太のまんぷくグルメ紀行 (3)

 ――昨年末のある日の朝 JR秋田駅


 昨夜は、ひとりでやきそば祭りを開催した太。

 そのまま横手のビジネスホテルに一泊した。

 朝はゆっくり過ごして、そのままJR奥羽線で秋田入り。


(スタバとかもいいけど、秋田に来たらアソコに行かなきゃ!)


 太は、目当ての喫茶店へ向かった。

 秋田や岩手で店舗展開している地元のコーヒーショップだ。

 今朝はここで朝食を取る様子。

 JR秋田駅前の店に入り、今時っぽくも落ち着いた店内でモーニングを待つ太。


「お待たせしました、『エッグベネディクトのダブル』です」


 太の前に置かれたのは、ワンプレートモーニング。

 そこには美しい世界がひとつのお皿の中に広がっていた。


「わぁー……見た目にもキレイだなぁー……」


 週末と祝祭日限定で提供されるモーニングメニュー。

 その中でも一番豪華なのが、この『エッグベネディクト・ダブル』である。

 厚切りハムと厚切りベーコンがそれぞれ乗ったマフィン。

 その上にポーチドエッグ。

 それに加え、ジャーマンポテトにサラダもついている。

 炭水化物・脂質・タンパク質、そして食物繊維もきちんと摂取できる、朝しっかり食べたい人には最高のメニューだ。

 これにセットドリンクがつくので、太は一番ベーシックな『ドリップコーヒー』をチョイス。


「食べるの勿体無いけど……いっただっきま~す♪(ぱくり)」


 香り高いコーヒーを楽しみながら、オシャレなモーニングを楽しむ太。

 太も、たまにはこんな普通の食事を楽しむのだ。


 あれよあれよという間に、お皿の上の世界は太のお腹に収まっていく。

 ズズズッとコーヒーをすする太。


「美味しかった~、し・あ・わ・せ♪」


 満足したのか、太は満面の笑みを浮かべた。

 男の子にとっても、結構なボリュームだ。

 太のような食いしん坊でも十分満足いったのだろう。


「腹ごなしには、ちょうど良かったな」


 腹ごなし?

