 俺がシステムにそう愚痴ると神様からの返答があった。


『デメリットのない能力ですからね~! チートが欲しければもっとあげますよ?』

『必要になったら言います』


 俺を神にでもしたいのだろうか? 俺のスキル一覧を一度見せてもらいたいものだ。


「ソル……どうにかなったりしませんか?」


 俺はしばし考えて答えた。


「できなくはない……たぶん解呪くらいならできるぞ」


「そのクエスト、受けましょう!」


「本当ですか!」


 ジャンヌは胸を張って答える。


「勇者に二言はありません!」


 勇者だって引く事を覚える事は大事だと思うのだが、俺の言葉で調子に乗って受ける事にしたようだ。どうせまた作業の方は俺に回してくるのだろう。お断りしたいところだが、呪われているという事は誰かが被害に遭う可能性があるという事だ。それを安直に放置する気にはならない。


「では町の役場に保全してある剣の解呪をお願いしますね」


「役場って……」


「ああ、その呪いアイテムは町に寄付されまして、貴重なものなのは確かなんですが呪われていまして、隔離して保管しているんですよ」


 町に寄付する方も方だが、受け取る町も町だろう。財政状態が心配になるほどなりふり構っていないやつが町を運営しているらしい。


「なんでそんなもの受け取ったんですか? 普通にそれは嫌がらせだと思うんですが……」


 ギルドとしてもごもっともと思っているらしく頷いている。


「それはそうなんですがね……呪いが解ければ金貨にして千枚はくだらない品なんですよ。そのために解呪をどうしてもやりたいらしいんですね」


 結構な金額だが呪われているってそれでいいのだろうか? いや、しかし金貨千枚を安易に捨てられないというのも理解は出来るが……


 もっとも俺は無限の財布を持っているので高額という気はしないのだが、普通に考えると結構な金額だな。しかしそもそも金を持っていれば依頼なんて受ける必要も無いのだが、ジャンヌがそんな事はまったく気にせず名を売る事だけを考えているのでそれに巻き込まれてしまう。


「報酬は金貨五十枚!」


「五十枚ですか!」


 その金を支払ってやるから依頼をキャンセルしないか? と提案したくなる。五十枚なんて財布をひっくり返せばあっという間に用意できる金額だ。金は払ってやるから黙ってくれないかなあ……


「では、町役場に行ってくださいね! 呪いの剣として展示されていますからすぐ分かると思いますよ」


「展示品なんですか……」


「手に取らないかぎり害のない呪いですからね……死蔵するよりは見世物にした方がいいって話らしいですよ」


 そう言って受付のジュリーさんは俺たちを送り出した。気が進まないなあ……


「ソル! 早く行きますよ! 善は急げって言うでしょう?」


 そのことわざがこの世界にあるのかは不明だが、翻訳システムに感謝しつつジャンヌの後をついていった。


「ほほう……ここが町役場ですか。私の故郷ほどではないですがなかなかですね」


「あの木造の建物と比べるのかよ……どう考えてもここの方が立派だろ」


「失礼ですよ! 私の故郷ではご神木を切ってあのギルドを作ったんですよ?」


「ギルドなんて俗っぽいところのためにご神木を切るなよ……」


 中で酒をガブガブ飲んでいる場所の用意にご神木を使ったのかよ。さぞやご神木も泣いているだろう。


「でも、その後すぐに新しいいい感じの木をご神木認定したので問題ありませんでしたよ?」


「ご神木を認定システムにしてるのか……」


「ご神木って認定をして売れば木の売値が上がるんですよ!」


 クズだ……クズがいる。あの町は全体的にそうなのかよ。そんないい加減なご神木に値段をつける業者が気の毒すぎる。そういえば日本でもよく分からない賞の金賞を受けましたとかいう、『お前以外の業者が本当に参加しているのか?』という疑問が浮かぶほどに聞いた事のない箔をつける事があったな。そんなところまでこの世界は地球のコピーシステムなのかよ……


