No.1

やった!やったよ!手に入れた!このためだけにお母さんにど土下座して、前回のテストで平均90点をとり!昨日の夜10時から並んでようやくこの時が来たよ!くぅぅぅう!やったぁ!!!今日は土曜日でお休みだったのが効いたよ!これが平日だったらお母さんに「学校行きなさい」って言われてたよぉ。


 私はとあるVRゲームのプロモーションビデオを見たときからこれは欲しいとお母さんに直談判していた。幸い私のお母さんもお父さんもゲームとか漫画とかのサブカルチャーに対してとても理解のある人でお父さんに至っては青春をすべてゲームに注ぎ込み一時的に1つのゲームの世界ランカーにまで上り詰めた人だった。お母さんはたしなむ程度とか言ってるけど同人作家で年に一回夏のコミックマーケットに向けて書いていたりするコミケでは有名人の1人でもある。


 話は戻して、私はお母さんに直談判を決行しお母さんからは条件を出された。


『今度の終期テストで平均90点を出すこと。』


 という私の中ではとてもとても難しい事を条件にされた。別に私は成績が悪いとかいうことではない。大体平均74点というところを彷徨っている。しかし今回は90点と来たものだから私は必死に勉強した。他国の言語は今になっては無いも同然となっている。どうしてかと言うと中学生に上がる時に病院にてちょっとした手術を受けることを義務付けられているためである。


 その手術は数分で終わり、副作用は今となっては無い。脳内に特殊なチップを埋め込むらしく、それによって同時通訳が可能とされておりしかもGPSが仕込まれているらしい。オプションとして眼球の方にも手術を行うとインターネットが見られるようになるらしいが大体の人は同時通訳とGPSくらいで十分なため今なお携帯電話は進化を続けている。


 そういうわけで英語と言う教科は既に消え去っている。しかしその分他の強化に回されているために内容は広く深くという方針に変わっている。紙のテストは無くなりすべてタブレットでテストを受ける。それが今の日本の普通。そして今回私はとてもとても頑張った!テストの始める1カ月前から勉強を始め4教科で平均92.3点という数値を叩きだした。一番低かったのは社会だった。でも数学は100点を記録した。テストが保護者にメールで送られてから私が帰るとお母さんもお父さんも妹もよろこでた。私も嬉しかった。


 そんなわけで事前から準備を重ねて重ねてようやくこの時が来た。いやぁ結構高かったし月額もかかるけどお店の前を見る限り相当な人気というか期待作になっているのは確かだよね。ルンルン気分で家に帰る。



「たっだいまー♪」

「あ、お帰り、どうだった?買えた?」

「もっちろん!ばっちりだよ!」


 家に帰ると妹がトイレから出てきた所だった。私は手に持っている袋を掲げて妹に見せる。それを見た妹が感心するようにうなずいていた。玄関から入り、一旦自分の部屋に寄ってソフトとコートを置いた後に洗面台に行き手洗いうがいをしてリビングに入る。


 リビングに入るとお母さんがソファーに座りテレビを見てくつろいでいた。


「ただいま~お母さん」

「おかえり、ゆき」

「あれお母さん描いてないの珍しいね」



 お母さんはこの時期大体唸りながら生活している。そして閃くとご飯中であっても作業部屋に行ってしまう。そんなお母さんがゆっくり過ごしているのはとてもとても珍しい事なのでついつい聞いてしまった。



「まぁね。今回の本は結構簡単に描けたわ。全90ページにも及ぶ大作!ん~~~~!!!お母さん最強!今回は余裕を持って印刷屋さんに提出できるわ♪」



 ......このテンションまさか私と同じく徹夜しましたね?仲間ですね!私も寝てないからかテンションが上がってますよ!


「ゆきもきちんと買えた?」

「もっちろん!ちゃんと買えたよ!」

「よかったわね。......お母さんはちょっと寝てくるわね。」

「私もそうしようっと」


 私とお母さんはそのままリビングを後にし、それぞれの部屋に入り仮眠を始めた。その夢の中で私はまだ体験していないファンタジー空間に胸を躍らせて探検しているっぽい感じのだった。夢だからすぐに忘れちゃったんだよね。でも楽しい夢だったのは確かだともう。......起きて時間を見たらまだ15時で4時間くらい寝たかな?......やけにすっきりしてるしもういいか。それより!ソフトを開けて設定しようっと!




