四 地獄の重量

(二)-3

 山岡の報告の要点は二つだった。

 東征軍参謀・西郷吉之助が先発して江戸に来て、話し合いに応じてくれることになった。

 そしてもう一つ、総攻撃が今日から数えて三日後の三月十五日に決定された。

 数万の屈強な兵士が、凶暴な破壊欲を燃やして現在江戸を三方から取り囲んでいる。興奮しきった彼らの鼓動と息づかいが、この寺にいてさえ聴こえてくるような気がする。

「安房守どの」

 伊勢守はやや沈んだ声を出した。

「日々の奔走によるご尽瘁のほどは、この伊勢、重々お察し致す。されど、安房守どのなればこそ明日のお役目がかなうのです。大公儀三百年に連なるすべての徳川武士の命と思いがその御身に流れ込んでいると思し召し、どうか、今一度ご奮起下されたい」

 麟太郎は暗い目をしたまま力なく微笑した。

 明日の自分の談判にかかっているのは、江戸の町と人民と徳川の誇りばかりではない。

 もし下手な交渉をして江戸総攻めを阻止できなければ、どうなるか。

 恭順する相手に攻撃したという新政府の行動が、旧幕府の勢力といまだ新政府には手つかずの東北諸藩を憤激させる。さらに外国も介入し、泥沼の内乱が勃発するかもしれない。

 自分の責任の内訳を改めて考えると一瞬意識が遠くなりかけたが、大きく息を吸って気を取り直した。

「なに、薄気味悪いことは悪いが、そうひでえことにもなるめえよ。山岡くんが地ならしをしてくれたおかげさ」

 伊勢守の表情もゆがみ、口角がわずかにつりあがった。

 心中に湧き起こった感情をとりあえず処理するために、そういう笑みにも見える表情をとらねばどうしようもなかったのだろう。

「今となっては、あれを駿府にやったことを後悔しております」

 自分からふった話題ながらやりきれなくなり、麟太郎は半身をそむけた。

「それではな」

「上さまには、お目通りされてゆかれないのですか」

 こわばった笑みをすでに解いて、大きな目を見ひらいて伊勢守が訊ねてきた。

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