 そんな知りたくない情報を得てから町役場に入った。


「あなた方が解呪をしてくださる勇者様ですか?」


「はい! そうですよ!」


「一応そう言う事になってますね」


「ではこちらへお願いします」


 こうして案内された先には『伝説の剣展示中!』と書かれたプレートのついている部屋へとやってきた。なお、入室時に銅貨五枚を渡すシステムのようだが、ギルドから連絡が行っていたらしく支払う必要は無いそうだ。


「これが『ダークネスソード』です。見た目からして禍々しいですよね?」


「そうですね……」


 俺の完走としては悪趣味の一言だった。これがかっこいいと思えるのは中学生までだろう。ゲームで攻撃力がかなり上がるかわりに他のステータスが下がりそうな剣と言えばイメージできるだろうか?


『あの子の黒歴史に触れるのはやめてあげてください』

 神様から通信が割り込んできた。

『黒歴史なら消せばいいじゃないですか、神なんでしょう?』


『あの子としては割と気に入っているらしいですから……作りたいと相談されたときに後々の事を考えてやめておいた方いいよっていったんですがねえ……』


「はあ……じゃあ解呪を……」


「ちょっと待った!」


 ジャンヌが大声を出して止めてきた。さっさと終わらせたいのになんだっていうんだよ……


「申し訳ないですが秘密の技術を使うので私たちだけにしていただけますか?」


「はい! お願いします勇者様」


 そう言って付き添いの人は部屋を出て行った。


「人払いの必要ある?」


 ジャンヌは堂々と宣言する。


「全部ソルにやらせたら私の立つ瀬がないでしょう! この依頼は二人で受けたものですよ?」


 とことん自分のための理由だった。そんな事だろうとは思ったが自由なやつだ。


「じゃあ解呪しておくぞ? 危険は無いと思うが準備はいいか?」


「いいですけど、ソルは何でも出来るんですね……?」


「何でもはできない、神様の許可が要るんだよ」


 それを冗談と受け取ったのかジャンヌはクスリと笑って『やっちゃってください!』と宣言した。


『ホーリーディスペル』


 光が流れ出し剣を包んでからそれが弾けて消えた。問題無く解呪が終わった事は剣の見た目から分かった。


「大丈夫ですか!? 今の光派なんですか!?」


「大丈夫です! 今のは解呪の光です!」


「そうなんですか? それで『ダークネスソード』はどうなりました?」


 俺はどう言っていいのか分からなかった。解呪の代償に剣はすっかり姿を変えていた。


「こんな風になりました……」


 黒かった剣は銀色にキラキラ光り、キリスト教もないはずなのに十字架が柄にデザインされた先ほどとは別の厨二的デザインに変わってしまっていた。


「こ……これは……」


「なんかすいません。あの見た目は呪いの影響だったみたいです……」


「かっこいい!!!!」


「え?」


「でしょう!」


「凄いですよ! 以前のドラゴンをあしらったデザインも素敵でしたが、こちらの神を賛美するかのようなデザインもかっこいいですね! これは十分に鑑賞品になりますよ!」


「えぇ……」


 それでいいのか? 見た目のすっかり変わった剣を気に入ったらしい人のその声に釣られて役所の人が集まってきた。


「どうした? うおっ! これはかっこいいな!」


「どうしたんですかー? どうしたんですかその剣は!?」


 それから押し寄せる職員にも大体好評を得た剣は『ホーリーソード』として名前を変えて展示を続けるという事になった。デザインがまったく変わってしまったために不満を訴えられるかと思ったがそんな事を言い出す人は居なかった。


『いやー、私のデザインもなかなかいいでしょう?』

『あなたのデザインなんですか……?』

『当たり前でしょう? この世界に十字架の概念なんて無いですよ』


 それもそうか、明らかに地球の土産物店で売っていそうな剣は大層好評を博して見物客もそれなりに増えたらしい。結果的にはよかったが、ここまでの変更はリスキーなので安易に解呪の依頼を受けないようにしようと思う。


 その日はジャンヌが『呪いにも強い勇者様』という称号を得て喜々としていた。是非ともその調子で好き放題に称号をもらってほしいものだ。

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