 袋からデータの入っているチップを保護しているケースを取り出し、私の生体認証をすませる。生体認証はお店で買う時にも済ませてある。そうしないと盗まれた時が大変だからね。そしてこれにも秘密があって転売を企んでも生体認証のせいで行えない。購入者のデータが登録されているため大量に購入しても転売目的だとバレテ下手したら警察のお世話になる可能性が高いためハイリスクノーリターンになっているらしい。しかし例外もありそれはちょっとした紙を提出しなきゃいけないらしいけどそこまで詳しくは知らない。


 さて、VR機通称『アナザー』にチップを挿入する。そうするとインストール中と出るのでその間に私は部屋にあるパソコンに電源を付けて【THE Fantasy】のホームページに飛び、動画サイトの私のチャンネルを開設した。特に実況プレイとかするつもりはないけど無言でとか戦闘を振り返るためにやっておこうと思って開設した。


 ホームページにある専用掲示板を開き、時間を潰していく。そうするといつの間に夕飯の時間になり、お父さんも帰ってきて皆で夕飯を食べる。今日の夕飯はお母さんの機嫌と言うかテンションが高かった影響かオムライスにポトフ、サラダとなっていた。半熟オムライスウマ―!さっすがお母さん!めちゃうま!


 お腹がいっぱいになって幸せ気分になっているけどお風呂に入らなきゃ。それでやるんだぁ~......楽しみだなぁ。ソファーでだらりとくつろいでいるとついつい口角が上がってしまう。


「お姉ちゃん。顔、顔」

「顔?」

「だらしなくなってるよ」

「ふぇ?!」


 妹に指摘されたら止めねば!おそらく本当にやばい顔になってたんだろう。......あれ?夏花、お風呂入ったのかな?顔が赤いしパジャマになってる。


「あれ?お風呂入った?」

「入ったよ。お姉ちゃん入ってきなよ」

「うん、ありがと」


 妹の夏花に言われて私はお風呂場へと向かって行く。お風呂に入りさっぱりしたところで一旦リビングに向かい時刻は10時20分牛乳を飲んで一息つける。何で牛乳か?身長がもう少し欲しいからだよ!もう胸は十分というか育ち過ぎだから、後は身長が欲しいかなぁ。


 少しくつろぎ、歯を磨いて自分の部屋へ行く。私の部屋はあんまり綺麗では無い。それでもきちんと掃除はしているし整頓もしているからほどほどかな?私はベッドに置いてあるアナザーを手に取りかぶる。昔のフルダイブはいろいろと物々しかったらしいが私の持っているのは主流となっているバイザー型。ベッドに寝転がり、電源を入れデータが入ったかを確認する。入っていたので起動する。けどその前に空調を快適にしておいてっと。そうして私は【The Fantasy】の世界へと入って行くのだった。





「......サービス開始前です。キャラクターメイキングを行いますか?Y/N」


 あっ......はい。まだサービス前なんですね。でもキャラクリエイトはしようっと!私は「Y」を押してキャラクリエイト画面へと飛ばされた。




 キャラクリエイト画面は既にVR空間になっており私の身体と思われる模型とその隣に白っぽい透明の髪色と少し眠たそうな目をしたスーツを着こなしている1人のお姉さんも立っていた。この女性はAIかな?最近のゲームのキャラメイクだとAIがヘルプみたいな役割を果たすところが多いんだよね。


「よくいらっしゃいました。あなたのお名前をお聞かせ願いますか?」【プレイヤーネームを設定してください。】


 お姉さんが話すと私の目の前にキーボードが出現した。えっと名前名前......雪にちなみたいからスノウ?アイス?アイスノン?かき氷?シャーベット?う~ん。アイスノンで!キーボードで【アイスノン】と入力し、『【アイスノン】でよろしいですか?Y/N』Yで!


