第5話「能力測定」
「で、なんでジャンヌもついて来てるんだ?」
ギルドへ向かう道中でついて来たジャンヌに聞いた。
「え、だってソルはギルドの場所を知らないでしょ?」
よく考えてみた。脳内には村のマップが出ていて、その中にはギルドの座標もしっかりと出ている。だったらお供してもらう必要性は無いわけだが……
「そうだな、案内を頼む」
脳内のマップ機能など説明したところで到底理解はしてもらえないだろう。地理を知っているとか下手をすればスパイの類いか何かだと思われかねない。ここは一般人の真似をするべきだろう。
しばらく歩くと大きめの建物に着いた。見たことの無い文字が書かれているが、『フェムト村ギルド』と書かれているようだ。自動翻訳って便利だな……というかここフェムト村って名前だったっけ?
まあそう書いてあるのだからそういう村なのだろう。
「ここの村の発音は……」
『黙れ』
また余計な情報を与えようとする神様を黙らせてギルドに入った。余計なところでばかりスキルを付与したり情報をくれるな、逆に不便だぞ。
「いらっしゃいませ! 新しい勇者候補様ですか?」
まるでコンビニのような対応をしてくる職員。ギルドってもっと無愛想なイメージがあったがそうでも無いんだな。
「この人の能力測定をお願いします!」
後ろからジャンヌがそう宣言した。
「ああ、いつものですね、こちらへどうぞ」
そう言ってつつがなく案内をしてもらった。場所は演習場と書かれた看板の出ている部屋、中はそこそこ広く、中央に木偶人形が置いてあった。
「アレを破壊できれば合格です。魔法でも物理でも構いませんよ」
「こういうのってもっと細かく診断するんじゃないんですか?」
「はっきり言うとあなたみたいな方は多いのでいちいち全員を細かくチェックしていたら切りがないんですよね」
はっきり言う人だった。まあ俺もちょっと強いだけのただの人間なのだし、適当にやればいいだろう。
魔法か物理ね……
「『炎魔法』を習得しました」
「『氷結魔法』を習得しました」
「『雷撃魔法』を習得しました」
なるほど、これで壊せって事か……
俺は木偶人形の前に歩いて行ってそれを殴った。魔法を使えば壊せるのだろうが辺り一面が消え去りそうな予感がしたからだ。
木偶人形は砕けなかった。勢いよく殴ったので拳の形にくり抜かれて穴が開いた。力の方もそこそこ高いようだが破壊できていないのでセーフだろう。
ギョッとしている判定員が人形へ歩いて行く。
「おい! コアが吹き飛んでいるぞ!」
「嘘だろ!? アレはアダマンタイト製だぞ!」
「しかも壊れたって感じじゃない! 綺麗に穴が開いている!」
何か大騒ぎになりそうな予感がしたのでさっさと身分証をもらって出て行こうとしたところでさっきから俺を案内していた人が俺の手を握ってきた。
「あなたってすごいですね! 失礼しました! 私はエルといいます! 以後お見知りおきを」
「は、はぁ……」
「ちょっと! 私がお連れしたんですよ!」
「あら、勇者になれなかったジャンヌちゃんじゃない」
ジャンヌがイラついているのは読心術などなくても分かった。トラブルは避けたいんだがな……というかあの人形を壊せなかったんだから失格って事でいいじゃん。
「とりあえず身分証を発行してもらえますか?」
もらったらバックレるからな、この世界に飛ばしの身分証があるかどうかは怪しいが本物が手に入るならそれが一番だ。
「はい、勇者適性のチェックがこの後ありますので少々お待ちを」
「え? 人形殴って終わりじゃないの?」
エルさんは首を振る。
「どこかの誰かさんみたいに人形に傷一つつけられずに終わった人ならそれでいいんですけどね……ソルさんは実力があるようなので精密検査が必要です」
面倒なことになってしまった。壊せば終了だとばかり思って考え無しに殴ってしまったが、加減した方がよかったな。そして『どこかの誰かさん』と具体的に誰とは言われていないが、後ろで歯ぎしりしているジャンヌの顔を見て誰のことかは察した。
「では魔力と力の適性診断ですね。剣技で構いませんか? 得意な武器があればそれで望まれる方もいますが」
「構いません、実戦形式ですか?」
「はい、木剣を使った模擬戦になります。ギルドの審査担当が担当しますので少々お待ちください」
エルさんがそう言って俺の手を引いて試験場へと連れられていく。後ろから『これどうやって直すんだよ……』という悲痛な叫びが聞こえてきた、ごめんなさい……
試験場と書いてあるドアを出ると広いコートを柵で囲っただけの戦場があった。適当に済ませるとまた間違って倒してしまう可能性がある。今度は完膚なきまでに負けないとならない。多少は痛いが攻撃を受けるのは覚悟しておこう。
少し待つと大柄な男の人が酒を飲みながら試験場にやってきた。
エルさんはビクビクしながら試験官を紹介した。
「試験官のフィアーさんです。本気で戦ってくださいね」
「なんだあエル! 俺が本気を出さないと勝てないとでも言いたげだな?」
「いれ……あなたの実力はしっかり存じております。しかし今回の新人は……」
