第12話「この町には意識の高い勇者が集うらしい」
「魔王軍幹部を倒したのはあなたですか?」
酒場で飲んでいると突然そんな事を聞かれた。目の前にいるのはショートカットの金髪の女の子、ついでに黒髪の勇者、こちらは日本人かと思うような見た目だった。
「ええ、そうですよ」
そこにジャンヌが割って入った。
「ちょっと待ったあああ! 私も討伐に参加しましたよ! まるでソル一人で倒したような言い方には訂正を求めます!」
お前なんもやってないじゃん。しかし一人で倒したと話題になるより二人で倒したと話題になるなら俺への注目が半分になるので黙っておこう。案外ジャンヌは広告塔としては優秀なのかもしれない。
「はえー……やっぱり勇者様は候補でもとんでもなく強いんですねえ……」
「失礼だぞ、今回の英雄様に」
男の方が少女をたしなめているがそう言う対応はやめて欲しい。
「気にしないでくれ、俺は全然大したことないからな」
「あなたが凄くないなら凄い人はどこまで強いんですか……」
「そこそこだよ、ところで君たちは誰だい?」
「あ! 失礼しました! 私はフィーです」
「俺はナキです、ここで勇者様が飲んでいると聞いてフィーと一緒に会いに行こうと言ったんです」
「そうか、俺はソルだ」
面倒な事になりそうだ、大事になっても困るのだが。
「あんまり騒ぐような事じゃないよ。たまたまここに来たのが雑魚だったんだろう」
「いや……でも襲ってきたのは魔王軍幹部だって話じゃないですか?」
「アレはただ単に幹部の中でも弱いやつが来ただけだよ」
実際その通りだっただろう。ハイオーク程度に俺を使うのは役不足もいいところだ。しかしさっきの戦闘が神界チューブで切り抜かれているのだろうか? 神の世界にもスパチャとかがあるのだろうか?
「でも……ものすごく大きいオークでしたよ?」
フィーは疑問に思っているようだ。
「大きさが強さの指標ではないよ。実際俺はあのハイオークより小さいけど余裕で勝ってただろ? 魔王だってそんなに巨大だって話も聞かないだろ?」
大きいほど強いなら魔王は世界最大の生物と言う事になるだろう。そんなものだったら話題にならないわけがない、オーク程度であの大きさなのだか魔王はお城レベルの大きさになってしまう。フ○ーザだって最終形態の方がコンパクトに収まっていたしな。
「どうしてソルさんはあんなに強いんですか? 普通はあんな敵が出てきたら逃げると思うんですが」
「ソルは強いんですよ! あの程度の相手に逃げるわけないじゃないですか!」
「ええっと……あなたは?」
「コイツはジャンヌ、一緒に敵を倒した仲間だよ」
一緒にという事にしておこう。ジャンヌは調子に乗りやすいので上手くいけば俺が目立たなくて済む。
「まあ私くらいになればハイオークごときに苦戦などしませんがね、ソルがどうしても戦いたいと言ったから今回は花を持たせたわけですよ!」
いい感じに調子に乗ってくれている。そのままこの二人の相手を任せてしまおう。俺は酒を飲むので忙しいんだ、大体神とやらに頼まれたのだって魔王を倒せというだけであって新人教育など頼まれていないんだ。
『「神の使徒、新人教育をする」とか映えると思うんですがねえ……』
『神なら自分でなんとかしろよ! そんな事まで面倒を見きれるか!』
神様は自由すぎませんかねえ……人を神界のフリー素材か何かだと思っている節がある。神なんだから人間を作ったのかもしれないが人間はもはや神の手を離れていると思っていた。だと言うのに俺は現在神の玩具として魔王討伐に投入されている、迷惑にもほどがあるだろう。
『神様、なんで自分で魔王討伐をしないんですか?』
『えー……だって神が人間界にポンポン出てきたら威厳が無くなるじゃないですか』
『神の奇跡を人に見せるのは大事じゃないんですか?』