「了解しました。アイスノン様、私わたくしはプレイヤーサポートAI【ダイアモンド】です。よろしくお願い申し上げます。」

「こちらこそよろしくお願いします!」

「それでは早速ではありますがアイスノン様の身体を設定いたしましょう。まずは種族からになります。分からない事がございましたら質問していただけると幸いです。」

「はい!」


 私の目の前にはさまざまな種族の名前が出ている。


メジャーな人間種人間


人間種エルフ


人間種ドワーフ


人間種ギガンテス


人間種獣人(犬、猫、狐、熊、栗鼠、鳥、虎)


人間種竜人




 となっておりタップしてみると見本となっている私の身体の見本が変化する。


 けど何か物足りない。そう思ってさらに下へスクロールすると『警告、この先は人外種になります。尖った性能となっておりますのでお気を付けください。』と書いてあり、さらに下へスクロールすると



人外種:スライム

人外種:ゾンビ

人外種:スケルトン

人外種:悪魔

人外種:天使

人外種:妖精

人外種:蝙蝠

人外種:兎

人外種:マンドラゴラ

人外種:狼

人外種:蜘蛛

人外種:ゴブリン



 となっており、なんとなくそそられる。人ではない種類!なんとなく楽しそうに感じる。人間種の事はすっかり頭から抜けており、人外種から選ぼうと決めた。1つづつタップし姿を確認する。


 スライムは無し、動きにくそう。かといってアンデッドっぽいゾンビとスケルトンもなぁ。見た目があまりよろしくない。そして蜘蛛は無理!生理的な問題だけど蜘蛛はあかん。すべてを試して面白そうなのは蝙蝠か兎なんだよね。.......ん~~!蝙蝠にしよう!決定!色は......黒で!




「種族蝙蝠ですね。それでは少しこちらに寄ってもらえますか?」

「はい」


 言われたとおりにダイアモンドさんの方へ行く。この時歩くと言うか浮くと言うか不思議な感覚なのはどこのVRゲームでも同じ。そして近付くとダイアさんが私のおでことキャラクターのおでこを触ると光があふれて私は目を閉じる。次に目を覚ました時私は視点がおかしい事に気付く。あれ?落ちてる?!


 どうしたらいいのか分からずに翼?腕を豪快にバタバタとふる。それでも落ちて行く私のアバター体、しかしダイアさんが手のひらで受け止めてくれた。よ、よかったぁ。


「あ、ありがとうございます。」

「いいえ、それでは次にスキルの設定をしましょう。ですがその前に部屋を少し変えましょうか。」


 ダイアさんが指パッチンするとすぐに普通の家のリビングのような風景に様変わりした。




「スキル選択は時間がかかるのでゆっくりお決めください。質問があればおっしゃってくださいね」

「はい。あの、ところでなんですけど」

「はい。何でしょうか?」

「ここと現実の時間の流れってどうなってますか?」


 これを一応聞いておきたかった。なんでかと言うとたくさん悩みたいけれど現実の時間とどれだけ差異があるのかは聞いておかないと寝る時間も判別できないからね。


「そうですね、大体12倍速させています」

「12倍速ですか?」

「はい。12倍速です」

「あ、ありがとうございます」

「いえ」



 12時間って大丈夫なのかな?ま、まぁとりあえず選ぼうっと。私の前に現れたスキル群は主に3つに別れている。1つが体術系、1つが魔術系、1つが便利系となっている。そして種族ごとに特別なスキルがあるらしい。それを見てみると。ステータス画面が表示された。




______


【アイスノン】種族:蝙蝠バット

性別:女  種族Lv1

HP:55/55

MP:15/15

STR:E

VIT:G

AGI:G/D

INT:F

DEX:H

LUK:F



スキル

・吸血 Lv1(種族スキル)

・飛行 Lv1(種族スキル)

・夜目 (種族スキル)

・逆立ち耐性 Lv1(種族スキル)

・噛みつき Lv1(種族スキル)

・HP自動回復 Lv1(種族スキル)

・超音波 Lv1(種族スキル)


_______



 ......なんだこのステータスは?!よ、弱くない?!で、でも種族スキルは多いなぁ。う~ん蝙蝠の身体で体術は難しそうだよねぇ、あ、そう言えばどれくらい取っていいんだろう?


