第4話「勇者の出身地」
「ジャンヌ! お前はまた村の外に出て! あんたは勇者適性無いんだからおとなしくしてなさい!」
ジャンヌにげんこつをたたき込む女の人がいた。たぶん姉か母親だろう。しかし勇者適正ってなんだ?
「助かったんだからいいでしょ! それよりすごい人を連れてきたんだよ!」
「すごいって何が……」
「ソル! こっちに来て!」
俺が呼ばれたので向かったが、何か不穏な物を感じずにはいられない。しかし残念ながらそれについて脳内でアドバイスが響くことはなかった。
「なんだー?」
「はい、父さんと母さんにこの人を紹介します! 勇者候補のソルさんです!」
は? 勇者候補!? 何を言ってるんだ?
「なんの話だ? 俺はただこの村に来ただけなんだが……」
「あなた、ソルさんというの? 私はフィルというものですが、この子は勇者候補なんて言っているけど本当?」
「ええっと……よく分からないのでまず勇者候補ってなんなのか教えてもらえますか?」
意味が分からん。勇者って一人じゃないのか? 候補って一体なんなんだ? 頭の中が混乱しながら話を聞くが、脳内でそれを説明するスキルは習得されなかった。
「ここが勇者を何人も輩出している村なのはご存じですよね?」
いや知らんがな……勇者って何人も出てくるものなの? と言うかこの村から出てくるってなんなんだよ。
「勇者が何人も居るんですか? すいません、なにぶん遠くから旅をしてきたもので、その辺の事情には疎いんですよ」
そう答えるとジャンヌがもう一回頭をゴンとされて俺に説明が始まった。
「この村の周辺には強い魔物がいなかったでしょう? だからこの村が勇者の出発地として有名なんですよ」
「勇者って一人しかいないんじゃないですか?」
「いえ、王様が魔王と戦うために勇者を何人も呼んでいるんですよ。多ければ多いほどいいという事ですね。そして勇者が旅立つにはこの村が向いていると言うことでここから周囲の魔物を倒しながら強くなっていく人が多いんです。ですから、この村は勇者が旅立つ村となっているんです。まあ……勇者を輩出している村は一つではないんですが」
えぇ……勇者がそんなにいていいのか?
「すいません、なんで勇者がそんなに必要なんですか? 一人いれば魔王くらい倒せるのでは?」
そう、俺が勇者である必要は無いだろう。俺がいくら力を与えられているにせよ、そんな奴がいるなら俺に任せる神様も見る目がないの一言だろう。
「魔王軍は強いですからね、王様が勇者を血眼になって探しているんですよ。魔王を倒せば広大な魔族領が支配下になりますからね」
「はぁ……」
勇者を探しているって……だったら俺を転生させてまで世界を渡らせる必要なんて無くないか?
「ソルさんはそれをご存じないんですか? この王国の話は皆さん知っていると思うのですが……」
「申し訳ない、俺は旅を続けていたので世情には詳しくないんですよ」
旅と言っても世界間の転生だがまあ規模が大きくなっただけで旅とそう変わらないので嘘ではないだろう。
「勇者候補を出せば王国から補助金が出ますからね、しかも勇者様自身も結構な支度金をもらえますし、勇者をたくさんだそうとどこも必死なんですよ」
「はぁ……」
なんだその世知辛い話は。勇者が金目当てで行動するのか?
「娘が強い人を連れてきたというので勇者候補の方なのかと思ったのですが……」
「俺は勇者ではないですよ、どこからどう見てもただの人間でしょう?」
「ええ、そうですね」
そこへジャンヌが割って入った。
「まってよ母さん! ソルさんはゴブリン相手に余裕で勝ったんだよ? 普通の人のはずないでしょ!」
この流れは実力を測るとか言う流れになりそうなので遠慮したい。わざと負けようにもあの神とやらがろくでもないスキルを付与しかねない。これ以上の騒ぎはゴメンだ。
「ゴブリンって雑魚じゃない……そのくらい倒したからなんだって言うの? というかあなたがゴブリン相手に負けそうになるくらい弱いだけでしょ」
「そんなことないもん! 絶対ソルはすごい人だって!」
「しょうがないわねえ……ソルさん、お手間ですがギルドに登録していただけますか?」
「登録すると何かあるんですか?」
フィルさんはそんなことも知らないのかという顔をして言う。
「身分証がもらえますね、ソルさんは世間に疎いそうですが何か身分証はお持ちですか?」
「ええっと……」
ほら! こういうときだよ! こういうときに身分証を詐称するのがチート能力の役目だろうが!
「…………」
無言で返された。ここは自分でなんとかしろということか。
「無いです」
「でしたらギルドに行くしかないですね。身分証は教会などでも発行できますけど伝手はないのでしょう?」
「そうですね、ギルドに行きます」
こうして俺はギルドに行く羽目になった。
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