第一章~二〇〇六年十一月~十二月~
第1話 ルーキーインタビュー
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「ニュースター・アスリート 第14回 高槇哲(フィギュアスケート)」
日本全国の若き逸材を訪問するこの企画の、今回の主役はフィギュアスケート・男子シングルの高槇哲(16)だ。祖父も両親もスケーターというスケート一家に生まれ育ち、中学生にして〇五・〇六年度の世界ジュニア選手権を連覇する快挙を成し遂げた驚異のニュースターだ。
ジャンプ・スケーティング・音楽表現の全てにおいて高い評価を受けるオールラウンダーであり、シニアデビューした今シーズンでは早くもグランプリシリーズ・カナダ大会で銀、フランス大会では男子シングル最年少で金メダルを獲得しグランプリファイナルへの進出を決めるという快進撃ぶりだ。三年後のバンクーバー五輪金メダルの期待が早くもかかるニュースターに、東京の江東アイスセンターで話を聞いた。
練習の前に取材に応じてくれた高槇選手は身長一六〇センチ。トップスケーターでありながらポルノグラフィティやバンプ・オブ・チキンを愛好し、練習や移動の合間を縫って学校の課題を片づける私立明鏡高校スポーツ科の一年生だ。
―――高槇選手、フランス大会エリック・ボンパール杯優勝とグランプリファイナル出場決定、おめでとうございます。
「ありがとうございます」
―――シニアデビュー戦のスケートカナダでいきなり銀、ついでフランス大会で金メダルを獲得されたわけですが。
「そうですね、カナダではまだ少し動きに硬いところがあって、僕でも緊張するんだなってまずそのことにびっくりしましたね。フランスではわりとリラックスして挑めて、だから金メダルを獲れたんだなって思います」
―――自信に満ちた感想ですね。昨シーズンは年齢制限でオリンピックに出場できませんでしたが、もし出ていればどうなったと思いますか?
「銅メダルだったと思います。金銀のあの二人には勝てなかったと思うから。コンパルソリだけなら金メダルの自信あるんですけどね。でもオリンピックの緊張感というのは他にはないものだと思うので、早く体験してみたいです」
―――頼もしいですね! それでは、高槇選手にとって今までで一番の会心の演技を教えてください。
「この前のフランス大会のフリーです。優勝したというのもあるけど、それ以上に、選手たるもの一番最近の演技が一番出来が良いという風でなければいけないと思ってるので。前回のフリーより今回のショート、今回のショートより今回のフリー、そして今回のフリーより次の試合のショートの方が良い滑りっていう風に、毎回レベルアップしていきたいですね」
―――そんな高槇選手にとってフィギュアスケートとはなんでしょう。一言で言えますか?
「義務、ですね」
―――義務?
「いや、義務というのは練習して上手くなることに対する義務であって、もっと深い意味では、僕今までは自分自身のことをフィギュアスケートそのものだと思ってたんです。でも最近、違うんじゃないかって。むしろフィギュアスケートそのものが僕なんじゃないかって。練習や試合で滑ってる時だけじゃなく、陸上トレーニングの時でもああ今素の自分になってるなあって感じるんですけど、学校の体育の授業の時にそう感じることはなかったんですよ。でも、これもトレーニングの一環だと思うようにしたら、体育の授業の時でも、素の自分になってるって思えるようになりました。
―――とてもユニークな考え方ですね! 各界の優れた選手に何人もインタビューしてきましたが、そういう風に考えている人はいませんでしたよ。
「そうなんですか? 案外、そう感じてるのに自分で気が付いてないだけじゃないですかね」
―――それでは次の質問です。この競技における自分の長所とは、なんだと思いますか。
「それはたくさんありすぎて一つに絞るのはすごく難しいけど、あえて言うなら、僕が僕であることかな」
―――ありがとうございます。最後に、今シーズン後半に向けての抱負を聞かせてください。
「もちろん、ファイナル、全日本選手権、世界選手権、全部で優勝することです。このうち全日本は絶対優勝したいです。今年の世界選手権の日本の男子シングルは枠一名なので」
―――最後に、あなたが考える、フィギュアスケーターにとって最も大切なものとはなんだと思いますか?
「(即座に)体力!」
怪物の進化は止まらない。天才はその精神構造さえ規格外なのではないかと思わせるほどの超個性的な受け答えは、早くも大器の予感をさせるに十分だ。とにかくあらゆる意味で、今までの日本のフィギュアスケート選手にいなかったタイプと言えるだろう。
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