魔王討伐を頼まれたのでチートをたくさんもらおうと神にごねたら世界最強に転生しました、討伐したら元に戻してやると言われたので魔王軍から全力で逃げます
スカイレイク
第1話「勇者になる前に死んでしまいました」
「勇者よ……お聞きなさい……」
ん……? 何があったのだろうか? さっきまで酒を飲み歩いてベロンベロンに酔っていたのは覚えている。さては酔ってしまいアル中で病院にでも運ばれたのだろうか?
恥ずかしくてたまらないが節度を失うほどに酔っていたはずだから不思議はない。もしくは酔い潰れて警察のお世話になったのだろうか? だったら今居るここは留置場かどこかだろうか? 会社に言い訳するのが大変なので病院であって欲しい。
そもそも無茶な要求をして平気な顔をしている上司連中のせいで前後不覚になるほど酒を飲んでいるのだ、そのくらいは情状酌量をして欲しい。
それにしてもここは明るい。留置場だとすればもっと薄暗いイメージがあるのだがここは真っ白な空間で壁が光っているように見える。やはり病院説の方が正しく思えてくる。それでも十分に会社員としてマズい事態なのは確かだが、飲み過ぎで病院に運ばれたことは解雇要件としてはなり立たないはずだ。
とりあえずこの声に答えなければ意識不明として危うい扱いを受ける可能性はある。なんとか答えないと……
「俺は……ちょっと名前は思い出せないんですけど、意識ははっきりしています」
どこからか聞こえてくる声はそれに答える。
「分かっています。あなたは急性アルコール中毒でゲロを吐いてそれが喉に詰まり死んだのです」
死んだ? 何を言っているんだ? 俺は確かに今ここに居るし、意識だってある。さっきまで酒を飲んでいたのは確かだがアル中で死んだ? そんなはずが無いだろう。
俺は声を出している人を仮に病院の医師として先生と呼ぶことにした。
「先生、俺の意識はしっかりしています。大丈夫ですから家に帰してくれませんか?」
その声に出所不明の声は気にせず続ける。
「あなたは現世に嫌気がさしていましたね? それは悲しいことですが、私がそれを介抱してあげましょう。転生に興味はありませんか?」
何をこの先生は言っているのだろう? 俺はヤバい病院に緊急搬送されたのだろうか? 突然転生とかいわれても困惑しかない。
「あなたには魔王を倒して頂きます。そのための力は与えましょう」
「あの……ここはどこですか? あなたは一体誰ですか?」
「私はこの世界の神です。知り合いの神から世界の救済を押しつけ……お願いされてその協力のためにあなたをここに呼んだのです」
押しつけられたのか……この神あんまり頭が良くないな。神は万能であるというがそんなことも無いようだ。もっともこの神がペテン師でないとするならばだが……
「俺が死んだという証拠は?」
「自分の体を見てください、エーテル体になっているでしょう」
そう言われて自分の体を見る。淡く光っていて明確な自分と周囲との境界が見えない。ぼんやりとした光の物体として体が存在している。これは……マジで死んだのか?
「ええと……俺は死んだということでいいんでしょうか?」
あまりにも災難ではないか? やけ酒を飲んで死亡するなんてあまりにも救いがないじゃないか。
「あなたは確かに死にましたが安心してください! いい話があります!」
お、救済措置もあるのか? さすが神様! そうだよな! 善人には救いがないとならない。
「あなたに望む力を与えますので、頼まれた世界にいる魔王を倒して頂きたいのです。もちろんお礼はいたします! 魔王を倒したあかつきには地球に好待遇で生き返らせましょう!」
おお! それはありがたい! 一度死んでも復活のチャンスがあるなんていいじゃないか!
自称神は俺の反応に満足がいったのか条件を提示してきた。
「まずあなたにはその世界で最強の力と魔力を与えます。必要な力があれば随時付与しますのであなたが私にお願いをすれば自由にその場で能力が手に入ります」
よし! それはもう勝ったもう同然じゃないか! 引き受けない理由が無いぞ!
「あなたは苦労してきましたし、これを引き受けなくても天国に行くことは出来ます。ですが受けて頂けると私の加護を自由に受けられます、いかがですか?」
「もちろん受けます! 転生とか歓迎しますよ!」
「ありがとうございます、では無事魔王を倒して頂くようお願いしますね」
そこで再び俺の意識は途絶えた。
目が覚める。二日酔い特有の頭の痛さは無い。やはり先ほどまでの会話は俺の妄想だったのだろうか? しかし目の前には……草原だ。
明らかに都市部にそんな土地は余っていない、ここまで広い土地がフリーだったら新しい建物が建っているだろう。あるいは田舎に吹き飛ばされたという可能性もあるが、目の前に存在している不定形の半固形物体が動いていることの説明はつかない。
これは……いわゆるスライムというやつだろうか? スライムといえば雑魚のイメージはあるがとにかく目にしたことの無いものが実写で存在している、おそろしい。
ぴょんとスライムが俺に襲いかかってきた。飛びかかってきたものをたたき落とそうと手を振るとスライムは爆発四散した。あとには何も残っていない。しかし確かにスライムのような物体を倒した感触は手に残っている。
俺がそれについて考えいていると脳内の思考に割り込んでくる存在があった。
「無事転移できたようですね! 最強の力はいかがですか? スライム相手でもその力が分かりますよね?」
脳内に響くその声に俺は心の中で反応した。
「神様……なんですか? じゃあここは本当に……」
「異世界ですね。私の説明通りでしょう? 魔王軍の中央に転移させても負けない強さは与えましたが急にそんなところに送られても困ると思って辺境に送りました!」
何を言っているんだこの神は……自分でやればいいだろう事を俺に押しつけたことになる。はた迷惑な話だが死ななかっただけでも御の字だろう。急性アル中でゲロが詰まって死亡という現実は回避できたのだ。
「私は直接干渉したら怒られるんですよー……まあ神の世界にも立場やメンツがありましてねー……」
「心を読まないでください!」
「あ、私は地球も管理しているので全部は読まないのでご安心を! とにかく魔王討伐お願いしますねー」
「あ! ちょっと神様!」
その心の叫びに反応は無かった。無茶振りをしておいて一切の説明責任を放棄して俺から離れてしまった。どうしろっていうんだよ!
認めよう、ここは地球ではない異世界だ。そこで俺は力を持ってしまった。こんなものをどう使えばいいのかという力があるのだろう。俺はこの力を使って魔王を倒さないとならないようだ。
先立つ物は必要だな……
「無限金庫を取得しました」
脳内にそんな言葉が響いた。『無限金庫』? なんだそれは?
俺の服はいつもと変わらない服だが、そのポケットに突然違和感が出た。まるで何か入っているかようだ。手をポケットに突っ込むと小さめの袋が出てきた。その中を開けてみると金貨が詰まっていた。
「金貨……だよな?」
恐る恐るそれをとりだしてみるがずっしりとした重量感がそれを金属であると保証している。金をこんなに持ったことはないので本物か基準がないが確かに金貨ではあると思える。
金貨を掴んで取りだしてそれを見る。確かに刻印は見たことの無いものだが金であることは確かなようだ。
それを再びその袋にしまおうとして違和感を覚えた。全部を掴んで取りだしたはずなのに袋の中に抵抗感があった。
手を離して袋を覗くと明らかに取り出す前と同じ量の金貨が入っており、一切減っていないようだった。
「これが無限金庫?」
その言葉に帰ってくる言葉はなかったが、確かにそれが異常なものであることは確かだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます