第11話「左遷された魔王軍元幹部の襲撃」
カンカンカン!!
せっかく朝日に微睡んでいたのにやかましい鐘の音で起こされた。ジャンヌの方も『なんれすか?』と気の抜けるような声を上げている。
「魔王軍襲来警報でーす!!」
大声が町の各地で聞こえてくる。町の人が避難を始めているようだ。
「ジャンヌ、逃げてろ。俺が敵は片付けてくる!」
「何言ってるんですか! ソルは私の相棒でしょうが」
どうやらついてくる気のようだ。正直足を引っ張られるだけのような気がするので素直に逃げて欲しいんだが……
「ふふふ……私が町を救った英雄に……ソル! 早く行きましょう!」
「お前は邪念が渦巻いているんだよなあ……」
人助けくらいは損得勘定ぬきにして欲しいところだが、コイツはそうもいかないらしい。あるいは俺が転生者である以上価値観が違うのかもしれない。それでも危ない人がいて、それを助ける力もあるのにそれを見捨てるような人間にはなりたくないな。
「よし、装備も揃っている事だしカチコミかましやがった魔王軍に一泡吹かせてやるか」
「よろしい、じゃあ行きましょう!」
こうして俺たちは町を囲う壁の出入り口に向かった。魔物が空を飛べる可能性もあるが、たぶん陸上生物も多いはずだ。
「ソルさん! ジャンヌさん! 町の防衛に協力していただけますか?」
「任せておいてください!」
「私たちが来たと言う事は勝利するという事ですよ?」
大口を叩いた気もするが、負ける木は微塵もしないので問題無いだろう。
大群が来る事を予想し、衛兵から冒険者まで大勢が動員されていた。しかし魔族の商隊は僅かな軍勢だった。それを笑えなかったのはあまりにも巨大なオークがリーダーをしていたからだろう。
「グルオオオオオオオ!! 魔王様のために! 我が手に栄光を取り戻すために!」
「ジャンヌ、相手のリーダーは同類っぽいぞ、よかったな」
「いいわけないでしょう! 私は危険を冒して権力を手に入れるなんて質じゃないんですよ! 楽して魔王討伐パーティに参加して倒した後に貢献者面をするのが目標なんです! あんな安直な方法で欲望を満たそうとする連中と一緒にしないでください!」
「なんかあのオークの方が自分で戦う分立派に思えてきたぞ……」
「何しているんですか二人とも! 門を閉めて攻城戦ですよ! 早く中に入ってください!」
衛兵達はもうすでに町の中に入り、壁の上からは弓兵達がオークの方に矢を飛ばしている。残念ながらオークが鬱陶しそうに体をかくとポロポロと刺さった矢は落ちて血液の一滴さえも落ちなかった。明らかに効いていない様子だ。
「俺はここで町を守ります。なに、あの程度の敵なら勝てますよ」
「何を言っているんですか! 本当に死にますよ!」
もうすでに一回死んでいる事については黙っておいた。転生すると死ぬ事への抵抗感がなくなるなあ……
「たった二人で勝てるわけが……」
「勝てます!」
「さっさと中に逃げておいてください、俺たちの心配は不要です」
「……分かりました、ご武運を!」
そう言って最後の兵士も町の中へ入り木製の門が降りた。
『これでもう邪魔するものは無いな』
『そうですねー……一応魔王の手先なのでちゃちゃっと片付けてください。あ、チートが要りますか?』
『神様はいつもそのノリですねえ……』
『神界チューブを見ていたらあなたが戦う場面を切り抜いていた人がいたので、おもしろ……興味深いので観測してるんです』
面白そうだったのか……あと神界チューブとかいう謎の技術が神界にはあるらしい。納得はいかないが今は目の前のオークだ。
「舐められたものだな! 人間が二人だと! 我が輩を魔王軍幹部にしてハイオークの『ダーガス』と知っての事か!」
「いや、知らないに決まってるだろ。俺たちは初対面だぞ?」
どうやらその返答にイラついたらしい。ダーガスは人間二人分くらいのサイズがある太い混紡を俺に向かって振り下ろしてきた。
人の十杯はある巨体、当然のごとく叩き潰せると思っていたのだろう。実際ほとんどの人間は潰せるだけの力だとは思う。だが雑魚だ。
ガキン
大きな石の混紡をぶん殴ると医師が砕け散る音と共に混紡は吹っ飛んで粉々になった。
「人間ごときが……我が輩の攻撃に耐えただと」
「なあダーガス」
「人間め……」
「お前、弱いからこんな辺境に来たんだろう? 幹部なんて言っても月々の報酬が減らされなかったか? 『幹部の自覚を持て』とか言われてさ」
要するにコイツは名ばかり幹部ではないかという結論に至った。貴重な戦力ならもっとお供をつけるし、重要拠点に投入されるはずだ。
「黙れえええええええええええええええええええ!!!!!!!!」
どうやら図星を突かれたらしい、こういうやつは人狼ゲームに弱そうだなと思う。たぶんポーカーや麻雀なら真っ先にカモ認定されるタイプの激情型だ。
「黙るのはお前だ」
俺はオークに向けてジャンプし、ステータスの暴力で思い切り殴りつけた。人の数倍の大きさと言っても、脳で思考をしている以上頭に強い衝撃を与えれば倒せる。コイツを殴ったときの感触から言って頭蓋骨が砕けたようなので起き上がる事はないだろう。
コイツのお供の魔物達はリーダーが一撃で倒されたのに恐怖して散り散りになって逃げていった。出てきたのが雑魚で助かったな。
『後でこのシーン切り抜いておきますね~』
『あんたはもう少し真面目にやれ!』
神様との漫才も疲れるのでそうそうに打ち切ってオークが倒れた時点で開いた町の中に入った。
「あんたすごいよ! あの化け物を一撃とかどんな力だよ!?」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
衛兵達は死闘を覚悟していたのだろう、酷く感謝をされてしまった。そして報酬を支払うという事でギルドに連れてこられた。俺がいくらでも出せる財布を持っている以上もらわなくても何の問題も無いのだが、それを話すのはよくないと判断してジャンヌと二等分するという事で報酬を受け取った。
ジャンヌの方は布の袋に入った金貨を大事そうに持っているが、俺は雑に財布に流し込んだ。どうやらこの財布はいくらでも出せるし、いくらでも入るらしい。便利な機能満載のようだ。
「ねえねえソル! 今晩はお肉が食べられそうですね!」
コイツの村での食生活は知らないが、その言葉からあまり恵まれては居なかったんだろうなと思った。
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