「あの」

「はい」

「スキルってどれくらい取れるんですか?」

「そう、ですね。蝙蝠ですと種族スキルで7なので一個か二個で留めた方が良いかと思います。」

「えっとそれは何でですか?」

「そもそもたくさんのスキルを持っていたとしてもそれを上げるためには相当な時間がと経験が必要です。それをたくさんこなすのは難しいからですね。あ、あと鑑定と策敵に関してはこの後のチュートリアルにて入手できますのでそこも配慮していただければと思います。」

「なるほど有難うございます。」

「聞きたい事があればぜひどうぞ」


 む~だとすると1個かなぁ。魔法系では無いけど魔法を取ろうかなぁ。蝙蝠だもん目指すは吸血鬼!ヴァンパイアだよ!あ~で、魔法は風にしようっと。飛行の手助けになればいいんだけどそもそもMPが少ないんだよね。どうしたものか。......風魔法にしようか!4分くらい悩んだ気がするけど結局風魔法だよ!そしたら風魔法を選択して決定っと。これで大丈夫。


「ダイアさん終わりました!」

「はい。お疲れさまでした。それでは次にチュートリアルに進みたいと思いますが時間はよろしいですか?」

「えっと今何時ですか?」

「10時46分です」

「あれ、全然時間経ってない。」

「それはそうです。という事は平気ですか?」

「あ、はい大丈夫です。」

「では移動しましょう。ついでに飛行の練習にもなりますよ」

「あ、はい」


 飛行って言われてもどうすればいいんだろう?と、とりあえず羽ばたいてみる?バサバサ......動けん!蝙蝠ってどうやって飛んでるの?!む~


「飛行!」


 ......何も起こらない。だよねぇこれまでこういう人型以外になれるVRなんてなかったもんねぇ。ダイアさんは私を見て微笑んでますよ。最初は無表情だったのに!くぅー!バサバサバササバサ。お、お、少し浮いたこれを後は重心移動でっとお、お、おぉ~~!!う、浮いた!よ、よぉ~し!このまま!


 私の移動はものすごく遅かった。超遅かった。でもダイアさんはそのまま待っていてくれていた。というかその扉は一体いつからあったの?気付かなかったんだけど。体感で30分くらい頑張ってた気がする。のろのろとようやく扉まで到着した。でも少しだけコツをつかんだ気がする!さっきよりはうまく動けていると思う!例えるならば、怠けものがカタツムリ位になったくらい!亀?亀は意外と速い。


「お疲れ様です。ではこちらの扉の先へどうぞ」


 ダイアさんが開けてくれた扉の先は蒼い空に緑の草原が広がっている空間だった。ふわりと風が入ってくるとなんだか少しだけ羽ばたくのが楽になった気がする。風の力ってすげー!風の力にはしゃいでいる私とそれを見守るダイアさんという構図がなんか恥ずかしく、ダイアさんのところへ羽ばたいていた。


「楽しんでいただけているようで嬉しい限りです」

「はいっ。空を飛ぶのってこんなに楽しいんですね。」

「では、チュートリアルを続けましょうか」

「はい。」

「では、こちらをどうぞ」


 ダイアさんの手のひらには丸い何かの石が乗っている。一体これをどうすれば?ついつい首をかしげるようなアクションを起こす。するとダイアさんは


「これは【スキル石】といってこれに触って手順を踏むとスキルを入手できるようになるレアアイテムです。」

「ほぇーこれに触ればいいんですね?」

「はい」

 今の私は蝙蝠、う~む、いっそ手に乗っちゃうか。


「あの、ダイアさん」

「はい」

「手に乗ってもかまいませんか?」

「えぇ、大丈夫ですよ。」

「有難うございます。」


 ダイアさんの手に乗り羽で石に触る。すると『スキル鑑定、策敵を取得するためにMP 5を消費しますが問題ありませんか?Y/N』と表示されたので「Y」を押す。するとピカッと石が光って『スキル鑑定、策敵を入手しました。』という表示が出てスキル石は消えて行った。


「無事に入手できたようですね。では実際に使ってみましょう。鑑定はMPを消費すること無く使用できます。策敵はMPを1消費します。蝙蝠ですのでかなりMPが少ないと思いますので計画的に使用してください。」

「ぁ、はい」

「では次に行きましょう。次は鑑定のチュートリアルになります。とはいっても鑑定と言うか鑑定と思考していただければ大丈夫だと思います。」

「なるほど」

「まずはこの下に生えている草から鑑定していきましょう。」

「はい」


 私は羽ばたき、ダイアさんの手から飛び立つ。そして地面へゆっくりと降り立ち、草に向かって「鑑定」と言ってみた。すると


『鑑定結果:原草:レア度1』


 と表示された。なるほどなるほど簡単だね。てっきり何かしらの説明文でも出てくるのかと思ったけど。辺りをきょろきょろして所構わず鑑定をしてみる。結果は言うまでもなく全部先ほどと同じだった。だから回数で何かが変化するわけでもないのかな?


