第10話「町に着いた」
「えっと、この先に村があった……はず」
「ソル、断言してくれないと不安なんですけど?」
だって脳内マップでそこに町がある事になっているなんて言おうものなら、妄言と切り捨てるだろう? 俺は平穏に生きていきたいんだよ、コイツに僅かばかりでも俺が特殊能力を持っている事を知られたくない。
今までだってそこそこ無茶をやってきたのだが、そのうち辺り一帯を消し飛ばすんじゃ無いかと不安なくらいだ。
『大量破壊魔法を使用しますか?』
『しない! 絶対に発動させるなよ!』
脳内の同居人が好き放題やってくれるおかげで必要以上の対処をされてしまい逆に厄介な事になってしまう。
「ねえソル……」
「なんだ?」
「あの方向に見えるのは町じゃないでしょうか?」
遠くを眺めてみる、地平線の近くに建物らしきものが見える。おそらくあれが『メビウス町』だろう。
『千里眼スキルを習得しますか?』
『しない』
少しこのスキルを付与するポンコツ神もおとなしくなったのか、自動付与ではなく確認を取る程度にはなってくれた。それが当然の対応であって、配慮以前の問題である事には目を瞑ろう。
「ジャンヌ、歩けるか?」
「余裕ですよ! これで野宿から解放されますね!」
まだ元気があるようだし、問題無いだろう。野宿生活をするのは女の子には辛いのだと思う、あくまで日本基準の話であってこの世界では普通なのかもしれないが……
そしてマップを脳内に展開して町まで数キロというのが確認できた。この世界での単位を自動変換してくれる翻訳スキルはなかなかあの神にしては気の利いたスキルだ。なんならあの町で余生を暮らしてもいいと思えるほど戦闘には飽きた。
町までの道に敵の反応は無い。魔物といえど命を奪うのは心地よいものではない。襲いかかられたら問答無用で倒す程度のことはするが、草の根をかき分けて息の根を止めるほど討伐に執着していない。
そうしてジャンヌの速度に合わせて一時間位平原を歩いて行くと町の門にたどり着いた。看板には『メビウス町案内』と書かれている。
「へー、メビウス町って言うんですねここ」
「そうだな、しばらくはのんびり出来そうだ」
「ソル、魔王を倒すって目的を忘れてないですよね?」
さあて、何の事やら、魔王とか倒してもロクなことがない、特典が地球に帰れる事とか言う薄すぎるメリットだ。こちらの世界ではチートが無制限に手に入るというのに地球なんぞに帰ってたまるか。
「覚えてるよ、魔王を倒すと入ったがいつ倒すかなんてはっきり言った覚えは無いなあ……」
倒す、倒すとは言ったがいつ倒すかという事に言及していないのは覚えておいて欲しい。
「私は一刻も早く勇者になって私のことを馬鹿にした連中を見返すという重要な役目があるんですよ! しっかりしてください!」
それは大層な理由だな……俺はできればそんなみみっちい目標を応援して手助けしなければならないのか……
『いえ……あなた一人で倒してくれて構わないのですよ?』
『神様は黙ってて』
神だかなんだか知らないが偉そうなんだよ、勝手に転生させるしさあ、人の迷惑とか考えた事はないのだろうか? ないんだろうな、神なんだからそんな俗世の細々した事など知らないのだろう。
「ソル! 町に入りますよ!」
「はいはい」
元気よく門をくぐろうとしたジャンヌだったが、門番に止められた。
「旅行者の方ですか? 身分証を見せて頂きたい」
なるほど、身分証を作っておいた方がいい理由とはこういう事か。確かに持っていないと入れない町もあるようだ。
俺とジャンヌは勇者候補であると証明された身分証を見せた。途端に門番は笑顔になって俺たちを通してくれた。
「勇者候補の方でしたか、ようこそ我が町へ! メビウス町では勇者様のための装備を揃えております!」
なるほど、勇者候は商売の相手には丁度いいという事か。実際俺は金が無限に出てくる財布を持っているので商売の相手としてこれ以上は無い。あんまり使うと貨幣価値が下がるから加減はするけどな。
「ソル! 先に行っちゃいますよ!」
「お前、考え無しに突っ込むのは控えろよ!」
俺たちは町の中へ入っていった。町の中は活気づいており『高級装備あります!』とか『魔王軍が恐怖した一品があります』とかの好き放題な広告が出されていた。
「ソル! あの『もっているのをみた魔王軍が散り散りに逃げたロッド』が欲しいんですけど!」
「落ち着け、そんなものを看板を出して売ると思うか? 普通に実力のあるやつに下賜するような代物だろ」
「ソルは夢が無いですよ! 私は強い武器を使ってばったばったと魔王軍をなぎ倒していきたいんです!」
「自分の実力不足を道具でカバーしようとするのはどうかと思うぞ」
普通に自分を鍛えて強くなるべきだろう。実力に見合わない武器なんて持っていても役に立つかどうか分からない。俺については素手でも十分に強いので武器など必要ではない。
「ねえソル! あなたは興味のある武器とか無いの? こういうのって勇者になろうなんて人からすれば垂涎ものじゃないの?」
「こんな武器なんて必要無いだろ、魔物なら殴ってれば勝てるし」
「でもやっぱり勇者候補なら剣の一本でも持っていないと格好がつかないじゃないですか! 買いましょーよ!」
「はいはい……」
そうして俺たちは『神の選んだ道具屋』に入る事になった。理由はここでは杖から剣、鎧等まで一つの店で揃うからだ。楽なのは正義である。
「いらっしゃいませ! どういったものをお探しですかね?」
「初心者セット一式を、それと……」
「私には魔族がビビってちびるような強力なやつをお願いします!」
ジャンヌは欲張りすぎじゃないだろうか? 人の金だと思って好き放題注文をつけている。
「初心者セットはこちらになりますね、金貨十枚です」
「はい、じゃあこれで」
俺は財布から金貨を取り出し渡す。ホクホク顔の店主に対して俺は何の感情も抱かなかった。
「そしてお嬢さんの装備ですが……良いやつを見繕ってくるのでそこにかけてお待ちください」
そう言って在庫を溜めているであろうバックヤードに走っていった。
「そんな装備でいいんですか? ウチの村でもそれより良い装備で旅立つ人がいましたよ?」
「いいんだよ、どうせ基礎体力で傷なんて付かないんだから」
「ソルは化け物じみてますね……どっちが魔物なのやら……」
しょうがないだろ、神様が好き放題してくれたんだから。
「お待たせしました! こちらでいかがでしょうか? ドラゴンの素材を使用し付与魔法までついた防具一式! そして竜の牙から作られた刃こぼれしない剣! コレはなかなか無い品ですよ!」
「いいですね! ソル! 買っていいですか?」
「ああ、構わないよ。特に防具は買っておかないとお前に死なれても困るからな」
「ではこちら、金貨百枚になります」
「はいよ」
財布からじゃらじゃらと金貨を取り出す。財布のサイズの割に異様に入っている金貨を怪しんで商人はためつすがめつ金貨をにらんでいるが、偽物ではないと判断してニコニコ笑顔になって俺に頭を下げた。
「お買い上げありがとうございます!」
こうして初期装備は調えて町の宿で寝る事にした。幸いにもジャンヌが討伐依頼を受けるより宿に泊まる事を優先してくれたおかげで魔物相手に殺し合う事は避ける事が出来た。
部屋のランプを消し、眠ろうとしたところで脳内に声が響いた。
「『ライト』を習得しますか?」
『要らない』
とことんお節介な神様だなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます