第2話「地図とスキル合成」

 俺は異世界にたどり着いてしまった現実を受け入れて、なんとか人との関わりを探そうとした。この世界に同じような人間がいるのか不明だがあの神がわざわざ送りつけた人材が俺なので地球と互換性のある人間がいると思いたい。


 しかしどうやってその人間のところに行くんだ……


「『世界地図』を入手しました」


 そういう声が響いた途端に脳内に地図の絵が浮かんだ。便利すぎるだろ神様。とりあえず脳内に世界地図を投影する。どうやら地球とそれほど変わった地形ではないらしい。現在いるのは地球では中央ヨーロッパ当たりになるであろう場所だ。


「神もヒマではないですからねー、テンプレで作った世界はそうなるんですよー」


 脳内で響いた地球担当の声を無視して頭の中で地図を回したり引っ張ったりしてみた。どうやらこの地図は某企業の地図のようにピンチイン・ピンチアウトが出来るようだ。


 自分のいるところの地図を拡大していくと地図から航空写真に切り替わった、いや、衛星写真なのかもしれないが、とにかく実写に切り替わった。


 一番近い町か村は……森の中か……


 わけのわからない世界の森の中など出来ることなら行きたくない。ある程度人のいる町に行きたいところだが、そうもいかない、いや……


「『転移魔法』の取得に成功しました」


 オーケー、コイツを使ってさっさと大都市に行って減らない財布で豪遊を……


 ふと、気になった。昔々のとあるゲームで転移魔法を使ったら石の中に送られて死亡確定というものがあった。


 丁度近くに石の塊があったのでそれを転移させてみる。地表から一メートルほど見えている岩を転移させて成功すれば人間に試してもいいはずだ。


『ジャンプ』


 石が消えてどこかに行った。周囲を見渡すと近くに不自然な土の膨らみが見えた。力のステータスにものをいわせてそれを掘ってみると中から石が出てきた。


 これは……うん、使わない方がよさそうだ。土の中で呼吸する能力とかももらえそうな気がするが、土の中で延々ともがくのは絶対にやりたくない。


「歩くか……」


 幾何学に王道無しとはユークリッドの言葉だっただろうか? それと同じように異世界での生き方にも王道はないのだろう。とはいえ王様どころか神様に力をもらうことがチートであることは理解しているがな。


 森といえば、遠くに見えるあそこか……なんだか酔っぱらって死んだのに死ぬ前に食べていたものが思い出せない。この世界でまともなものが食べられるか不安なので向こうで死ぬ前に腹一杯食べておけば良かった。


「『無限生命力』を取得しました。エネルギーの摂取無しで行動可能になります」


 俺の気持ちの一歩先を読んで能力をくれる神様、なんでもくれれば感謝するって思ってないかな?


「しゃーない……歩くか……」


 愚痴っても誰が聞いてくれるわけでもない。さっさと森の中の村にたどり着いてまともな食事と睡眠が取りたい。


 足を動かすと運動不足だった前世からは想像もつかないほど軽く体が動いた。これが神様のくれたものなのか、あるいは不健康だった前世と違って健康的に生きている人間なら皆こうなのかは分からない。


 あっという間に森の前まで来たが不用意にはいっていいのだろうか?


「『地形探知』を取得しました」

「『気配探知』を取得しました」


「神様、もう自分で全部やれよ……」


 頭の中に響く言葉に文句をつけてみるものの反応は返ってこなかった。どうやら今は監視していないらしい。俺に面倒事を押しつけやがって……とはいえその恩恵は大きいものであるし深く考えるのはよそう。


「気配探知を使用」


 頭の中に位置関係がそのまま放り込まれる。前方何メートルとかで示されても森の中じゃ分からないんだがな、もう少し親切にならないのか……


「『気配探知』が『世界地図』と連携されました」


 その声が響くと共に頭の中にこの辺の地図が出てその上にピンで魔物や人間の位置が示される。便利だな、万能の神とはいいご身分だ。


 だったらこんな小間使いのようなことを任せるなよと文句の一つもいいたくなる。


 はた迷惑なことだがとりあえずこの地図を参考にさせてもらおう。あたりには……


 魔物のピンがいくつか、人間のピンが一部に大量に固まって刺さっている。人間の多いところが里だろうな。ではそこを目指して進めばいいという話なのだが……


「これ、気になるよなあ……」


 人間のピンが一本、魔物の集団の中に刺さっている。魔物使いか何かだろうかとも思うのだが人間につかず離れずしている時点でその線は薄い。


「襲われてる……か」


 逃げるのは簡単だ、その集団を避けて村に向かっていけばいい。しかしだ、その人間が村の住人であるという可能性もあるだろう。おそらく村であろうそこの住人がが危ないのを見過ごしたと知られてしまえば村からすれば面白くはないだろう。しかも俺には助ける力があるときている。力があるのだから助ければいいという単純な話ではないか。


「やれやれ……行きますかね……」


 俺は地図上の魔物の集団に向かって進んでいった。

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