「そろそろよろしいですか?」

「あ、はい。大丈夫です。」

「次に策敵のスキルです。策敵はMPを消費するのでお気を付けください。」

「はい。」

「ではまず、ノンアクティブを複数出すので策敵を行ってみてください。」

「はい。」


 ダイアさんが何かしらの操作を行った後、こちらを見た。もういいのかな?では策敵!......お、ぉお!なんかなんか......なんかすごい!こう、こう!......ん~、なんとなく分かるみたいな感じ。気配を感じる感じ。


「今、ここに出ているのは『ミニスライム』という種類です。」

「ミニスライムですか?」

「はい、もっとも安全なスライムで物理も魔法も効くと言うスライムですね。街の子供のお小遣い稼ぎに良く使用されるスライムです。」

「はぇ~......ちょっと見てきてもいいですか?」

「はい。大丈夫です。」

「では少し行ってきます。」


 羽をパタパタ動かしてミニスライムの反応があるところまで近づく。ミニスライムは特に動くことなく、そこにいるだけ。鑑定しても


『鑑定結果:ミニスライム Lv 1:日向ぼっこ中』


 と出されるくらい。というか日向ぼっこしてるのね。......かみ、噛みつく?ためらいつつ私の目の前にいる緑色の小さいスライムに噛みつく。すると牙?歯?からじゅわーっと青リンゴの味が染みわたってくる。......うっま!この青リンゴジュースうまー!ついついミニスライムがポリゴンとなるまでチューチューと吸っていた。他のはどんな味なんだろ?そう思ってまた策敵を行いミニスライムがいる場所へと飛んでいく。それを4回くらい続けるとさすがにお腹もたぷたぷになっていて。頑張ってダイアさんのところへ飛んだ。ダイアさんはとても良い笑顔をしており、こちらを観察していたんだと思う......恥ずかしい!!


「おかえりなさい。美味しかったですか?」

「はぃ」

「The Fantasyの世界で吸血行為をするとランダムで味が変わります。覚えていると良いかもしれませんよ。」

「......そう、なんですか?」

「はい。蝙蝠種は攻撃手段も体力も貧弱ですからね。そのくらいの楽しみは必要でしょうと決定されたみたいです。」


 な、なんと!そ、そんなに貧弱だとは。


「でも蝙蝠種の攻撃の中では最も強力ですからね。使わないという手はないと思いますよ。」

「そうなんですか」

「はい。では実際に体験していただきましょうか。次は戦闘チュートリアルです。まずはラビットから召喚しますね」

「はい!お願いします!」

「では【召喚:ラビット】」


 召喚されたラビットは毛皮がとてもふわふわでまるっこく、額には立派な角が生えていた。しかしアクティブモンスターではないのか、こちらを見ても草に夢中になっており襲ってはこなかった。......ど、どうやって戦おう。ステータスを一回開いて考える。風魔法をタップ出来ないので詳細を念じると魔法が一種類だけ出てきた。しかも私のMPでも撃てる魔法だったのでそれを使ってみようっと。


「『ブリーズ』......ん?風が吹くだけ?......あ、すごい空中にいやすい!ってちがーう!」


 ラビットも急なそよ風に気持ちよさそうに目を細めるだけである。......この風どこから吹いてんだろう?......いやいやいやそうじゃないよね?!これでMPを5消費するんだけど?え、まじ......。か、噛みつくしかないじゃないか!


 すごい和んでいるラビットに近付くと結構でかい。いや私が小さいのか......う~む、ま、まぁ噛みついてみようっと。パタパタと近付くとラビットもこっちに近付くとこちらを警戒し始める。う~む、周囲をぐるぐると回ってみるものの視線も身体もばっちりこっちを向いているしなぁ。......背中に取りつく事が出来ればイケる気がするけど。一回高く飛んでみるか。


 ぱたぱたと高く飛んでみる。私のことを見失うか草を食み始めてくれればいいんだけど。それでもだめならもっと工夫するしかないんだよなぁ。とりあえず私の視界に収まるくらいの高度まで上がってこれた......正直きついです。上昇するための羽ばたきが辛い。


 上空で体感5分ほどたったので少し移動してうさちゃんに攻撃します!突貫!羽をたたみ、速度を上昇させていく。......あれ?これ地面にぶつかったら死ぬんじゃない?あ、あ、あぁぁあああ!!!





 結局決死の突撃を行いラビットに激突した瞬間私のHPは消え去り、私がポリゴンになった。それでもラビットもポリゴンになったのを確認できた。.......もっと戦い方を変えなきゃいけないなぁ。私がリスポンするとダイアさんの隣だった。ダイアさんはこちらを見てちょっと顔を赤くしていた。......え?もしかして笑ってました?というか今も笑ってないですか?ねぇ、こっち向いて?


「ぶふっ......し、失礼しました。ふっふぅふ」

「.............」


 今も笑ってる!まったく、私でさえ今のはひどかったもんなぁ。これ他の人って何を選択しているんだろう?


「他のプレイヤーの方々は人間種ですよ。大体15%程度が人外種です。まぁもう少し減るかもしれませんけど。......人外種強いんですけどね」

「あ、そうなんですか?......もういいんですか?」

「なにがです、ふっふぅ」

「むー、じゃあアドバイスください!」

「そうですねぇ」


 私の言葉に結構真剣に悩み始める。私としては超音波というスキルが鍵になるかもしれないと思ってるんだけど活用法が分からない。蝙蝠と言えばエコーロケーションだっけ超音波で閉鎖空間を観測したり反響をうまく使うっていう事は知ってるんだよね。


「そうですね。超音波を一定の場所に集める事が出来れば勝機は見えるかもしれませんね。そもそも蝙蝠は夜行性なので昼間なのは辛いかもですね」



 ......おい、それは忘れてただろ。そう言う目でじっとダイアさんを見ても知らんぷりしてるし!この人最初はめちゃくちゃクールビューティーかとおもったけど全然違うじゃん!私よりの人だよこの人......人なのか?まぁ人でいいか。


「では夕暮れに時間を変えまして、ではもう一度ラビットを召喚しまして。はい。どうぞ」

「あ、はい」


 少しだけ色がなくなった感じがする。FPSの現代戦によくあるサーマルスコープと今の色が混ざり合っている感じがする。暗いところは白と黒で、他は色付きで。これならいける!まずは超音波だよね。出現したラビットに向かって口から出すような感じですると「キュィィィィン」という音がかすかに聞こえる。



 これを収束させると口の形がほぼ変わらないが少しでも収束をしてみる。するとラビットは耳をピクピクさせて周囲をうかがい始める。それが突如として私の居る方向にもうダッシュをして来る。このままじゃまずいかもっと!もっと大音量で!意識するだけでも結構変わる。さっきまでは「キュィィィン」だったのが「キィイイイイィィンン!」と音量が大きくなり私自身のコントロールがうまくいかなくなり始める。う~~!そろそろ弱れ!



 その願いが通じたのかラビットは急にバタンと倒れた。鑑定を行うと


『鑑定結果:ラビット:気絶中』


 となっており、今のうちに血を吸っちゃおう!気絶中になっているラビットの頭上にひよこが等間隔に上下に動きながら回っている。これほど分かりやすい気絶マークは無いなぁ。絶対効果音は『ぴよぴよ』だって。さてさて、ではではいただきます!首らへんを狙って噛みつき、血を吸い取る。このラビットちゃんは......イチゴ味かな?なんか薄い感じがする。ラビットの血を吸ってるとラビットがポリゴンになり消滅する。......ふむ、これは戦闘経験が乏しすぎるのが問題だな?


「お疲れさまでした。どうでしたか?」

「疲れました。......これ厳しくないですか?」

「まぁそうですね。.....これが何回も進化を続けると相当な強さを持てますけどね。あ、あと設定はきちんと見ておいた方がいいですよ。セクシャルガードとかミニマップの表示も選べるので」

「それは......早めに言って欲しかったです。」



 設定画面を開き、まずはミニマップを表示させて次にセクシャルを決める......蝙蝠なのに決める必要ある?あるか、一応胸とお尻と肩を設定しておいて後はその時その時で決めよう。ま、これで完成でしょ!



「さて、戦闘のチュートリアルも終わりましたがまだまだ時間はございます。どうなさいますか?」

「えっと、これって連続使用には?」

「もちろん含まれています。ですので11時になったら休憩し12時ちょっと前から開始していただければ良いのではないでしょうか。向こうの5分でもこちらでは1時間が経過いたしますし」

「ちなみに今は何時ですか?」

「ただ今10時54分です。」

「あ~~、じゃあ11時に休憩はさみます。」

「それまではどうされますか?」

「.....他のモブと戦闘は可能ですか?」

「可能です。ラインナップとしましては『ラビット』『スライム』『ウルフ』『バット』『ホース』『人型』となっています。」

 


 え~~......どうしよう。まずはスライム言っとくかなぁ。人型はどう考えても難易度高いでしょ。



「じゃあスライムで」

「分かりました。【召喚:スライム】では、お楽しみください。」




 まずは鑑定!鑑定結果は?


『鑑定結果:スライム:活動中』


 やっぱり情報量がどう考えても少ないと思うんだ。鑑定のレベルが上がれば増えるのかなぁ?まぁまずはスライムを食べよう!スライムにパタパタと近付くとスライムは触手を1本体内から生やし、周囲を警戒し始めた。さすがスライム。ミニスライムとは一味違うね。だがしかし!超音波を覚えた私に勝てるかな?超音波!......あれぇ?スライムの表面が震えるだけで効果がなさそうだなぁ。そのまま噛みついて食べるか!突撃!......もちろん回り込んでね。




 回り込んでスライムにカプリと噛みつく。チューっと吸うと触手に元気がなくなり、私をはがそうと頑張っていた触手は体内に消えて行った。味はねぇリンゴジュース!ほぇーうっまいねぇ。じゅるじゅると啜っていると限界が来たのかポリゴンになって消えて行った。うへー、お腹タプタプだぁ。これって結構お腹がきつくなるなぁ。美味しいけどねぇ。




「お疲れさまでした。少し休憩しますか?」

「はいぃ、します」


 どこからか出したテーブルの上にぐったりと伸びる。......ダイアさんの血を吸うとどんな味なんだろうか?そう言う気持ちでいすに座っているダイアさんを見ているとこっちを見てニコッとしたのち手を指して出してくれた。いいの?マジで?!


 ちょっと躊躇しつつ人差し指にカプリとスキルを発動せずに牙を立てる。皮膚の下に牙がちょっとだけ入りそこから牙を通し少しだけ吸う。ん~~~、これはレモン味?ん~~?グレープフルーツ?ん、お腹いっぱい。ぷはっと口を離し、ダイアさんの顔を見てみる。ダイアさんはニコニコとしていた。


「有難うございました」

「いえ、大丈夫ですよ。そろそろ11時になりますが一回ログアウトいたしますか?」

「はい。お願いします。」

「ではログアウト処理を行います。またのログインをお待ちしています。」




 その言葉を最後に私の頭にバイザーの存在感が出現する。戻ってきたのかな。手をにぎりしめ、蝙蝠の時と今を調整する。なんとなく違和感がある。翼を動かす時は腕と肩甲骨を同時に動かすようなイメージで飛んでいるからかな?少しずつ動き出してみる。けれどもすごい体験だった。本当に蝙蝠になって飛んでたなぁ。......しかし物が大きく見えるなぁ。運営さんにちょっと提案しなきゃ。パソコンの置いてあるところまでちょっとふらつきながら辿り着いた。パソコンを起動し、ホームページを開き、投稿箱に書き運営に送る。しばらくはちょっと休もう。現実と仮想現実の差が出てる。






__________


 ~一方そのころのクリエイトフィクション~


「ん?主任!投稿箱に投稿が来ましたよ!」

「なに?それは今までのようなバカが書いた奴じゃないだろうな?」

「違いますね。えっと『蝙蝠でプレイしたのですが現実との差異が出て、なにか解決策をゲーム内で作っていただけないでしょうか?』だそうです......あ~~!!確かに!」

「おい!まさか確認できていたのに放置していたのか?!」


 午後11時を回ってもいまだにスーツ姿で会社にいる。主任と呼ばれた男性が怒鳴っている。十分なテスト期間も修正期間も設けたというのに修正点を忘れているのだから。



「管理アクセス、今から12時までに緊急メンテナンスを行う!技術班の手助けをしてくれ」

『了解。速やかに通達。通達完了。メンテナンス、リハビリルーム作成開始。終了時間は11時29分です。』

「よし!この時間を短縮させろお前ら!」


 主任は部下に喝をいれ、自分もデスクトップに向き合い、時間短縮のためにプログラミングを始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る