 結構なボリュームだったはずだが……


「よし、そろそろオープンだ! 行くぞ!」


 コーヒーショップを出て、意気揚々とJR秋田駅方面へ向かう太。

 一体どこへ向かうのか……


 ◇ ◇ ◇


 ――JR秋田駅 駅ビル レストランフロア


 時間は午前十一時。

 オープンしたばかりで、客は誰もいない。

 太が一番乗りだ。

 他には目を向けず、迷いなくある店に入った。


 比内地鶏の店だ。


 鹿児島の薩摩地鶏、愛知の名古屋コーチンと並ぶ日本三大地鶏のひとつである秋田の『比内地鶏』。

 脂肪分が少なめで、その分淡白でありながらも旨味の詰まった肉質が特徴だ。

 秋田まで来て比内地鶏を食べないわけにはいかない。

 太は使命感に燃えていた。

 そんな使命は無いが。


「はい、どうぞー」


 ゴトリ


「す、すげぇ……」


 太の目の前に、秋田のすべてが並んでいた。

 比内地鶏のつみれ汁、じゅんさいの酢の物、畑のキャビアと呼ばれるとんぶり。

 そして、もう一品。

 太は目を細める。

 眩しい。

 黄金色に輝く料理が眩しいのだ。


『究極親子丼』


 鶏肉はもちろん、卵さえも比内地鶏を用いた一品。

 太は、カッと目を見開き、箸を手にする。


「比内地鶏なんかに負けるものか! いただきます!」


 オマエは何と勝負しているんだ。

 その勢いのまま、まずはつみれ汁へ。


「(ずずず……)うっは~……お腹に染み渡る……」


 比内地鶏の旨味がたっぷりと出たつみれ汁。


「蛇口ひねったら、これが出てくるようにならないかな……」


 なりません。

 そして、丼を手に『究極親子丼』を口に運ぶ。


「(ぱくり)うっわ……だし汁じゃなくて、鶏肉と卵の味がこんなに濃い親子丼、初めて食べた……」


 普段食べている親子丼とは、まったくの別物だった。

 そのままガシガシとかっこみ始める太。

 もう我慢できなかった。

 その親子丼は、舌の上でも、お腹の中でも、光り輝いている。

 小鉢やつみれ汁で味覚を変えつつ、親子丼、そしてすべての料理を完食。


「秋田のすべて、美味しかった! し・あ・わ・せ♪」


 味もボリュームも大満足の太。

 太は、店を出た。


 もう思い残すことはない。


「さよなら、秋田……」


 次の街へ向かうため、駅へ向かう太。


「あっ!」


 太は、突然足を止めた。


「ボ、ボクは、なんて愚かなんだ……」


 うなだれる太。


「秋田のすべてを食べた……? いや、すっかり忘れていたよ……」


 悔やむ太の視線の先には、看板があった。


 稲庭うどんの店だ。


 そう、秋田は『稲庭うどん』も名物。

 新庄と横手の間に位置する湯沢市が本場で、讃岐うどんなどに比べると少し細め、その製法から滑らかな食感が特徴のうどんだ。


 太は、本能のままに店に入った。

 駅ビルのレストランフロアで、はしごする男。

 あまり聞いたことがない。


「はい、ふたつの味が楽しめますからねー」


 せいろの上に美しくまとめられた純白のうどん。

 そして、醤油ベースのいわゆるうどんのつゆと、胡麻味噌のつけ汁。

 ふたつの味を楽しめるメニューをチョイスしたのだ。


「う、美しい……」


 ツヤツヤに輝くうどんに心惹かれる太。

 お米の次は、うどんに求婚。

 異世界モノで言えば、人外のキャラに恋するヒューマン的な感じか。

 いや、違う。

 単に節操がないだけだ。


「いっただっき(ずるるるるる)」


 いただきますくらい言え。

 稲庭うどんのシルクのような食感は、そのまま素晴らしい喉越しにつながっていく。


「ずるるるるる」

「ずるるるるる」

「ずるるるるる」


(うどんは飲み物だ!)


 炭水化物に脳をやられたのか、どこかのタレントのようなことを考える太。

 十回もすすらないうちに、完食。


 まさか、うどんを追加するのか……?

 いや、そんな様子はない。

 さすがにお腹いっぱいなのだろう。


 そんな太の様子を見て、店員さんが慌ててやってくる。


「遅くなってすみません、追加の『比内地鶏炊き込みご飯』です」


 太は、オプションメニューを追加していたのだ。

 炊き込みご飯をかっこみ始める太。


「うっま~い♪」


 昼までにすでに三食を平らげた。

 太に限界はあるのか……?


 太の食い倒れひとり旅は続く……



 

 ◇ ◇ ◇


 <作者より>


 作中で登場したご当地グルメは、すべて実在しています。

 作者はどれも実際に食べており、美味しさを確認しております。


 その土地ならでは味。

 機会がございましたら、ぜひご賞味ください。



 ナガハマコーヒー

  (秋田・岩手に店舗展開しているコーヒーショップ)

   公式WEBサイト:

    http://www.ncafe.co.jp/

   食べログ(モーニングメニューはこちらを参照):

    https://tabelog.com/akita/A0501/A050101/5000144/


 秋田比内地鶏や

  (比内地鶏/秋田のご当地グルメ)

  ※WEBサイトが見つかりませんでしたので、

   食べログの紹介ページです。

   https://tabelog.com/akita/A0501/A050101/5004860/


 稲庭干饂飩 八代目 佐藤養助

  (稲庭うどん/秋田・湯沢のご当地グルメ)

   トピコ店(駅ビル):

    https://www.sato-yoske.co.jp/news/inaniwa-blog/25300/

   秋田店(メニューが豊富):

    https://www.sato-yoske.co.jp/shop/akita/


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