「あぁ! どうせ楽して生きていきたいって言うエセ勇者だろうが! そんなもんに本気を出すわけねえだろ!」
「図星だったことはさておき、あのー、早く始めてもらえませんか? 俺は勝てると思ってませんし」
「やる気のねえやつだな、痛い目を見ないと分からねえのか」
「それでは試験開始!」
エルさんのコールで実技試験が開始された。俺は上段から降りかかってくる木剣による斬撃を『まったく避けることなく』受けた。
「うわあ!」
大声でやられたというアピールの悲鳴を上げながら後ろに思い切りジャンプして吹き飛ばされた振りをした。
「え……?」
「く……なかなかやりますね……さすがは試験官、俺の勝ち目はなさそうですね」
「え……お前何を言って……」
フィアーさんの持っている剣はポッキリ二つに折れていた。
「さすがは試験官、俺をここまで吹き飛ばすとは」
フィアーさんを持ち上げておく。あくまでやったのはフィアーさんだ。俺は試験に負けた、それだけだ。
「お前、実はものすごく強くないか?」
「いえいえ、まさかそんなわけがないでしょう! フィアーさんがギルドの試験官として実力を示しただけじゃないですか!」
「お前、アレだけ吹き飛ばされた割にまったく平気そうじゃねえか?」
「え……あぁ……痛たたたた!!!! 遅れてダメージが入ってきました! さすがは実力者!」
フィアーさんはつまらなさそうに折れた木剣を投げ捨ててエルさんに結果を伝えた。
「アイツは本物の化け物だ。合格にしておくから絶対このギルドから排出したことにしろよ」
「はい!」
エルさんはニコニコ顔で俺に宣言した。
「ソルさん、合格です! すごいですよ! 攻撃もせずに合格した人って初めてですよ!」
「そ、そうですか……」
畜生! 負けたはずなのに合格したじゃないか! 明らかに俺が強撃で吹っ飛んだという絵面だっただろうが!
ジャンヌまで駆け寄ってきて俺に抱きついてくる。
「すごいよソル! さすが私が認めた人材です!」
「あなたは助けられただけと聞きましたが」
エルは呆れ顔でジャンヌに言う。まあそれはそうなのだが村の案内をしてもらって身分証のもらい方まで教えてもらった恩義くらいはある。
「では次は魔法の試験になりますのでここでもうしばらくお待ちください」
「あ、はい」
しばし待っているとローブを身に纏った女性がやってきた。魔道士が持っていそうな杖までしっかりと持っている。
「魔法担当のエリーと申します、私が防御陣を張りますのでそれをどれだけか抜けるだけの攻撃が出来たら合格と言うことです」
「わかりました、危なくはないんですか?」
エリーさんは微笑みながら言った。
「大丈夫です、私のシールドを打ち抜いた人はいませんから。十層の防御をどこまで敗れるかですね」
「そうですか」
なら適当に小さな魔法を打ち込めばいいな。
『シールド』
エリーさんが防御陣を張る。俺はなんの魔法を使えば良いか考える。
「『ヘルフレイム』を推奨します」
こんな時に脳内にアドバイスが響いてきた。明らかにやばめな魔法の名前なのだが……
『ちなみにそれを使うとあの人はどうなるんだ?』
「跡形もなく吹き飛ばすのに十分な魔法を提案しています」
却下だ却下! そんな死人が出るような魔法を気軽に使えるわけないだろ!
脳内で魔法のリストが浮かぶのでそれから使えそうな魔法を探す。ファイアーボールでも防御は抜けるとアドバイスが飛んできたのでさらに控えめな『プチファイア』を使用することにする。
『プチファイア』
火球が飛んでいってシールドにへばりつき燃えていく。パリンパリンとシールドが割れていくのだがエリーさんの顔色が青くなっている。どうやら思った以上の威力でビビっているらしい。
『ウォーターブレット』
炎を消すために水の弾を撃ち出す。じゅうと音を立てて火は消えたのだが……やり過ぎてバリアを貫通してしまった。
びしょ濡れになったエリーさんが泣きそうな顔になって言う。
「合格です……着替えてきますね……」
そう言ってエリーさんはすごすごと引き返していった。俺は調整って難しいと、手加減が出来るやつを尊敬に値すると考えていた。どちらにせよ、剣技は振るっていないし、魔術は火球を出して水で消火しただけだ。こんな程度の事で高ランク勇者などになれるはずも無い。
適当に身分証をもらって旅立とうと考えていた。まさか特別扱いを受けるはずもないだろう。今まで試験を受けた勇者候補だってこの程度はやっていたはずだ。勇者を名乗るのだからこの程度は出来てしかるべきだろう。
そう考えているとエルが俺を呼んだ。
「クロノさん、ギルマスが会いたいそうです……いえ、いやなのは分かりますが我々の立場というのも考えていただけると……」
どうやらものすごく嫌がっていたのが顔に出ていたらしい。何も特別なことはしていないのにギルマスに呼び出されるのはなんとも気まずいものだった。
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