『そういって調子に乗った神が人間に関わったあげく酒場で神界について愚痴を述べて信仰心がダダ下がりになった例があるんですよ』
神様、思った以上に俗な生き物だった。つーか酒に酔うんだな、神なんだから生物としてアルコールに反応しないくらいの強さはあるのかと思ってた。どうやら神様の業界にも愚痴というものはあるらしい、人間には見せていないだけなのだろう。自身を神格化するというプロ根性には敬服するが、トラブルを放置するのはやめてほしいものだ。
「どうかされましたか、ソルさん?」
俺が神と脳内で会話していた事を知らないナキが問いかけてきた。脳内で人間の干渉できない相手と会話してるってヤベーやつなので気をつけよう。
「なんでもない、ジャンヌに魔物との戦闘について訊いたらどうだ? 俺より参考になると思うぞ」
「そうですね! ジャンヌさん! どうすればその勇敢な心を身につけられるんですか?」
「いえ、別に勇敢というわけでは……」
フィーも俺の放言にのってジャンヌに質問をしている。ジャンヌも英雄扱いされてさぞ満足している事だろう。
「しかしあのハイオークは弱かったですね、私が出るまでもないのでソルに任せましたが」
「ではジャンヌさんはソルさんより強いんですか!?」
「当然ですよ! 私の強さは勇者になったときの試験で試験官を驚かせたくらいですからね」
なんだかどこかで誰かがやらかした事をさも自分の事のように語り出すジャンヌ、言うだけならタダだしそれでいい気になるなら放っておくとしよう。
「さすがですジャンヌさん! 強い人はやはり余裕が違いますね!」
フィーの言葉に気を良くしたようで鼻高々と言った風にドヤ顔をしている。調子に乗って余計な事を言わないようにだけは気をつけておこう。
「ソルさんはどのくらい強いんですか? ジャンヌさんほどではないのかもしれませんがかなりのものですよね?」
「俺はタダの勇者候補だよ、候補だから魔王軍と真面目にやり合う気なんて無いし死なない程度にがんばっているだけだよ。討伐報酬もジャンヌにわけてもらったし一杯奢るよ」
「マスター、二人にアルコールが一番入ってるカクテルを頼む」
アルコールの概念があるのかは知らないがその辺は翻訳機能がよしなにやってくれるだろう。
「こちらソルさんから、『魔王』というものです」
二人に透明なカクテルが差し出された。何の迷いもなくそれをクイッと二人で飲んだのだがあっという間に酔い潰れてしまった。
「あれ? 二人とも寝ちゃいました?」
「マスター、あのカクテルって何が入ってるの?」
いくら何でも潰れるのが早すぎだろう。地球で会った女の子を酔い潰させるための酒でも一杯でこうはならんぞ。
「アルコールになります」
「えっと……味とかは?」
「アレは純粋なアルコールになります、火をつければ燃えますよ」
まさかのアルコール百パーセント!? この店は正気か? どんな発想をしていればアルコールしかないカクテルなんて考えるんだ……というかそれはもうアルコールであってカクテルではないような気がする。ただのエタノールって言うんですよそれは……
「アレ? お二人ともどうしたんですか?」
「……ふぇ……」
「……ふぁ……」
「二人とも気を張ってたからだろう。しばらく休ませてやれ。マスター、会計を四人分」
「いいのかね? その二人になんの恩もないんだろう?」
「勇者がケチくさい事を言うもんじゃないだろう?」
「なるほどな、勇者様は言う事が違う」
そして俺は金貨を出して会計を済ませて酒場を出た。ジャンヌはもっと自慢したかったようだが風評被害が広まっても困るので二人には黙ってもらった。
「ジャンヌ、俺は酔ったから先に宿に帰ってるよ」
「じゃあ私は他所を回ってから帰りますので」
そうして俺たちは別れてそれぞれ宿に別で帰ったのだった。
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